遥かな星のアドルフ

和紗かをる

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第6章「第二次タンネンベルク会戦」

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空から落ちる雷を、地面から空へと発生昇り竜の様にしたら、こんな音になるんだろうな。これはこの星に生きる者たちが初めて聞く音だ。
 そしてこの音を出した子を作ったのは私たちだ。
 レヴァークーゼンの郊外、ミュンヘンからもベルリンからも等距離に離れている田舎町の外れに、この研究所と言うか鉄工所と言うか列車開発局が出来たのは大戦中だった。
 その頃のスタッフも今は現地採用の親方衆ばかりだが、それでもやるだけの事はやったし、成果も多分でてるはず。
 軍服に白衣。
 ぼさぼさのロングヘアにぐるぐり眼鏡をした、熊猫種の彼女は自らが生み出した物をもう一度見上げる。
 最初はここに史上空前の巨大列車砲、口径八百ミリという化け物を現出させる為に、この場所は作られた。だが、大戦の敗北や、技術的な困難。大量破壊兵器としての列車砲開発へのポーランド合衆国の圧力。
 その他もろももろで、開発責任者はころころと変わり、ついには軍開発局で完全にお荷物になっていた彼女、ミーシア・アロイス技術少佐に局長のお鉢が回ってきた時には、ここは左遷対象となっていた。
 着任してみればほぼ完成している列車砲の車両部分が二両、開発が困難で中途で諦められた口径八百ミリの砲身。完成させる気の無い職員と、支払い不履行で憤る地元の親方衆。
 左遷先として誰もが認める、そんな職場だった。
 ミーシアはこの列車開発局局長になった際に、まずは計画の下方修正からはじめた。
 現実的でない夢みたいな大口径砲ではなく、その半分くらいの物で、実際の戦争に有用な列車砲を作る事にしたのだ。
 幸い、だれもこの列車開発局で何かが作れるとは思っていなかったため、計画の変更は簡単に上層部を通過した。
 ぎりぎりの予算の為、新しく何かを作ることはできず、まずは八百ミリ砲身を備え付ける予定だった車両を解体。一両を完全に分解し、素材にして売却、親方衆への支払いに充当させた。
それでも長年の不払いには足りなかったが、ミーシアの努力を認めた親方衆はとりあえずは彼女への協力を承認した。
 ついで、残った一両分を分解、四両の車両に組みなおした。
これは元から八百ミリの砲身を載せる為には四両分のエンジンと車両が必要だったので、ただそれを元に戻しただけだ。
 予算との戦いの中、一番苦労したのが砲身の問題だった。如何に口径を小さくするとはいえ、列車砲である。そこらの大砲と同じ百ミリ、百二十ミリとかと一緒では意味が無い。そこでミーシアは四百五十ミリを目安に開発を行う事とした。
 一つ目と二つ目の砲身は簡単だった。作りかけでスクラップとなっていた八百ミリの砲身を溶かして、四百五十ミリの砲身を作成した。代替品は無く、砲身寿命である二百発を撃ってしまえばそれで終わりだったが、それでも作り上げる事に意味があるとして製作した。
 二両の開発が終了し、今度はその砲弾を手配することが重要課題となった。四百五十ミリでも充分化け物な砲弾で、どこにも取り扱いが無い。
材料さえあればミーシア率いる技術陣には作ることができたが、肝心の材料が無い。悩んだミーシアはそこで一つの噂を仕入れることになる。
 ミュンヘンのある部隊が補給無制限をいい事に、かなりあくどく武器を集めていると。
「これだ!」
 ミーシアは、即座にミュンヘンに飛んだ。
 ミュンヘンに到着したとき、噂の黒の家旅団は、半分の戦力がハンガリーで戦闘中だったらしいが、そんな事は技術少佐であるミーシアには関係がない。
 即座に黒の家本部に突撃し、頭の固そうな眼鏡青年と技術論で意気投合した後、妙に笑顔が魅力的で女性でもほれ込んでしまいそうな少女に許可を貰った。
 結局その砲弾の材料が届いたのはつい先日、発送先はいつもこちらの要求を高飛車に断る首都兵站課だった。
 どんな態度であれ、研究開発に協力する相手は良い相手。
 早速砲弾を作成し、本日の実射訓練となったわけだ。実射する標的はあの眼鏡青年の指示でタンネンベルグ高原近くで、最大射程になるが、それも試験だしと割り切って、ミーシアはわが子の晴れ舞台を見守る。
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