くず異世界勇者~こんなくそ世界でも勇者してやるよ~

和紗かをる

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最終章 え?これで終わりでいいのかよ?続きなんかこの俺は知らねぇぞ

12-2

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ぶっ飛ばした感触はあった。固いザラザラとした毛と、その奥にはっきりと柔らかい生き物の感触があった。
 頭に血が上っていたかどうか、そこらへんは微妙だけれど、確実に戦力全開の拳による一撃で、普通の生き物であるならばそれが魔族だろうが絶命の一撃になることを確信していた。しかし
「なんだ、変な感触だ」
 いうなれば、ゴム毬を殴ったような感覚。打撃は与えたけれど、それによってダメージが通ったかは微妙な感触あ
「幻惑系の術式か?」
 勇者に幻惑系や、魅了系の感覚を惑わす能力は効力がない。と、それは勇者スキルが100%の時の話なんだけれど、勇者スキル20%の今だって、感覚を惑わす術式は効き難いし、たとえその術式によって体の感覚を惑わされたとしても、俺に自覚をさせずになんてのは無理な話の筈だ。
 つまり、全力でぶん殴った良く判らない生物は、俺の一撃に耐えたと言う事になる。
「はっはぁっ、ムカツク奴じゃねぇか!この勇者様の一撃を喰らって死んだふりしているとはよ、生意気すぎてもう一回殺してやりたくなるぜ」
 吹っ飛んだ先で仲間?元仲間の王国騎士たちに埋もれる形になっていた何かに俺は語り掛ける。王国戦士が俺に殺されて、我先に逃げようとしていた騎士共にボーリングのストライクよろしく謎の生命体は突っ込んでいたからだ。
「ふぇふぇふぇっ、流石勇者といった所かい、まさかアッと言う間に見破るとはな、この世界の勇者はクズで莫迦と言う噂だったが、存外勘だけは鋭い様だ」
 グワッと騎士たちの山が崩れると、その中から白い猿が現れた。手は6本、背中に蝙蝠の羽がついている癖に、足は2本しかない。バランスとるなら足は4本くらいは無いといけないんじゃないか?上半身にパーツ付けすぎのトップヘビーな体形だ。あれでは体のつくり的に素早い動きは難し気がする。
「勘だけとか言うなよ、照れるぜ」
「いや、まったく照れていない上に、構築時間ノータイムで術式連発とか、流れの読めない異星人かよ?」
 へ~こいつ、異星人って言う単語が判るんだ。それってつまりこの異世界産の生き物じゃないって事だよな。この世界ではまだ宇宙という概念は深く研究されておらず、せいぜい星の位置や月の位置で起こる季節の考察がなされている程度だ。真っ暗な夜空の向こうに自分たちとは一風変わった生物が存在しているかもしれない等と言う考えは、この世界には当然だけど無い。俺の前の世界だって異星人がどうこうって言いだしたのは近代に入ってからだ。人によってはカグヤ姫こそ最古の異星人との接触記とか言う人も居るらしいが俺は詳しくはしらない。
 判ったのはこの白い毛を持つ猿が、この世界の存在ではないって事だ。俺は異世界人だけでまさかこの猿、俺と同じだって言うのか?
「おい猿、なんか偉そうな口きいてるけど猿、大層に人の言葉をしゃべりやがる猿、とりあえず邪魔だから森にでも帰れ猿」
「猿猿言ってんじゃねぇ!俺はれっきとした悪魔の一員で、中級悪魔様だ、勇者だろうが人間である限り俺様に敵うはずがねぇ、王国戦士の体に取りついてその栄養を溜めた今の俺にはたとえ上級悪魔が世界を亘ってきても敵じゃねぇのさっ」
「あ~ぎゃいぎゃいとうるさい猿だ、猿山見失って放浪しているただのはぐれの癖して、一人ぼっちで偉そうに、死ね!」
 グダグダと言い募る猿に対して、風と火の術式を合わせた火炎術式を叩きこむ。もちろんそれで倒せる相手ではないと読んで、若干遅れて冷気と水の術式を合わせてマイナス200度ほどの極寒冷気と副次的に作り出した無数の氷塊を飛ばす。
 打撃がゴム毬の様な体に防がれるなら術式を使うしかない。さらに、温度を上げる火炎術式の直後にマイナス200度の冷気と氷塊を少し遅れてぶつければ金属疲労に様に、猿の体を蝕むに違いないとの読みでの攻撃だったが。
「そんな子供だましの術式など効かぬなぁ~」
 へぇ~あれで無傷なら結構ヤバいかもなぁと思って猿をよく見ると
「おまっ、結構ぼろぼろじゃねぇか?」
 猿の6本の腕の内、半分の3本が焼け焦げたり、火炎から冷気と急激な温度変化に耐えられなかったりしぐずぐずと腐り落ちている。さらに白かった毛はあちこち焼け焦げて、斑模様だ。
 子供だましの術式を喰らって平気だと威張れる状況には全く見えない。つか、もうすぐ死ぬんじゃね?と思える重傷にしか見えん。
 何?悪魔とか言ってたけど、実は笑い取る要員なの?
「え?なんで??だが、これしきの傷今まで集めた力を開放すればあっという間に、ほれっ治るわけよ・・・あれ?」
 確かに少し傷は治っているようだが、それでも全快に見えない。口だけなんか?
「馬鹿な!なぜにこの様な・・・」
「あれ、あっちのあれが原因じゃないです?」
 魔法少女の指さす先、そこは城塞都市の赤い城壁が聳え立つ。さらにその一角で金色でもオレンジ色でもない、その間の様な夕焼けの様な光が輝いているのが見える。
「あれは、なんかの儀式系術式なんだろうね、それでも距離のはなれたここからでも燦然と輝いてみえるなんて」
 槍の聖騎士が言う通り、城壁の上の輝きはどんどん大きくなって、まるで地平線に沈む夕日が手の届く場所にあるかのようだ。
「げぇ、あれは加護の光!まさかこの世界に加護の使い手が居るなんて話は聞いていないぞ!
 うん、俺も聞いていない。
 そんな話聞いたことも無ければ、こんな猿がそれに対してテンプレお約束気味に叫んでいる内容も聞いちゃいない。
 ご都合主義が流行りかとはとは、いつぞや思った事だけどこのタイミングでの加護の光?ってご都合主義的な奴には正直辟易だ。ストーリー作ったやつ出てこいっ!話を纏めたいからって、いきなりのご都合主義的展開はいくら締め切りがあるからって読者に逃げられるぜ。
 とか、訳の分からない事を考えている間にも、加護の光?を浴び始めた猿の体は、ぐずぐずと溶け始める。カレーになる前の鍋に固形のカレールーを溶かして入れる位、確実に猿の体積が小さくなっていく。
「今回も俺は何もしないうちに、終わりっぽいけど、まっいっか」
 一瞬苦労させられるかもとか思ったが、自然に敵が消えてなくなるなら全然オッケーだ。
 どっかの偉い中国の孫正義さんじゃない孫さんが、戦わないで勝つことこそ至上と言っていたとか、誤訳だとか?
 だから勝ちなら良いんだ。味気ない終わりかもだけど。
「お前ら、もうこの世界は本物の魔の眷属達にロックオンされてるんだ、近い内に悪魔の軍勢がこの世界を蹂躙するからな、その時になって悪魔に泣いて詫びれば良かったと思っても遅いからな」
「そうだな、既に遅い、お前がそれを言ったからって俺がお前に対する態度は変わらないし、1000分の1の確率で態度を変えようかなって思っても、お前どうせすぐ死ぬし、そんな死ぬ相手の事なんかどうでもいいし・・・」
「この、クズ勇者がっ」
「知らんよ、悪魔に対してクズなら、勇者的には誉め言葉だろうしな」
 俺の言葉に何かを返そうとした猿だったが、それが声になる前にその全身が光に溶けて消えていった。
「ふむ、中級悪魔、光に散る、アーメン・・・ってこの世界では言わないかアーメンって」
「?」
 槍の聖騎士と、物理的腰ぎんちゃくの魔法少女が俺の事を不思議そうに見るが、放っておく。判らない奴に説明しても疲れるだけだし、宗教の話とか日本人感覚で伝えると勘違いから説教でもされそうだ。
 神を信じますか?いいえ、神を讃える祭りを楽しみます。
「勇者様~」
 遠くから置いてきぼりにしていた姉姫様が、全力全開ダッシュで近づいてくる。
 間にいる王国軍の騎士とか、教皇庁の騎士とか跳ね飛ばして、片手に狼頭と言う特徴を持つ魔族軍の偉そうな奴の頭をアイアンクローよろしく掴んで引きずったままやってくる。
「あのよぉ、ここはもちっと感動的な場面で良くないか?」
 力いっぱい駆け寄る中身は熟女な美幼女。片手に捕虜っぽい魔族を引きずり、偶然進行方向に居た敵も仲間も蹴散らし一直線に近づいてくる姿は、正直ラブロマンスではなくてホラーコメディの何かだ。
「ちっと、面倒くさそうなんで俺はふけるわ、聖騎士ちゃん後は頼んだ!」
 しかして、短距離転移の連続で俺は逃げ切りを図る。
 それから短時間王国横断の人類記録を破る戦いが始まるとは思わなかった。
 え?勝者が誰かって?決まってるだろそんな物、俺が化け物と認める変態が勝者だよ。
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