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第1幕『半人半蛇(蛇人間)』【華】
第21話『Secret Talk<前編>』
しおりを挟む――――同時刻。場所は変わって、再び団長の仕事部屋。
「…………ほう。グミちゃんも白夜も観客を煽るのが上手いな。正直言って期待以上だ。グミちゃんは接客業歴が長いようだが、演劇等舞台に立った経験はないというのは調査済みだった。しかし、口下手でシャイなはずの白夜はグミちゃんに引っ張られてどんどん進化している。嬉しい誤算だ。パートナーとしても相性バッチリの二人は、近いうちに我が団の稼ぎ頭になるだろうな。おまえはどう思う?」
団長は一〇〇八号室の様子をモニタリングしていた。評価は上々だ。
「僕もそう思います。この感じならすごい勢いで口コミ拡散するでしょうね。あっという間に何ヶ月先何年先じゃないと予約取れなくなっちゃいますよ」
透明人間・クラールハイトもコーラ片手に二人を見守っていた。
「そうだな。だが、グミちゃんが妊娠したら出産してしばらくはたっぷり休暇を取らせてやりたい。人気が出すぎるのも問題だな……」
「もしかして、社会人になってから慌ただしかったぽいから――すか?」
「そうだ。人間たちは――ことこの国の人間は老いも若きも働きすぎ、他人に気を遣いすぎではないか。ほんの何日かの休暇をもらうにも頭を下げて、帰ってきたらお礼の品やら土産物やらを渡して。好きでそうしているならいいが、皆が皆そうではないはずだ。転職時にも、空白期間があるとしつこく詰められるだの心証が悪くなるだのと聞く。よほど気に入っている者は別として、仕事は金を稼ぐための手段だろう。それが目的になってしまってどうする。グミちゃんは好きで仕事に忙殺されていたクチではないようだからな……。まぁ、異種族同士だ。なかなか簡単には授かれんだろうし、休暇を与えるのがいつになるか見当もつかんが…………」
「団長も僕からすれば働きすぎですけどね」
「問題ない。わたしは好きでやっている。……大抵の仕事は代えがきくが、わたしの場合はそうもいかないことも多いしな」
最高責任者であり魔法使いの彼女は、世界地図を広げている。次回の公演場所を検討しているのだろう。
「そうですか。いつも言ってますけど、僕にも手伝えることがあれば一番に頼ってくださいよ。あなたは代えのきかない仕事に集中してください」
「もちろんだ。だから、今もこうして付き合ってもらっているんじゃないか。我が団の人気ナンバーワンは他にいるが、おまえほど仕事熱心な奴はいない。おまえがいれば百人力だ。……近頃は頼りすぎている気もするし、ろくに礼も出来ていないな。すまなかった。ひと仕事終えたタイミングで、おまえにも何か褒美をやらんとな」
「僕はいいんですよ。こっそり僕のボーナスだけ他の団員と桁違いに多くしてくれてるのも知ってます」
「贔屓ではなく正当な対価だぞ。時間外手当・特別勤務手当といったところだな。だから、わたしとしては十分な返礼が出来ていないという認識なのだが、何かないのか? 欲しいものでも待遇の改善要求でも聞くが」
「団長のおそばについてこうして勉強させていただいてるだけで、他には何も――……」
クラールハイトがぎゅっと両目を瞑った。その言葉には欠片も偽りはなかったが、それはあくまで現在の彼の気持ちであり、過去の彼はそうではなかったのだろう。
「…………そうか。無欲な奴だな」
彼がただ一人欲した女性は、静かにグラスを置いた。
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