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第1章 勇者の始まり 初クエスト
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うん、心の底から叫んでみた。
だが、俺の声に反応する相手はいない。
そもそも、手首と足首の痛みのお陰で、全体的な感覚が鈍くしっかりと叫んでいるかも怪しい。
勇者のスキルで、毒や魔法の類は殆んどレジスト出来るので、今の状況は異常だ。
実際勇者スキルに目覚めてからは、風邪もひかないし、剣の訓練で間違って飛ばした自分の指も、そんなに時間がかからずに生えてきていた。
そんな体の上、勇者スキルを得た時に、同時に触媒として触覚と嗅覚の五十パーセントを失っているので、永続的に痛みが続く今の状況は、この世界に生れ落ちてから初めての激痛と言える。
耐えられるか、と聞かれたら無理だと答えたい。
答えたところで誰かが、あ、じゃあ鎖とか弛めましょうか?とか言ってくれる訳ないしな~
大体、この世界に転生してきてまだ二十年にもならないんだぞ。
その前はある程度平和で、表通りぐらいは安全な日本で四十年近く生きて来たんだぞ、そんな俺が痛みに強いわけないじゃないか。
だから、ごめんなさい、もうなにがどうしてこうなったのかわかりませんが、許してもらえませんかね。
こんな拘束くらい勇者の力で引きちぎってやろうとか、そんな事を思っていた自分も居ました。
けれど、手首の輪っかを引きちぎろうとするとさらなる激痛が走り、すぐに諦めた。
頭の中で白い点がわんわんとスパークして、鈍化している筈の痛覚が危険レベルで神経を攻撃してくる。
日本に居た頃の痛みに例えると、爪切り失敗して生爪はがした時の五倍くらいか・・・。
とにかく痛かった、すぐに諦めた。俺はあきらめの良い日本人だ。
いや、今は異世界人か・・・。髪は水色、目は緑とか漫画仕様だもんな。因みに肌の色は白色系とでも言えばいいのか、割と白い。
身長はぎりぎりで人類男種に分類される175cm以上。体重は判らん。この世界って体重計がないんよ。女の敵だから絶滅させられたのかもしれない・・・。
ああ~だからか、絶世の美女とか周りの貴族様が言っていた女性が、俺から見たら控えめに言ってぽっちゃり系引きこもり肌荒れ症候群にしか見えなったのは。
体重計が存在していなければ、自分が太っているのかも自覚できないものな。
前の知識では、太っているがイコールで美人の基準だった時代もあったらしいけど、その時代も、もしかしたら体重計は無かったのかもしれない。
だが、断言しよう、そんなことはどうでもいい。
今の俺の状態には、切実で一番の問題がある。
俺がこの状況になってからどれだけの時間が経過したか判らないけれど、人間は生きていれば絶対に発生する生理現象がある。
空腹もそうだし、睡眠もそうだ。
だが、しかし、俺が言いたいのはそういう事じゃない。これは人としての尊厳の問題だ。
「あ、あの~誰か、トイレいかせてくれませんか~」
先ほどの叫びとは大きく異なり、小さな声で言ってみる。
大きな声で言うと、膀胱が暴行状態に刺激されて、ズボンの前の方が随分と残念な事になりそうだからだ。
ちょっとだけなら・・・と言う誘惑も先ほどからどんどん強まっている。
だが、我慢。
我慢のダムが少しでも決壊すれば、少量ではすまず、すべてが放出されてしまう事だろう。
それは勇者としても、人としても、ありえない。
おもらし勇者。
この歳でそれは勘弁してもらいたい。日本でもアラフォーだったし、こっちでも完全に成人の年齢だ。
一生ものの心的外傷になる事、間違いない。
ガチャリ
この音以外で表現することが難しいドア開錠の音と共に、俺の左手側から光が漏れた。
室内は薄暗かったし拘束状態だったので、左手に扉がある事にも気づいていなかった。因みによく見てみると、前と右手の壁には扉がついていないことを確認した。
さて、誰が出てくることやら。
仮にも、いや仮じゃない王国公式勇者を拉致監禁するなんていったい誰の仕業だろうか。
多分、金か権力で、王国戦士辺りを共犯者にしてこの事態を作ったのに違いない。
妹姫様が俺に逆らうはずがないのだから。
「勇者様、ご機嫌如何ですか?」
朗らかな、上流階級にありがちなゆったりとした物言い。
羽毛をあしらった扇子の様な物を使っても隠し切れない頬肉を揺らして、俺の前に現れたのはこれも王国公認で俺の婚約者となっている姉姫様の巨体?肉塊?だった。
第一俺より3~4歳は若い筈なのに、扉を通る時に体を斜めにした上で屈んで腹の肉を圧縮しないと通れないとかどうよ?
これって王家の緊急の隠し通路とか設計した人、泣きそうだよな。
この姉姫様が一番に逃げたら、途中で詰まって王族全滅とかになりそうだ。
「はぁ機嫌?いい訳ないよなぁ~、それともお前は自分がこんな事されて機嫌が宜しくなる変態さんなんですか~」
出来る限りの嫌味を言葉に乗せて言った直後に、俺は後悔した。
失敗した、俺の言葉に姉姫様は体全体と、巨体に似合う巨乳を小刻みに揺らし、顔を真っ赤にして・・・、そう顔を真っ赤にして、よ、ろ、こ、ん、で、いらっしゃる。
忘れていた、こいつは真正のマゾ系女子だった。
先ほどの言い方は、姉姫様にとってご褒美でしかなかった。
彼女に最初に出会った頃は、たしか違法盗賊団で悪魔使役を行っていた団長が嫌がらせをするんで、キレてぶっ殺した後だったか。
だってさぁ、ちょこっと盗みに入った先で金貨の袋を運びだす際に、一個だけ忘れたからって飯抜きってか、自分が使役している悪魔にこいつ食っていいよ、とか言ってるの聞いたらキレるでしょ。
かなりの大事件で、即刻主を失った盗賊団は王国兵に次々と逮捕され、見逃してもらえることを期待していた俺も、逃げる隙も見つけられないまま、捕まった。
元仲間?とかと同じように投獄された上で、縛り首になるのかもな・・・。
捕まった時の俺はまだ勇者の自覚も、転生者の自覚も希薄で、どちらかと言うと農家の実家暮らしが嫌で嫌でたまらなくなって町に飛び出した不良で、そのなれの果てがちんけな盗賊団の下っ端って意識だった。
そしてその予想は当たっていた。
元仲間?と共に縛り首。
後から聞いた話だと、どうも団長をぶっ殺したせいで、すべての罪が俺に擦り付けられていたらしい。もちろん告発者は元仲間?たちだ。おれが一応は苦楽を共にした奴らに仲間?ってつけるのもわかるだろう。
で、結局縛り首当日。
見せしめの意味もあったのだろう、俺以外にも元仲間?たちは順番に王家の館前の広場に連れ出され、見物人多数の前で順番に縛り首の予定だった。
どうにも、この感覚は今でも良く判らない。
フランス革命の時だったっけ、ギロチン見物に多数の人が集まり公営ギャンブル場みたいな歓声が飛び交ってたとか言うの。
人が死ぬって時に、それを酒飲みながら観衆気分で楽しむって精神はどうよ?
さすがに俺にその感覚は判らない。
どんな悪人でも、死んだら仏の精神で育った俺には、違和感しかないし、広場で歓声上げている馬鹿どもは、もう人がゴミのようだと言われても仕方がない存在なのではないかと真剣に思う。
さて、順番に元仲間たちが縛り首様の台の上で、並んで絶命していく。
恨みが多量にこもった目で俺を睨んで死んでいくやつが多いが、そんなに見るな。
どうせ、司法取引かなんか知らんが、俺にすべての罪を着せて逃げ切ろうと浅知恵発揮したけど、結局縛り首は縛り首で、逃げられなかったって恨みを俺に向けられてもなぁ。
んで、俺の番。
この時の俺は、なぜだろうとても冷めていた。死を前にして、どうも今から死ぬって事が実感できなくて、ぼんやりしていたと思う。
台の上で首に荒縄を巻かれ、数秒後、足元の板が外されて体を支えるのは首の荒縄だけ。
こうなったら死まで一直線の片道コースしかないのが普通だが、俺のみ、その結果が訪れなかった。
だって、勇者だもん。
勇者チート得る為に色々犠牲にしたみたいだけど、たかが人間が荒縄と重力だけの力で殺せる物じゃない。
「えっ?
俺を含めて、えっ?の大合唱。
そりゃそうだ、確実に死しか見えない状態で、生きてるって、死んでないってヤバいだろ。アニメで死んだキャラが実は生きていて後から実は死んでなかったんですよ的な展開とも違う。
確実に死んでいなきゃおかしいい状況、現在進行形の中で生きている。
ちょっとは苦しかったけどね。
俺は縛り首で死ななかったので、次の日に特別に用意された火あぶり刑に処された。
だが、それでも俺は死ななかった。
炎が体中を這いずり回るが、それでも死なない。
こうなったら鋸で首でも落とすしかないだろうって時に、大神官みたいな爺様が前に出てきて解放され、さらにはわしは魔法使いじゃとか言いそうな灰色のローブを纏った婆様に七色に光る水晶を握らされた。
その水晶を握ったと同時に、鮮明に転生前の記憶がよみがえり、また転生に関する事も思い出した。自身の感覚の一部を犠牲にして、一段上のチート能力、勇者のスキルを得ていた事を。
七色に光る水晶から、今度は七色に光る竜の幻影が現れて空へと立ち昇って行った。
俺から見たら、ただの縦に上る虹でしかなかったが、この世界の人々は度肝を抜かれたらしい。
処刑場が一気に祈りの場所と変貌した。
大神官っぽい爺様も、魔法使い然っぽい婆様もその場で地面に座り込み、両手を使っての土下座ポーズ。
その動きに合わせて、周りの観衆たちも同じように土下座ポーズ。
う~ん、これさっきまで騒いで歓声や罵倒を浴びせていた奴の一人ぐらい、頭から蹴とばしたり踏みつけたりしても良かったりする?
ダメ?
あ、そう。
残念だけど、やめておく。
だって俺ってば勇者だもん。自覚したのは今さっきだけど・・・。
それでも勇者。
勇者は強くて偉くて、すごい存在なのだ。たかが一時の復讐に満足なんてしないのだ。
「ああ、勇者様・・・、このような状態でも、わたくしに言葉をかけてくださるなんて、流石ですわ、もっとといいたいところですけれど、今はそうしている時間さえ惜しいのです」
肉まんちゃん、いや、姉姫様がずずいと近づいて来て、俺の足に縋りつく。
「わたくしが無力なばかりに、勇者様にこのような事を・・・、なんとかして差し上げたいのですけれど、わたくしは無力な姫、申し訳ありませぬ」
なんて言うか、自己陶酔に酔いつぶれてしまった様な言葉を言い続ける姉姫様。
う、うん、ちょっと待とうか。
力になれないとか、どうでもいいし。
「俺を助けられないなら、邪魔だ、どっか行け、ほんとに、役に立たない肉まんなんだから」
言った後に再度気づくがもう遅い、肉まんと心の中では何度も連呼していたが、姉姫様に直接言ったのは初めてだ。なんで初めてかって?そんなの決まっている、喜ぶだろうからだ。
「勇者様・・・」
ひしっと擬音がつくだろう動きで、姉姫様が俺の下半身をぐっと抱きしめ、さらに下腹部に豊満な肉まん顔を押し付けてくる。
ぐっ、ぐおぉぉぉ。
無理、無理、無理、無理。
もうダメって言ってるじゃん。
我慢って名の堤防はもう限界だったんだから。
「あぁぁぁぁ~」
この世界で、勇者と自覚して初めて俺は、漏らした・・・。
しかも人の前で・・・。
しかも、一応は婚約者で、姫様で、女性の前でだ。
その状態でも俺から離れる事をせずに、何故か恍惚とした表情をしている姉姫様を前にして、俺は解放された下腹部の衝動が急速に過ぎ去っていくのを感じた・・・。
だが、俺の声に反応する相手はいない。
そもそも、手首と足首の痛みのお陰で、全体的な感覚が鈍くしっかりと叫んでいるかも怪しい。
勇者のスキルで、毒や魔法の類は殆んどレジスト出来るので、今の状況は異常だ。
実際勇者スキルに目覚めてからは、風邪もひかないし、剣の訓練で間違って飛ばした自分の指も、そんなに時間がかからずに生えてきていた。
そんな体の上、勇者スキルを得た時に、同時に触媒として触覚と嗅覚の五十パーセントを失っているので、永続的に痛みが続く今の状況は、この世界に生れ落ちてから初めての激痛と言える。
耐えられるか、と聞かれたら無理だと答えたい。
答えたところで誰かが、あ、じゃあ鎖とか弛めましょうか?とか言ってくれる訳ないしな~
大体、この世界に転生してきてまだ二十年にもならないんだぞ。
その前はある程度平和で、表通りぐらいは安全な日本で四十年近く生きて来たんだぞ、そんな俺が痛みに強いわけないじゃないか。
だから、ごめんなさい、もうなにがどうしてこうなったのかわかりませんが、許してもらえませんかね。
こんな拘束くらい勇者の力で引きちぎってやろうとか、そんな事を思っていた自分も居ました。
けれど、手首の輪っかを引きちぎろうとするとさらなる激痛が走り、すぐに諦めた。
頭の中で白い点がわんわんとスパークして、鈍化している筈の痛覚が危険レベルで神経を攻撃してくる。
日本に居た頃の痛みに例えると、爪切り失敗して生爪はがした時の五倍くらいか・・・。
とにかく痛かった、すぐに諦めた。俺はあきらめの良い日本人だ。
いや、今は異世界人か・・・。髪は水色、目は緑とか漫画仕様だもんな。因みに肌の色は白色系とでも言えばいいのか、割と白い。
身長はぎりぎりで人類男種に分類される175cm以上。体重は判らん。この世界って体重計がないんよ。女の敵だから絶滅させられたのかもしれない・・・。
ああ~だからか、絶世の美女とか周りの貴族様が言っていた女性が、俺から見たら控えめに言ってぽっちゃり系引きこもり肌荒れ症候群にしか見えなったのは。
体重計が存在していなければ、自分が太っているのかも自覚できないものな。
前の知識では、太っているがイコールで美人の基準だった時代もあったらしいけど、その時代も、もしかしたら体重計は無かったのかもしれない。
だが、断言しよう、そんなことはどうでもいい。
今の俺の状態には、切実で一番の問題がある。
俺がこの状況になってからどれだけの時間が経過したか判らないけれど、人間は生きていれば絶対に発生する生理現象がある。
空腹もそうだし、睡眠もそうだ。
だが、しかし、俺が言いたいのはそういう事じゃない。これは人としての尊厳の問題だ。
「あ、あの~誰か、トイレいかせてくれませんか~」
先ほどの叫びとは大きく異なり、小さな声で言ってみる。
大きな声で言うと、膀胱が暴行状態に刺激されて、ズボンの前の方が随分と残念な事になりそうだからだ。
ちょっとだけなら・・・と言う誘惑も先ほどからどんどん強まっている。
だが、我慢。
我慢のダムが少しでも決壊すれば、少量ではすまず、すべてが放出されてしまう事だろう。
それは勇者としても、人としても、ありえない。
おもらし勇者。
この歳でそれは勘弁してもらいたい。日本でもアラフォーだったし、こっちでも完全に成人の年齢だ。
一生ものの心的外傷になる事、間違いない。
ガチャリ
この音以外で表現することが難しいドア開錠の音と共に、俺の左手側から光が漏れた。
室内は薄暗かったし拘束状態だったので、左手に扉がある事にも気づいていなかった。因みによく見てみると、前と右手の壁には扉がついていないことを確認した。
さて、誰が出てくることやら。
仮にも、いや仮じゃない王国公式勇者を拉致監禁するなんていったい誰の仕業だろうか。
多分、金か権力で、王国戦士辺りを共犯者にしてこの事態を作ったのに違いない。
妹姫様が俺に逆らうはずがないのだから。
「勇者様、ご機嫌如何ですか?」
朗らかな、上流階級にありがちなゆったりとした物言い。
羽毛をあしらった扇子の様な物を使っても隠し切れない頬肉を揺らして、俺の前に現れたのはこれも王国公認で俺の婚約者となっている姉姫様の巨体?肉塊?だった。
第一俺より3~4歳は若い筈なのに、扉を通る時に体を斜めにした上で屈んで腹の肉を圧縮しないと通れないとかどうよ?
これって王家の緊急の隠し通路とか設計した人、泣きそうだよな。
この姉姫様が一番に逃げたら、途中で詰まって王族全滅とかになりそうだ。
「はぁ機嫌?いい訳ないよなぁ~、それともお前は自分がこんな事されて機嫌が宜しくなる変態さんなんですか~」
出来る限りの嫌味を言葉に乗せて言った直後に、俺は後悔した。
失敗した、俺の言葉に姉姫様は体全体と、巨体に似合う巨乳を小刻みに揺らし、顔を真っ赤にして・・・、そう顔を真っ赤にして、よ、ろ、こ、ん、で、いらっしゃる。
忘れていた、こいつは真正のマゾ系女子だった。
先ほどの言い方は、姉姫様にとってご褒美でしかなかった。
彼女に最初に出会った頃は、たしか違法盗賊団で悪魔使役を行っていた団長が嫌がらせをするんで、キレてぶっ殺した後だったか。
だってさぁ、ちょこっと盗みに入った先で金貨の袋を運びだす際に、一個だけ忘れたからって飯抜きってか、自分が使役している悪魔にこいつ食っていいよ、とか言ってるの聞いたらキレるでしょ。
かなりの大事件で、即刻主を失った盗賊団は王国兵に次々と逮捕され、見逃してもらえることを期待していた俺も、逃げる隙も見つけられないまま、捕まった。
元仲間?とかと同じように投獄された上で、縛り首になるのかもな・・・。
捕まった時の俺はまだ勇者の自覚も、転生者の自覚も希薄で、どちらかと言うと農家の実家暮らしが嫌で嫌でたまらなくなって町に飛び出した不良で、そのなれの果てがちんけな盗賊団の下っ端って意識だった。
そしてその予想は当たっていた。
元仲間?と共に縛り首。
後から聞いた話だと、どうも団長をぶっ殺したせいで、すべての罪が俺に擦り付けられていたらしい。もちろん告発者は元仲間?たちだ。おれが一応は苦楽を共にした奴らに仲間?ってつけるのもわかるだろう。
で、結局縛り首当日。
見せしめの意味もあったのだろう、俺以外にも元仲間?たちは順番に王家の館前の広場に連れ出され、見物人多数の前で順番に縛り首の予定だった。
どうにも、この感覚は今でも良く判らない。
フランス革命の時だったっけ、ギロチン見物に多数の人が集まり公営ギャンブル場みたいな歓声が飛び交ってたとか言うの。
人が死ぬって時に、それを酒飲みながら観衆気分で楽しむって精神はどうよ?
さすがに俺にその感覚は判らない。
どんな悪人でも、死んだら仏の精神で育った俺には、違和感しかないし、広場で歓声上げている馬鹿どもは、もう人がゴミのようだと言われても仕方がない存在なのではないかと真剣に思う。
さて、順番に元仲間たちが縛り首様の台の上で、並んで絶命していく。
恨みが多量にこもった目で俺を睨んで死んでいくやつが多いが、そんなに見るな。
どうせ、司法取引かなんか知らんが、俺にすべての罪を着せて逃げ切ろうと浅知恵発揮したけど、結局縛り首は縛り首で、逃げられなかったって恨みを俺に向けられてもなぁ。
んで、俺の番。
この時の俺は、なぜだろうとても冷めていた。死を前にして、どうも今から死ぬって事が実感できなくて、ぼんやりしていたと思う。
台の上で首に荒縄を巻かれ、数秒後、足元の板が外されて体を支えるのは首の荒縄だけ。
こうなったら死まで一直線の片道コースしかないのが普通だが、俺のみ、その結果が訪れなかった。
だって、勇者だもん。
勇者チート得る為に色々犠牲にしたみたいだけど、たかが人間が荒縄と重力だけの力で殺せる物じゃない。
「えっ?
俺を含めて、えっ?の大合唱。
そりゃそうだ、確実に死しか見えない状態で、生きてるって、死んでないってヤバいだろ。アニメで死んだキャラが実は生きていて後から実は死んでなかったんですよ的な展開とも違う。
確実に死んでいなきゃおかしいい状況、現在進行形の中で生きている。
ちょっとは苦しかったけどね。
俺は縛り首で死ななかったので、次の日に特別に用意された火あぶり刑に処された。
だが、それでも俺は死ななかった。
炎が体中を這いずり回るが、それでも死なない。
こうなったら鋸で首でも落とすしかないだろうって時に、大神官みたいな爺様が前に出てきて解放され、さらにはわしは魔法使いじゃとか言いそうな灰色のローブを纏った婆様に七色に光る水晶を握らされた。
その水晶を握ったと同時に、鮮明に転生前の記憶がよみがえり、また転生に関する事も思い出した。自身の感覚の一部を犠牲にして、一段上のチート能力、勇者のスキルを得ていた事を。
七色に光る水晶から、今度は七色に光る竜の幻影が現れて空へと立ち昇って行った。
俺から見たら、ただの縦に上る虹でしかなかったが、この世界の人々は度肝を抜かれたらしい。
処刑場が一気に祈りの場所と変貌した。
大神官っぽい爺様も、魔法使い然っぽい婆様もその場で地面に座り込み、両手を使っての土下座ポーズ。
その動きに合わせて、周りの観衆たちも同じように土下座ポーズ。
う~ん、これさっきまで騒いで歓声や罵倒を浴びせていた奴の一人ぐらい、頭から蹴とばしたり踏みつけたりしても良かったりする?
ダメ?
あ、そう。
残念だけど、やめておく。
だって俺ってば勇者だもん。自覚したのは今さっきだけど・・・。
それでも勇者。
勇者は強くて偉くて、すごい存在なのだ。たかが一時の復讐に満足なんてしないのだ。
「ああ、勇者様・・・、このような状態でも、わたくしに言葉をかけてくださるなんて、流石ですわ、もっとといいたいところですけれど、今はそうしている時間さえ惜しいのです」
肉まんちゃん、いや、姉姫様がずずいと近づいて来て、俺の足に縋りつく。
「わたくしが無力なばかりに、勇者様にこのような事を・・・、なんとかして差し上げたいのですけれど、わたくしは無力な姫、申し訳ありませぬ」
なんて言うか、自己陶酔に酔いつぶれてしまった様な言葉を言い続ける姉姫様。
う、うん、ちょっと待とうか。
力になれないとか、どうでもいいし。
「俺を助けられないなら、邪魔だ、どっか行け、ほんとに、役に立たない肉まんなんだから」
言った後に再度気づくがもう遅い、肉まんと心の中では何度も連呼していたが、姉姫様に直接言ったのは初めてだ。なんで初めてかって?そんなの決まっている、喜ぶだろうからだ。
「勇者様・・・」
ひしっと擬音がつくだろう動きで、姉姫様が俺の下半身をぐっと抱きしめ、さらに下腹部に豊満な肉まん顔を押し付けてくる。
ぐっ、ぐおぉぉぉ。
無理、無理、無理、無理。
もうダメって言ってるじゃん。
我慢って名の堤防はもう限界だったんだから。
「あぁぁぁぁ~」
この世界で、勇者と自覚して初めて俺は、漏らした・・・。
しかも人の前で・・・。
しかも、一応は婚約者で、姫様で、女性の前でだ。
その状態でも俺から離れる事をせずに、何故か恍惚とした表情をしている姉姫様を前にして、俺は解放された下腹部の衝動が急速に過ぎ去っていくのを感じた・・・。
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