くず異世界勇者~こんなくそ世界でも勇者してやるよ~

和紗かをる

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第4章 逃避行しながらの再会は圧倒的に不合理でご都合主義って事は判っているさ。

4-3

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 意識が飛びそうになるのを、必死で堪える。
 いま気絶してしまったらきっと、もう、二度と、目が開く事は無いだろう。
 ああ、眠い、全身に倦怠感があって、血が流れて実質的な重さは軽減しているはずなのに、ひどく体が重く感じられる。
 近くに倒れている筈の、姉姫様の巨体が遠い。
 だけど、ボクにはまだ出来る事がある。国都の長老衆が聞いたら何を馬鹿な事をと言うだろうし、エルフの秘石の力をエルフではなく人間に使うなど言語道断とか喚くんだろう、でもそんなの関係ない。今ボクが助けたいと思うのだから、助けるんだ。
 彼女、姉姫様はきっと勇者の力になる人。
 それに彼女が生きていれば、きっと王国戦士と共謀した人にも打撃になってざまあみろだ。 
 あいつはまだ、生きているのかな?
 ふふっ、あいつは死ぬわけがないか・・・。
 あいつは、誰かに殺されたって死にそうにないし、実際縛り首になってぶら下げられても生きていたって聞いた。
 あのふてぶてしくて傍若無人で、自己中心でしか道を歩けない男が勇者だなんて笑っちゃう、神様いるか知らないけれど、良くもやってくれたわね。
 あんな男を勇者にしなきゃならないなんて、本当、同時代に生きた人族は不幸よね。私を殺した王国戦士も、妹姫様も、魔法少女も私以外はみ~んな人族。だからエルフであるボクだけが高みの見物をするから、あんたたち人間はせいぜい苦労すると良いわ。
 これからあの男が、勇者って肩書をもたずにきっと、人族の傲慢さとか、策謀とかをぶっ壊しに来るんだから。
 ボクはそれを、遥かな高みに上って高笑いするんだから。
「くっ、もう少しで、届いた・・・」
 エルフの秘石をもった手が、姉姫様の巨体に届く。
 彼女が巨体でなければ、もっと時間がかかっていたかもしれないし、ボクの方で命の時間切れになっていたかもしれない。そう考えると姉姫様の巨体はなるべくしてなったのかも?
「悠久の時の流れに生れ落ちし、妖精女王の眷属たちよ、時を遊び、時を司り、時と共に生きるあまた精霊の王オウビロン、その地に連なる我らの願い、我らの祈り、我らが想いを聞き届けられよ、伏して古より連綿と続く盟約の履行をここに求めん、捧げるは命の輪冠、求めるは時の雫、対価と効果を天秤に、その器で書き換えよ時の王」
 発動した。
 エルフが死ぬまでに、たった一回だけ発動させることが出来る命の術式。
 発動媒体には、エルフの秘石。これは先祖代々受け継いでそれぞれが生まれてから死ぬまで魔力を注ぎ、純度を高めていった石だ。
 それと必要なのは、死を覆すほどの生命力。
 ボクにはもうない。
 だけど、彼女には可能性がある。なにせあの体と、矢が刺さってもここまで来た力があるはずだから。
 エルフの秘石が紫からピンクに輝き始め、姉姫様の肉体へと沈んでいく。
 この術式は使ったことも無ければ、見たことも無い。エルフが一生の内に1度しか使えない術式の為、仕方がない。だから、どんな形でこの術式が稼働するのか判らない。
 この秘石と共に母から教わったのは、術式を発動される祝詞とこの石を治したい相手に直接触れさせることだけ。
「大丈夫・・・、よね」
 ピンク色の光の筋が沸き上がり、それが姉姫様の体を包み込む。
 包み込むだけではなく、脈動し、その度に姉姫様を構成する物が粒子状に分解していく。多量な生命力を秘石が喰っていると言う事なんだろう。
 光が姉姫様を食べつくしてしまいそうになるが、流石は巨体の姉姫様。エルフの秘石術式でも生命力のすべてを捧げる事は無く、十分の一程度は残っている。
 その残りの部分を再度ピンクの光が包み込むと、中から魂の色は同じだけれど、見た目は全然違う少女が出て来た。
「あれ?これで成功って事で、いいんだよね・・・」
 姉姫様はこれで助かった、彼女は色々変わっちゃったけど、元の姉姫様は勇者が怖がるほどの人だったから、ちょうど良かったのかも知れないな。
 ボクはあいつについて行けないけど、姉姫様のヴァイタリティがあれば、情けない勇者でも文句言いながら前向いて歩くでしょ。
 結局二度と会えなかったけど、あ~あ残念。もう一度あいつの仏頂面を笑ってやりたかったな・・・。

「それで、それでエルフは死んだのか?」
「多分、私が気づいた時にはエルフは消えて、これだけが残っていましたの、死体は見ていませんけれど人を蘇生する魔法術式を使ったのだとしたらその対価として、全部持っていかれたって不思議じゃないですわ」
 姉姫様がピンク色の石を渡してくる。これはあいつの胸元で良く光っていたペンダントの石か・・・。
 けど、あの冷たい目で睨んできたエルフがもういないとは。
 最初のクエストの時は、そりゃ酷い関係だったけど、最終的には割といい関係だと、この俺が思えるほどには信じて信頼もしていた相手が死んだ。
 しかも、エルフを殺したのは王国戦士だと。
 あの野郎、素直に腰ぎんちゃくだけやってればいい物を、エルフを殺るって事は、俺に完全に敵対したって事だ。
 今すぐには何もできない。
 今は自分の身だけでさえ守れるか判らないほど非力で、復讐も出来やしない。
 相手はあれでも人族の中ではエリートな戦士だ。勇者スキルなしで挑めば瞬殺されるのはこちらの方となる。よくそんな復讐をしたって、死んだあの人は蘇らないだとか、死んだあの人は今の復讐しているあなたを喜びはしないとかって言葉があるが、間違いだ。
 復讐は他人の為にする事じゃない。
 復讐は徹頭徹尾自分の為だけに行う行為で、美名とかあるわけがないただの八つ当たりの親戚筋でしかない。
 死んだあの人の為に誰かを殺す、なんてあってはいけない。
 生きる俺の為に、誰かを殺す。そうで無いと俺の心が、俺自身を許せないから。
 王国戦士、今は実力不足で準備不足で、復讐が出来ないけれど、覚えておけ。
 誰かのではない、俺のエルフの命を奪ったんだ。覚悟しておけ・・・。
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