くず異世界勇者~こんなくそ世界でも勇者してやるよ~

和紗かをる

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第7章 再起は此処から!その名も青の村って名前はベタだけど

7-4

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 あの日、私が体調を崩したその時に勇者様が王国戦士と妹姫の手により捕まった。細かい罪状は色々と上げられるが、大まかに言うと、勇者様の行動は王国にとって良くないと言う事が主だ。確かに勇者様のやり方は、普通の人にとって褒められたものじゃない。力づくな部分や、一方通行的な部分もあった。けれど、勇者様を神の御使いと定義するならば、人の枠で考えること自体が間違いで、勇者様からもたらされることは神の御意志として判断するべきではなかろうか?それが不都合と言うのならば、そういう人の方が神の信頼を裏切っているのではないだろうか?
 だから私は勇者様を支持して、ここまでやってきたのだが、いざと言うときに力になれず、その後も体調を崩しがちでやっと以前の力が出せる様になった頃、勇者様が王城を脱出した事を聞いた。
これで勇者様が自由になり、その後の彼が王国に復讐するならば手伝うし、勇者様と言う立場を捨てて、どこかで静かに暮らすのならば敢えて会いに行くことは慎み、私も静かに暮らそうと考えた。
 僅かな心残りは、エルフの事。彼女も口ではなんだかんだと勇者様の事を話していたが、その実、彼の破天荒な何でもかんでも打ち破って正義を通そうとする姿勢に憧憬を持っていた事は間違いない。私も同じだったからだ。
 その彼女が王城に文句を言いに行くと、妹姫を訪ねて行ったきり帰ってこなかった。 
 勇者様を脱出させるために命を賭けたのか?命を賭けねばならないとエルフ自身が感じた時に彼女は、ためらいはしない性格だ。
 きっと彼女はそうして、本望を達したのだろうな。そうしなければならない原因に妹姫様と王国戦士が居るだろうことは想像に難くないけれど、だからと言って復讐で彼らを襲うなどと言う事は神も許さないし、私も望んではいない。
 私は槍の聖騎士なのだ。教皇庁が牛耳る教会の中に合って聖騎士だけは別格として独立的な動きが許されている。だからこそ教皇庁がその真偽を疑っていた勇者様に独断で従った。それで睨まれる相手は増えたが、その数倍の民を救えたと思うので、後悔はしていない。
 思えばあの時が、一番幸せだったのかもしれない。勇者様が居て、エルフが居て、魔法少女も王国戦士も妹姫様も、そしてもちろん私も、この世界を、この世界の人たちを救うんだと思って行動していた。日々の行動は皆違っていたけれど、目標とするところは1つだけ。単純明快で間違えようもない弱者救済の理。
 それだけを信じて我武者羅に切磋琢磨してきた筈だったんだがな・・・。
「どこで私は間違ってしまったのだろうか・・・」
 王城から脱走した勇者様を追う事も出来ず、教皇庁に逆らうわけでもなく、王国の権力者である王姫様や王国元帥に問いただすわけでもなく、ただ漫然と動けずにいる。
 昨今、王姫様が発布した新しい法律についても、教会の方では色々言っているらしいが、詳しい話は私の耳には届かない。勇者様と一緒に旅をする前から政治音痴として周囲に認識されていたので、詳しく説明しようとは誰もしてくれない。寂しい話だ。私だって槍の聖騎士として立場がある。元仲間が関わっている政治の話位は理解したいと思うのだ。
ギシギシ・・・。
 宿の廊下の木材床が鳴る。ここは宿屋の三階の一番奥の部屋。わざと床が鳴る様に細工を施してある。宿の主人には悪いが、彼は信徒であるから槍の聖騎士のやることに文句などは言わないし、言えないだろう。聖騎士は教会の位階には組み込まれていないが、一般に神の御使いと同格とされ、誓約書上では奇跡の守り人と記述されている。
 そんな槍の聖騎士が泊まる部屋に忍んで来るのは一体誰だろうか?
 信徒であれば、必ず前月から予約を入れてくる。こちらの都合も考えず予約もなしで訪問する輩は稀有な存在と言っていい。
 まさか教皇庁が聖騎士を疎んじて、四つ葉の騎士の誰かを送り込んできたとしたらどうだろう。彼らは自分たちの信じる教えこそがすべてで、それに逆らう物は悪と簡単に断じる向きがある。彼らの言いなりにならない私が邪魔になってと言うのは、割とすぐに思いつく内容だ。聖騎士の排除に、教皇庁最大戦力である四つ葉の騎士を使うのも納得いく。信徒の数は多いが戦う能力の高い者は騎士団に所属する事が一般的で、教皇庁が自由に動かせる手練れとなると彼らくらいしか想像出来ない。
「ここでは不利になるな・・・」
 大き目の部屋ではあるが、ここで槍を十二分に振り回すだけの空間は流石にない。そうなると相手がドアを開けようとした刹那に槍で突貫するか、逆に背後の窓から飛び降りて、槍を壁に刺して落下の速度を抑えて広い場所で戦うかだ。
ギイィィ
 悩んでいる暇はなさそうだ。
 ドアが動いている。
 ドアノブがない押戸の表面がゆっくりとこちら側に開いていく。
「ええい、ままよ!」
 槍を掴んで突貫を選択する。
 聖騎士の持ち物としては貧相な槍だが、正式な聖騎士の槍を使うにはいちいち届け出と許可が必要なので、ここには無い。
 貧相な槍だが、この槍は勇者様がどこぞの迷宮を攻略した際に出て来た武器らしく、見た目はそれなりだが、どんなに乱暴に扱ってもヒビ一つ入ることなく、長く使える頑丈な代物だ。
 戦場で信頼できる槍は、自分の命を賭ける武器になる。そんな事を言って渡してくれた勇者様の顔はぶっきらぼうな、興味なさそうな仏頂面だったが、渡された武器は大したものだった。その武器に少しだけ真力を乗せて突き出す。
 全力で突いてしまうと、ドアだけでなく宿の壁や、その向こうの建物まで被害にあう可能性があるので、抑え目だ。それでも魔獣を串刺しに出来る威力はある。
「まさかっ、なんで?」
 だが、私の放った槍先はドアを押して入ってきた人物に届かなった。
 そのこと自体は驚きの事で、この距離で私の槍を回避するのではなく、刺さらない様に防ぐことが出来る人間はそうは居ない筈だ。昔エルフに向かって偉そうにしゃべっていた勇者様の話だと、世界一決定戦をすれば、上位10位以内に入る一撃だった。
 そう驚きだったのだけど、それ以上に驚きだったのは大分やつれてあの頃の面影は薄くなったけれど、まだまだ美貌と言って差し支えない人物が、防御の三重術式の光の向こう側にいたからだ。
「妹姫様?・・・いいえ、今は王姫様でしたか?なんで」
「槍の聖騎士、センシア・エミュレスク、私を、私たちを救って欲しいのです、その何物にも負けない強くまっすぐな聖騎士の輝きを、今の私たちは唯一の希望としているのです」
 王姫様の背後には何人かの人が見えるが、その誰もが武装をしていない。と言うか、武装以前に王姫様を含めて全員が薄い夜着を纏っているのみで、とても外出が出来る格好ではない令嬢たちだった。年の頃は王姫様と同じくらいだと見て、16~17歳くらいだろう。一般的には体も成長期で、体力も充分な年代なのであるが、この令嬢たちにそれを求めるのは酷に見える。
 1日歩いて隣町に到着したら、半分は途中で倒れていそうな雰囲気だ。
「王姫様?救うとは?いったいなぜこのような時間にこの場所に来たのですか?」
「センシア、貴方が居るのは事前に調べさせておりました、あの統政府の新法案発布から、こうなる可能性を予想していたからです、もう王城に統政府は存在いたしません、統政を構成していた皆々様は全員亡くなりました・・・」
「なんと、そのような暴虐一体・・・、ああ、彼か」
 考えなくても判る事だった。王姫様が逃げてきて、彼女に従っていた人たちが亡くなったとするならば、その原因は彼女に反対していた派閥が犯人。王国元帥派が統政府の発布した新法案を許せずに、力で潰しに来たのだろう。
 それほどまでに今回統府が発布した、王様を除き、貴族も聖職者も騎士も、農民や商い人もすべての権利は平等であり、能力による区別はあっても生まれた階級で差別はしないとの宣言は反対派の王国元帥派としては恐怖だったのだろう。
 王族以外が平等となれば、王族が所属していない王国元帥派は徐々に衰退していく運命だったし、まさに王姫派はそれを狙っての発布だったろう。その前に今持っている力を駆使して流れを引き戻そうとしたと言う事か。
「彼らは一気に王城を占拠し、近い内に新政権を発足させ、王国を手に入れるでしょう、けれどそれは幻想となります、彼らはまだ気づいていないのです、すでに王国は王や貴族や騎士の物ではなくなったと言うことを、その実権はわずかな特権の階級が握るのではなく、王国に住まう8割近くの民衆が持つのだと言う事を」
 何か難しい事を言っているが、私には良く判らない。
 私に判るのは王姫様が、王国元帥に喧嘩を売ったにも関わらず、負けて逃げて来たって事くらいだ。
「ちょっ、ちょっと逃げて来たんですか王姫様、って、えぇ、王国元帥派が攻めてくるじゃないですか、どうするんですか?何か考えがあるんですか?当座の避難場所の確保とか・・・」
 さっきまでの冷静な思考は一気に砕け散り、今にも王国元帥派の兵隊が攻めてくるような気がして、背筋がぞくぞくする。
 魔物相手なら別段問題ないが、実は私は幸いにも人を刺したことは一度もないのだ。対人戦の経験は皆無なので、人に囲まれてしまうのは怖い。
「あては、ありません、しかしこのまま王都に居たところで排除されるだけの身です、王都を出て西へ、魔族領が近い方が、王国元帥も無茶はしないでしょう・・・」
「承知いたしました王姫様、ところでそちらの令嬢たちは?」
「統政府に参加した大貴族や大商人、判事などの子女たちです、各々の屋敷では暗殺の危険があるとして、わたくしと共に生活していたのですが、今回の事で完全に帰る場所を無くした哀れな方たちなのです、是非とも守って差し上げたいと考えておりまして」
「そうですか、皆々様、これより脱出を先導いたしますセンシア・エミュレスクと申します、道中は貴族がどうの、階級がどうのと言ったお話は一切なされないでください、もしそんな態度であるならば王都に残った方がましな人生を送れると思います、苦労は覚悟の上と思い固めた人のみ一緒に参りましょう」
 数名の令嬢が堅い顔をしたまま、その場に崩れ落ちたが、それ以外の令嬢は決意を顔に浮かべ、王姫様と共に西へ進むことを選択した。
 しかし王姫様は西に何があると言うのだろうか?
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