遥かな星のアドルフ

和紗かをる

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第6章「第二次タンネンベルク会戦」

6-3

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「おい、いい加減にしようぜ?そんな小娘捕まえてお前ら本気か?」
「本気だ!それになんだお前こそ、課長だからってこんな女の子を横に立たせやがって、羨ましい、いやけしからん、首都の兵站を担う課長がっ!」
「あのなぁ、その子は大事な客人なんだよ、首都兵站課とミュンヘンとの物資の調整とかよ、それにそのお嬢さんだって立派に兵站将校様だぜ?」
「ミュンヘン?貴様もしや」
「ああ?元々参謀本部の暴走のおかげで仕方なく俺たちゃ迷惑こうむったんだぜ、全く馬鹿も大概にしろよ?」
「あの~ハンスさん?」
「なんだよリッティちゃん?」
「・・・・・・一応私も兵站将校なのでちゃんは、ちょっと」
「ああ、悪いな、んで?」
「私って今、人質ですよね?」
「ああ、まぁそう見えるな?」
「なんでこうなったんですかね?」
「さてねぇ」
 リッティはいま、大柄な将校一人に腕を取られ、もう一人からは脇腹に拳銃を添えられている。
喋っている将校は、リッティから顔が見えない。
 一応ユリウスが行う拳銃の授業をこっそり覗いていた彼女は、彼らが安全装置を外していないのが分かっていたので、比較的まだ冷静だが、今の状況がいまいち良く分かっていない。
 三日ほど前、アドルフに自分ももっと成長したい、役に立ちたいと直訴したら、首都兵站課のハンス課長の下で修行するように言われてやってきたのだ。それからアドルフとリッヒ、それにハンス課長の悪巧みに協力する形で修行を行っていた。 
 そして本日、やっとその段取りが終了したことを報告しに首都兵站課長の部屋を訪れたら、応接席にこの将校たち三人が座っていたのだ。
 なにやら険悪なムードだったので、彼らの背後で静かに気配を消していたら見つかって、このざまだ。
「でも、あの時、私の事ばらしたのハンス課長ですよね?」
「ああ?そうだっけか、まっ本当だし、あっ!そこにお前らに反対する軍人が気配も無く背後にっ!って言うだろあの場面なら?」
「言いますか?なんで、当然みたいに言いますか?大体、反対ってなんです?この人たち階級章見る限り、そこそこ偉い人たちですよ?」
「おっリッティ嬢ちゃん、そこまで分かるとは勉強してるねぇ、そっ、こいつらは陸軍親衛旅団の中では特に肩身の狭いおじさま将校ご一行だ」
「?そうなんです?」
「くっ・・・・・・」
 将校の一人が、苦虫を噛み潰したような表情で頷く。
 親衛旅団はその旅団長の影響から、女性の意識も気位も、なにより発言力も相当に強い、ドイツ連邦一の特殊な部隊だった。
 実力、行動力、補給、装備の質、練度、どれをとっても最精鋭、それにファンクラブを中核とした鉄の結束は、内情を知らない上層部から見たら頼りがいのある部隊にしか見えないだろう。
 しかし、首都兵站課で、親衛旅団の兵站の面倒を長年見てきたハンス中佐は、その中に宿る歪みを充分承知していた。
 そう、親衛旅団配属のファンクラブを中心とした勢力から、旅団配属の男共は、とにかく内外問わず圧迫の対象となっていたのだ。
 彼女達の言うことを素直に聞けば大過なく日々を過ごせるが、もし少しでも反抗しようものなら、まず人間関係に噂話等で亀裂が入り、親族にも怪しげな情報が届き、付き合ってる彼女には逃げられ、一途な想いを寄せていた相手はいつの間にかイケメンに奪われる。それでも階級を盾に抵抗を試みると、性差別系の隊内裁判を仕掛けられ、地位も名誉も奪われる。これは新人兵に対するいじめ行為では決してない。佐官を拝命する中年以上の古参にも当てはまる話だ。軍官僚として出世街道をひた走りにしてきたいわゆるエリートが新兵と変わらない年齢の女性達に顎で使われる部隊。
 そんな抑圧された軍隊生活を送りながら、彼らは苦渋を舐めつつ、この騒動の後には、親衛旅団を二つに割り、外部にも居るファンクラブを吸収した、本当にファンクラブ百パーセントの旅団と、それ以外の旅団に分ける方針である事を副官でもあり、クラブの会長補佐でもあるフォード大尉から説明され、それを希望にして今回動いていた。
「はぁ?良く分かりせんが、大変なんですね、それでなんで私が人質なんです?」
「黙ってくれお嬢さん、俺たちは今回の義挙を成功させなければならないんだ、その為には親衛旅団以外の部隊に今回の事を広めるわけには行かない、だから他人の部隊、特に今回の騒動の発端になったミュンヘンの奴らには知らせるわけには行かないんだ」
「そう、なんですか?でも、アドルフ達、この事とっくに知ってましたよ、ねぇハンス課長?」
「えっ・・・・・・」
「あ~あ、簡単にばらしちまいやんの、つまんねぇ~なリッティお嬢ちゃん、もうちっとこいつらで遊びたかったのに、まっいっか、さて、お外に百名以上の武装したむくつけき男共を配置しているんだろうが、どうするよ?お前ら、今なら俺が間に立って、ナシつけてやるぜ?どっちにしろお前らは、あの親衛旅団の気狂い姉さん達と離れられりゃどうでもいいんだろう?」
「ああ、しかし出来るのか、お前にそんな事が?」
「俺に?出来るわけがねぇな、そんな事、だがよ」
「ええ、皆さん安心してください、アドルフなら大丈夫です、だって私はアドルフに救われたし、ミュンヘンの住民の皆さんだって救われました、アドルフなきっとやってくれますから!」
「だとよ、どうするよお前ら?」
「・・・・・・」
 男たちはそのままリッティから手を離すと一人が外に合図を送り、残りの二人はその場、応接室のソファーに座りなおした。
「つまりは交渉中、継続って話か?ずるいねぇ、まっ判る話だけど」
 彼らとしては表立って女性たちに逆らうのは、これはもう本能に染み付いたレベルで出来る事じゃない。だが、ここでリッティを人質にとって、その先、どうするのか?と言われても良い案は無い。アドルフ引き入る黒の家旅団が事態解決に向かっているようだし、それに目の前の男、ハンス・ゲオルグ・ローエングリン首都兵站課長が後押ししている作戦があるみたいだ。
 答えはその作戦がうまく行くのかいかないのか、それで決めてもいいだろう。それまでは説得工作を行っていたと言い訳をする。
 彼らはそう決めて腰を下ろした。
「じゃあ、私はお茶でも入れますか?」
「ああ、頼む、とびっきり熱い奴な、どうせこいつらとの話は長引くからよ」
「はいっ♪」
 かくして完全武装の親衛旅団三個小隊は、この首都の騒動が解決するまで、首都兵站課の建物から動くことは無かった。
 それはたった二人の人物がなしえた事として、ドイツ連邦正史に記載されることになる。
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