11 / 45
第3章 聞いても意味が判らない真実と他人任せの脱出とか、勇者の立場って奴が・・・。
3-4
しおりを挟む
ボクの名前はリンド=ベル・ウィンドライト。
今年で256歳になるエルフだ。
職業は冒険者で武器は弓と短剣だ。
精霊魔法は一族の中では苦手な方だが、それでも気配察知の術式には長けていると自負している。
生まれはエルフの生まれる大森林の中心にある国都。
そこの王家から分離した親王家の一員として生を受けた。長命なエルフ種族は約千年の時を生きる中で、その半数以上で子を産むことが出来る。
人間どもの古い書物には、エルフは長命であるが故に、子供を多く授かる事が無いとか書いてあるらしいけど、全然嘘だ。
七百歳のエルフあたりで50人くらいの子供がいて、100人くらいの孫がいるなんてよくある話なのだから。ボクの上にも数十人の兄や姉が居るし、妹や弟も5人以上いる。人間的に言えば大家族なんて目じゃない。
一族総出だと千の数は越える。それがエルフって種族だ。
もちろん、森と共に生きるを信条にはしているけど、森は優しい顔もあれば厳しい顔も持つ。魔物の大量発生や、作物の不作や有害植物の侵略。人間と同じような苦労をエルフもしているし、昨今だと人間の国からの干渉も激しく、独自文化としての維持が困難になっていると長老会議辺りではぼやいているらしい。
仕方がない。だって人間が作る食べ物とか、洋服、さらには武器、武具や防具までエルフの国都でさえ手に入らない珍しい物が多い。対してエルフ側は人間の国に対して返す物がほとんどない。そうなると貿易の不均衡が生まれ、エルフは人間の国からの要求を断れなくなるって話だ。
そんな理由からエルフは、人に対して優位に立てる魔物討伐の知識や技術、戦闘のノウハウを輸出することになり、最初は知識だけだった物がだんだんと指導教官、ついには傭兵と変わっていった。
ボクも傭兵として人間の国で働くことになった。
それから20年近く、時には魔物と戦い、多くは盗賊や野盗などから隊商を守り、稀に戦争にも参加した。
それは最悪の経験だった。
人間って言う生き物は、作るものは素晴らしいのに、なぜに些細な理由で争うのか。しかも人として基礎が違うエルフに戦いを挑むのか?
力ない人の知恵なんだろうけど、騙し騙され、裏切って、その後でやっぱり殺されて、ボクには何が楽しいのか全く分からない。
もう、国都が定めた20年の拘束時間も終わりに近かったし、これからは人と関わらないで生きていこう。心にそう決めて国都に戻ろうとした時、ある国から勇者の護衛を依頼された。
正直勇者と言うの存在には、興味があった。
人の国の中で勇ましく正しく戦い、すべての悪を問答無用に討伐する英雄。自分がその護衛をやると聞いて、少し、いやかなりうれしくなった。
もしかしたら自分も国の英雄とかって言われて、絵本とか吟遊詩人の詩になるのかもしれない。
長い寿命の中で、そんな詩がどう広まるのか見守るのも面白い。
だが、そんな幻想はあっと間に崩れ去った。
聞けばその国で勇者と言うのは、その行動や実績で認定されるのではなく、その能力で決まるらしい。
ボクから見れば幼児並みな年齢の勇者はどうやら盗賊上がりで、内部分裂から偶然にも発見されただけの、ただの人間だった。
性根も他者から憧れを受けるような物では全然なく、どちらかと言えば怠惰で我儘で好きにはなれなかった。
初クエスト前には、何故か間借りしただけの館を破滅に導いたうえ、残った後妻とよろしくやっても居た。
性にたいしては、長い寿命もあり、かなり奔放な事でも許せるエルフとはいえ、流石に家族を失ったばかりの後妻に手を出すのは嫌な気分になった。
鋭敏なエルフの耳のお陰で、事情はわかってはいたが、それでもだ。
そして初クエスト。
もう勇者なんか相手にしない。この初クエストが終わったら国都に帰ろうと考えていたが、そんなボクが勇者に救われた。
実力不足と言うよりも、適材適所、相手に適した攻撃を無視して挑んだのが敗因だ。おそらく勇者への不満が原因にあったとは思うけど、それでも戦場は一瞬で命を刈り取られる場所だって判っていた。
その筈なのにボクは負けて、勇者に助けられた。
どうせ心の中では、自分を馬鹿にでもしていたのだろうけれど、勇者は勇者らしく行動し、ボクを助け、そして初クエストを完了させた。
その夜、初めて勇者と話してみたいと思って彼のテントに行ってみた。彼はかたくなに惨劇のあった館に入らずに野営していたのだ。その前日に仲良くしていた奥さんとの関係は、やっぱり何かの契約上の取引みたいなものだったんだ。少しだけ見直す気になったけど、次の日の朝で考えが変わった。
駄目だこの勇者。
ただの性欲魔人なだけだ。
その後もたびたび勇者の女性関係には悩まされた。そのすべてが勇者の能動的アプローチじゃなかったのでボクは口出ししなかったが、妹姫様辺りは良く王国戦士と誹謗していた。聞いたところ、この二人はこっそり婚約をしていたらしい。いかに強いとはいえ、身分が違う王国戦士と妹姫様。ひそかに付き合うのも無理があり、王様にばれて勇者と共に魔王を討伐出来たら、考えると言われていたようだ。
しかし、この王国戦士が裏で魔法少女に色目を使っていたのをボクは知っている。
まったく人間って奴は。
エルフを酷く性欲の強い風に描く薄い本もあるが、人間だってなかなかどうして、同じくらい愛情と言う美名の裏で性欲魔人だ。
魔法少女の方は、王国戦士と妹姫様の関係を知らずにいたので、どうも王国戦士からのアプローチを憎からず思っていたようだな。
なにせ命を賭ける戦場で何度も助けられていたから、吊り橋効果?で好意が芽生えてきていたのかもしれない。でもボクは何となくムカついて王国戦士が魔法少女にモーションをかける度に邪魔してやった。
結局、今までこの二人は恋仲にはなっていないし、王国の城に戻って王国戦士と妹姫様の関係が表ざたになった所で、痛烈に振られてボクの予想通りに彼女は落ち込んでいた。
本当であれば彼女達を邪魔していたボクが慰めるべきだったんだろうけど、ボクはボクでそれどころじゃなかったんだ。
なんでか判らないけれど、妹姫様が勇者を監禁したんだ。
彼女曰く、勇者は数々の罪を犯したので、一度裁きを受けなければならない。だけど勇者と言う立場上、公に裁くのではなく、言うなれば少し重めのお仕置きだと言っていた。
勇者は確かに、そうい言われても仕方がないほど我儘で傍若無人だったから仕方ないのかも知れない。
女性関係も含めて、少し反省すれば良いんだ。そう軽く考えていた。
だから勇者のお仕置きが終わったら、また一緒に旅に出て、まだ残っている魔王たちを倒す勇者を助けるんだと、素直に思っていた。
だが、いつまでたっても勇者を開放すると言う話は出てこない。そのうちに姉姫様から不穏な話を聞いた。
妹姫さんは勇者を開放する気は全くなく、まだ公式には婚約者である自分の懇願も頑として受け付けてくれないそうだ。
こっそりと1回だけ会いに行ったが、それ以降は監視されて近づく事も出来ないらしい。
おかしい・・・。
ボクは城に上がって妹姫様にもう一度確認することにした。
すると彼女は
「戴冠式が終わったら、もう勇者の威光もいりません、殺すことも出来なようなのでその後は、エルフ、貴方に預けます」
と言った。
戴冠式?面識がそんなにあるわけじゃないけど、王様はまだ健康で退位とか考えても居ない筈じゃ?
良く判らないまま、妹姫様は去り、そしてボクは勇者が解放されるまで、城に泊まることになった。勇者が前に話していた思考で言うと、軟禁された?でもまさか・・・。
その晩、異変が起こった。
勇者が脱走したと言う事と、王様の崩御を姉姫様が命からがら伝えてくれたんだ。
ボクと違って体積は3倍、弾力に至っては数倍もある姉姫様だったが、その身に矢を1本突き立てながらも、自分の寝室からボクのところまで逃げてきた。
勇者が姉姫様を怖いと言っていた意味が、少しだけわかる。この人本当に城から一歩も出たことのない深窓の令嬢なの?矢が刺さっていたら痛みで動けないのが普通だろうに。
「エルフさん、もう私は何がどうなっているのか全然わかりません、ですが勇者様が逃げたと言う事と王であるお父様が崩御されたのには何か裏があると思います、そして私が襲われた事も、私がエルフさんくらい強くて、素早く動けたら勇者様の後を追うのですけれど、それは無理と言う物、ですからエルフさん、私の代わりに勇者様を守ってくださらない?」
ボクは胸元にあるエルフの秘石を握りながら、話を聞く。
今のボクがここから逃げたとして、それで何とかなるんだろうか?多分王族殺しの汚名を着せられた勇者は、人間社会で真っ当に生きていく事は出来ない。
ならばエルフの国都ではどうだろうか?人間側に借りばかりのあの場所が、勇者を匿う可能性はゼロだ。
「姉姫様、ボクは・・・」
その時、姉姫様の背後に現れた影。それは王国戦士と彼に率いられた近衛戦士団だった。
「何をする気だ!」
背後の敵に気づかず、ボクに対して祈るような仕草をしている姉姫様は、扉の前をその巨体で塞いでいる形だった。そして王国戦士たちは既に抜刀している状態で、危ないのはボクではなく、姉姫様だ。もし姉姫様が言ったように王族殺しが行われたのなら、姉姫様も殺される可能性がある。しかもその犯人が王国戦士だったなんて。
長くもない旅だったけど、彼は自分の意思で謀反をするようなタイプじゃない。妹姫様と婚約していながら、魔法少女に手を出そうとしても、ボクに邪魔されたくらいで、旅が終わるまで結局恋仲にはなれなかったのだから。
「本気なの?」
「もとより、一時の気の迷いで王族に刃を向ける程愚かではない、邪魔しなければエルフを殺せとは聞いていない、黙っていれば旅の仲間だった誼で見逃してやる」
やっぱりだ、この男は自分の意思で王族を傷つけようとしているわけではない。黒幕は別にいる。
「お前の婚約者は、無事なの?」
「答える義務は無いな、どっちにせよ俺は仕事を完遂するのみだ」
背後に迫る王国戦士に、流石に気づいている姉姫様は、しかし悲鳴も上げず、そこから逃げ出す事もせず、動かない。持ち前の巨体が王国戦士とボクの間の城壁の様だ。
「ふん、逃げる事はしないのですね・・・」
王国戦士の剣が姉姫様へと振り下ろされる。風の術式で王国戦士を吹っ飛ばしてやろうとしたが、姉姫様が首を振ってボクを止める。
王国戦士の剣が走り、姉姫様の肩から腰のあたりまで一気に斬り下げる。さすが魔物と戦い続けた戦士の刃だ。柔らかい脂肪の良くついた女性の体など一撃で死へと追いやる。
「エルフ、お前をどうするかはまだ決まっていない、大人しくしている事だ」
「ふっざけるなっ!」
血を流しながら床に倒れた姉姫様の陰から、最大出力で風の術式を王国戦士にぶつける。
「抵抗されたら、殺すしかないな」
可能な限り一点に集中させた風の弾丸は、一直線に王国戦士へ。最大出力であれば彼が着ている鎧も打ち抜ける。
「もちろん、対抗手段は持っているさ」
ちりん、と言う音と共に王国戦士が懐から小さな鈴を取り出すと、ボクの最大出力の風の弾丸が、それまで何もなかったかのように掻き消える。
「エルフ、お前は弓以外は二流だったな、勇者も二流だった、案外お前らはお似合いだったのかもな」
王国戦士が姉姫様を踏みつけて、部屋の中に侵入してくる。
ボクに残されているのは、いつの日か勇者に貸したナイフだけだ。弓は姉姫様の向こうに立てかけてあり、手に持つには王国戦士を倒さなければならない。
「くそうっ」
ナイフを構えて、王国戦士を迎撃しようとするが、そこで何故か王国戦士は姿勢を床につけるぐらいに低くした。その向こうには
「しまっ・・・・」
最後まで声にすることが出来なかった。
王国戦士の向こう、姉姫様がその巨体でせき止めていた戦士達は弓を構えていた。見事な連携だ。狭い部屋の中と言う事で、エルフであるにも関わらず弓矢での攻撃を失念していた。
いつもの皮鎧も着けていない。
「ちくしょう・・・」
体に刺さる3本の矢、一気に力が抜けて、ボクは姉姫様と並ぶ様に床に倒れ込んだ。
さらに背中に痛み。とどめと言う事なんだろう、王国戦士の剣が背中から腹を貫き通す。
ああ、これはだめだ。もしここに妹姫様が居て、回復術式をかけてもらっても回復は出来ない。つまり死ぬと言う事。
胸元にあるエルフの秘石を使っても、一時的に命をつなぎとめるだけで、すぐに衰弱して死んでしまう。この秘石は持ち主の生命力を使って怪我を治す秘石だ。
持ち主の生命力が底をついている場合、その回復力は奇跡を起こさない。
「予定外もあったが、まぁあの人なら想定の範囲内なのだろう、勇者が逃げたらしいが、所詮勇者スキルは封じられているただの小僧だ、長生きは出来まい」
王国戦士が部屋を出ていく足音が辛うじて聞こえる。
「出来る事は、出来る内に、出来るだけ、やる、だっけか、勇者・・・」
今年で256歳になるエルフだ。
職業は冒険者で武器は弓と短剣だ。
精霊魔法は一族の中では苦手な方だが、それでも気配察知の術式には長けていると自負している。
生まれはエルフの生まれる大森林の中心にある国都。
そこの王家から分離した親王家の一員として生を受けた。長命なエルフ種族は約千年の時を生きる中で、その半数以上で子を産むことが出来る。
人間どもの古い書物には、エルフは長命であるが故に、子供を多く授かる事が無いとか書いてあるらしいけど、全然嘘だ。
七百歳のエルフあたりで50人くらいの子供がいて、100人くらいの孫がいるなんてよくある話なのだから。ボクの上にも数十人の兄や姉が居るし、妹や弟も5人以上いる。人間的に言えば大家族なんて目じゃない。
一族総出だと千の数は越える。それがエルフって種族だ。
もちろん、森と共に生きるを信条にはしているけど、森は優しい顔もあれば厳しい顔も持つ。魔物の大量発生や、作物の不作や有害植物の侵略。人間と同じような苦労をエルフもしているし、昨今だと人間の国からの干渉も激しく、独自文化としての維持が困難になっていると長老会議辺りではぼやいているらしい。
仕方がない。だって人間が作る食べ物とか、洋服、さらには武器、武具や防具までエルフの国都でさえ手に入らない珍しい物が多い。対してエルフ側は人間の国に対して返す物がほとんどない。そうなると貿易の不均衡が生まれ、エルフは人間の国からの要求を断れなくなるって話だ。
そんな理由からエルフは、人に対して優位に立てる魔物討伐の知識や技術、戦闘のノウハウを輸出することになり、最初は知識だけだった物がだんだんと指導教官、ついには傭兵と変わっていった。
ボクも傭兵として人間の国で働くことになった。
それから20年近く、時には魔物と戦い、多くは盗賊や野盗などから隊商を守り、稀に戦争にも参加した。
それは最悪の経験だった。
人間って言う生き物は、作るものは素晴らしいのに、なぜに些細な理由で争うのか。しかも人として基礎が違うエルフに戦いを挑むのか?
力ない人の知恵なんだろうけど、騙し騙され、裏切って、その後でやっぱり殺されて、ボクには何が楽しいのか全く分からない。
もう、国都が定めた20年の拘束時間も終わりに近かったし、これからは人と関わらないで生きていこう。心にそう決めて国都に戻ろうとした時、ある国から勇者の護衛を依頼された。
正直勇者と言うの存在には、興味があった。
人の国の中で勇ましく正しく戦い、すべての悪を問答無用に討伐する英雄。自分がその護衛をやると聞いて、少し、いやかなりうれしくなった。
もしかしたら自分も国の英雄とかって言われて、絵本とか吟遊詩人の詩になるのかもしれない。
長い寿命の中で、そんな詩がどう広まるのか見守るのも面白い。
だが、そんな幻想はあっと間に崩れ去った。
聞けばその国で勇者と言うのは、その行動や実績で認定されるのではなく、その能力で決まるらしい。
ボクから見れば幼児並みな年齢の勇者はどうやら盗賊上がりで、内部分裂から偶然にも発見されただけの、ただの人間だった。
性根も他者から憧れを受けるような物では全然なく、どちらかと言えば怠惰で我儘で好きにはなれなかった。
初クエスト前には、何故か間借りしただけの館を破滅に導いたうえ、残った後妻とよろしくやっても居た。
性にたいしては、長い寿命もあり、かなり奔放な事でも許せるエルフとはいえ、流石に家族を失ったばかりの後妻に手を出すのは嫌な気分になった。
鋭敏なエルフの耳のお陰で、事情はわかってはいたが、それでもだ。
そして初クエスト。
もう勇者なんか相手にしない。この初クエストが終わったら国都に帰ろうと考えていたが、そんなボクが勇者に救われた。
実力不足と言うよりも、適材適所、相手に適した攻撃を無視して挑んだのが敗因だ。おそらく勇者への不満が原因にあったとは思うけど、それでも戦場は一瞬で命を刈り取られる場所だって判っていた。
その筈なのにボクは負けて、勇者に助けられた。
どうせ心の中では、自分を馬鹿にでもしていたのだろうけれど、勇者は勇者らしく行動し、ボクを助け、そして初クエストを完了させた。
その夜、初めて勇者と話してみたいと思って彼のテントに行ってみた。彼はかたくなに惨劇のあった館に入らずに野営していたのだ。その前日に仲良くしていた奥さんとの関係は、やっぱり何かの契約上の取引みたいなものだったんだ。少しだけ見直す気になったけど、次の日の朝で考えが変わった。
駄目だこの勇者。
ただの性欲魔人なだけだ。
その後もたびたび勇者の女性関係には悩まされた。そのすべてが勇者の能動的アプローチじゃなかったのでボクは口出ししなかったが、妹姫様辺りは良く王国戦士と誹謗していた。聞いたところ、この二人はこっそり婚約をしていたらしい。いかに強いとはいえ、身分が違う王国戦士と妹姫様。ひそかに付き合うのも無理があり、王様にばれて勇者と共に魔王を討伐出来たら、考えると言われていたようだ。
しかし、この王国戦士が裏で魔法少女に色目を使っていたのをボクは知っている。
まったく人間って奴は。
エルフを酷く性欲の強い風に描く薄い本もあるが、人間だってなかなかどうして、同じくらい愛情と言う美名の裏で性欲魔人だ。
魔法少女の方は、王国戦士と妹姫様の関係を知らずにいたので、どうも王国戦士からのアプローチを憎からず思っていたようだな。
なにせ命を賭ける戦場で何度も助けられていたから、吊り橋効果?で好意が芽生えてきていたのかもしれない。でもボクは何となくムカついて王国戦士が魔法少女にモーションをかける度に邪魔してやった。
結局、今までこの二人は恋仲にはなっていないし、王国の城に戻って王国戦士と妹姫様の関係が表ざたになった所で、痛烈に振られてボクの予想通りに彼女は落ち込んでいた。
本当であれば彼女達を邪魔していたボクが慰めるべきだったんだろうけど、ボクはボクでそれどころじゃなかったんだ。
なんでか判らないけれど、妹姫様が勇者を監禁したんだ。
彼女曰く、勇者は数々の罪を犯したので、一度裁きを受けなければならない。だけど勇者と言う立場上、公に裁くのではなく、言うなれば少し重めのお仕置きだと言っていた。
勇者は確かに、そうい言われても仕方がないほど我儘で傍若無人だったから仕方ないのかも知れない。
女性関係も含めて、少し反省すれば良いんだ。そう軽く考えていた。
だから勇者のお仕置きが終わったら、また一緒に旅に出て、まだ残っている魔王たちを倒す勇者を助けるんだと、素直に思っていた。
だが、いつまでたっても勇者を開放すると言う話は出てこない。そのうちに姉姫様から不穏な話を聞いた。
妹姫さんは勇者を開放する気は全くなく、まだ公式には婚約者である自分の懇願も頑として受け付けてくれないそうだ。
こっそりと1回だけ会いに行ったが、それ以降は監視されて近づく事も出来ないらしい。
おかしい・・・。
ボクは城に上がって妹姫様にもう一度確認することにした。
すると彼女は
「戴冠式が終わったら、もう勇者の威光もいりません、殺すことも出来なようなのでその後は、エルフ、貴方に預けます」
と言った。
戴冠式?面識がそんなにあるわけじゃないけど、王様はまだ健康で退位とか考えても居ない筈じゃ?
良く判らないまま、妹姫様は去り、そしてボクは勇者が解放されるまで、城に泊まることになった。勇者が前に話していた思考で言うと、軟禁された?でもまさか・・・。
その晩、異変が起こった。
勇者が脱走したと言う事と、王様の崩御を姉姫様が命からがら伝えてくれたんだ。
ボクと違って体積は3倍、弾力に至っては数倍もある姉姫様だったが、その身に矢を1本突き立てながらも、自分の寝室からボクのところまで逃げてきた。
勇者が姉姫様を怖いと言っていた意味が、少しだけわかる。この人本当に城から一歩も出たことのない深窓の令嬢なの?矢が刺さっていたら痛みで動けないのが普通だろうに。
「エルフさん、もう私は何がどうなっているのか全然わかりません、ですが勇者様が逃げたと言う事と王であるお父様が崩御されたのには何か裏があると思います、そして私が襲われた事も、私がエルフさんくらい強くて、素早く動けたら勇者様の後を追うのですけれど、それは無理と言う物、ですからエルフさん、私の代わりに勇者様を守ってくださらない?」
ボクは胸元にあるエルフの秘石を握りながら、話を聞く。
今のボクがここから逃げたとして、それで何とかなるんだろうか?多分王族殺しの汚名を着せられた勇者は、人間社会で真っ当に生きていく事は出来ない。
ならばエルフの国都ではどうだろうか?人間側に借りばかりのあの場所が、勇者を匿う可能性はゼロだ。
「姉姫様、ボクは・・・」
その時、姉姫様の背後に現れた影。それは王国戦士と彼に率いられた近衛戦士団だった。
「何をする気だ!」
背後の敵に気づかず、ボクに対して祈るような仕草をしている姉姫様は、扉の前をその巨体で塞いでいる形だった。そして王国戦士たちは既に抜刀している状態で、危ないのはボクではなく、姉姫様だ。もし姉姫様が言ったように王族殺しが行われたのなら、姉姫様も殺される可能性がある。しかもその犯人が王国戦士だったなんて。
長くもない旅だったけど、彼は自分の意思で謀反をするようなタイプじゃない。妹姫様と婚約していながら、魔法少女に手を出そうとしても、ボクに邪魔されたくらいで、旅が終わるまで結局恋仲にはなれなかったのだから。
「本気なの?」
「もとより、一時の気の迷いで王族に刃を向ける程愚かではない、邪魔しなければエルフを殺せとは聞いていない、黙っていれば旅の仲間だった誼で見逃してやる」
やっぱりだ、この男は自分の意思で王族を傷つけようとしているわけではない。黒幕は別にいる。
「お前の婚約者は、無事なの?」
「答える義務は無いな、どっちにせよ俺は仕事を完遂するのみだ」
背後に迫る王国戦士に、流石に気づいている姉姫様は、しかし悲鳴も上げず、そこから逃げ出す事もせず、動かない。持ち前の巨体が王国戦士とボクの間の城壁の様だ。
「ふん、逃げる事はしないのですね・・・」
王国戦士の剣が姉姫様へと振り下ろされる。風の術式で王国戦士を吹っ飛ばしてやろうとしたが、姉姫様が首を振ってボクを止める。
王国戦士の剣が走り、姉姫様の肩から腰のあたりまで一気に斬り下げる。さすが魔物と戦い続けた戦士の刃だ。柔らかい脂肪の良くついた女性の体など一撃で死へと追いやる。
「エルフ、お前をどうするかはまだ決まっていない、大人しくしている事だ」
「ふっざけるなっ!」
血を流しながら床に倒れた姉姫様の陰から、最大出力で風の術式を王国戦士にぶつける。
「抵抗されたら、殺すしかないな」
可能な限り一点に集中させた風の弾丸は、一直線に王国戦士へ。最大出力であれば彼が着ている鎧も打ち抜ける。
「もちろん、対抗手段は持っているさ」
ちりん、と言う音と共に王国戦士が懐から小さな鈴を取り出すと、ボクの最大出力の風の弾丸が、それまで何もなかったかのように掻き消える。
「エルフ、お前は弓以外は二流だったな、勇者も二流だった、案外お前らはお似合いだったのかもな」
王国戦士が姉姫様を踏みつけて、部屋の中に侵入してくる。
ボクに残されているのは、いつの日か勇者に貸したナイフだけだ。弓は姉姫様の向こうに立てかけてあり、手に持つには王国戦士を倒さなければならない。
「くそうっ」
ナイフを構えて、王国戦士を迎撃しようとするが、そこで何故か王国戦士は姿勢を床につけるぐらいに低くした。その向こうには
「しまっ・・・・」
最後まで声にすることが出来なかった。
王国戦士の向こう、姉姫様がその巨体でせき止めていた戦士達は弓を構えていた。見事な連携だ。狭い部屋の中と言う事で、エルフであるにも関わらず弓矢での攻撃を失念していた。
いつもの皮鎧も着けていない。
「ちくしょう・・・」
体に刺さる3本の矢、一気に力が抜けて、ボクは姉姫様と並ぶ様に床に倒れ込んだ。
さらに背中に痛み。とどめと言う事なんだろう、王国戦士の剣が背中から腹を貫き通す。
ああ、これはだめだ。もしここに妹姫様が居て、回復術式をかけてもらっても回復は出来ない。つまり死ぬと言う事。
胸元にあるエルフの秘石を使っても、一時的に命をつなぎとめるだけで、すぐに衰弱して死んでしまう。この秘石は持ち主の生命力を使って怪我を治す秘石だ。
持ち主の生命力が底をついている場合、その回復力は奇跡を起こさない。
「予定外もあったが、まぁあの人なら想定の範囲内なのだろう、勇者が逃げたらしいが、所詮勇者スキルは封じられているただの小僧だ、長生きは出来まい」
王国戦士が部屋を出ていく足音が辛うじて聞こえる。
「出来る事は、出来る内に、出来るだけ、やる、だっけか、勇者・・・」
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる