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第十六話 ラブストーリーは凸凹に
しおりを挟む僕たちは、I統という組織に対し戦う乙男女戦士として活動することになった。
アルンちゃんとミトちゃんに関しては、一応乙男女戦士としての活動メンバーの一員として迎え入れたが、若い二人にもちろん何かをさせるわけではなく、二人を納得させるためだけの名ばかりのメンバーだ。
しかし実際はなにか動き出したわけでもなく、いつものように客の来ないカフェの準備をしたり、いつものようにレッスンをこなしたり、そしていつものように皆と一緒にぬるい日常を過ごしていた。
ただ、大事な先輩を亡くしたばかりのアオの事が心配だったので、なるべく声をかけたり、気にかけるようになった。
そして以前より、少し仲良くなれた気がしていた。
一方でルカとはなんとなく会話もぎこちなくかみ合わないことがあった。
そのことで営業前に紅と会話していた。
「ルカさん最近僕になんか冷たくないですか?」
「またあんた、何かやらかしたんじゃないの?」
「いや、心当たりまるでないんだけどなぁ」
「こないだもアオちゃんと喋ったてただけなんですけどね」
「ん?ああ、なるほど。そういうことか。あんたやっぱり鈍いわねぇ」
「え?どういうこと?」
「アオちゃんと喋ってたら、機嫌悪かったんでしょ?」
「うん」
「ならそういうことじゃない」
「ん?」
「んー?」
「え?ああ!そういうことかぁ!」
「そういうことよぉ」
「さすが紅ちゃん。よく気付いたね」
「あ、当たり前じゃない。か、感の鋭さは可愛い子の特権なんだから」
「もしかして前からそうだったの?」
「え、えと……まぁ、そうかな」
「なんだぁ、全然気づかなかったよ。だったら言ってよー」
「そ、そんな人の恋路をみんなで噂して騒ぐほど子供じゃないんだから!」
「確かに。紅ちゃんて意外と大人だよね?」
「ま、その辺の女子よりは、い、良い女だと思うけど……あんたもちょっとは周りに気を使いなさいよ?」
僕たちは皆の所に行き、仕事を始めようとしていた。
店の奥からタオさんの声が聞こえてきた。
「ねえ、ちょっと、ルカちゃんとムンちゃん買い出しお願いしていいかしら?」
「はい、別にいいですけど」
返事をしたが、紅が僕に目配せで合図してきた。
「ん?」
まだ紅は合図を送ってきてる。
「あ!ああ!そ、そうだ、僕仕込みが残ってるんだった。もし他の人で手が空いていたら……あ!アオちゃんもしよかったら代わりに行ってくれませんか!?」
「ん?わたし?別に大丈夫ですよ」
アオは快く返事してくれた。
しかし、すぐに横から声が飛び込んできた。
「あ、あの!わたし手が空いてるんで、もしよかったらわたし行ってきましょうか!?」
クロが割って入ってきたのだ。
「ありがとう、クロちゃん。じゃあルカさんと二人でよろしくね」
「はい!」
僕と紅はお膳立てするつもりで、ルカとアオを二人で買い出しにいかせようとしたが、クロの申し出に咄嗟の計画が崩れた。
「じゃあちょっと行ってくるわ」
「はい、行ってらっしゃい!」
「じゃあ、僕も仕込みに入るんで、紅ちゃんとアオちゃんは店内の準備お願いしますね」
皆それぞれ各々の仕事に取り掛かり始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルカとクロは駅地下の食材コーナーに来ていた。
「別に買い出しくらい俺一人でいけるからいいのに?」
「いや、でもそれなりに買うもの多いし、ちょうど手が空いてたんで……」
「そか?」
会話がなく、少し気まずい雰囲気。
「あ、あの、最近ムンさんとアオちゃん仲良さそうですね……」
「うん……そうだな……」
「あ、あの、ルカさんは二人の事どう思います?」
「は?なにそれ?どういう意味?」
「え、いや、あの、アオさん可愛いし……お似合いだなって……」
「それって俺にどういう意図で聞いてんの?あんまり人の感情探んなよ!あんたに関係ないだろ?」
「ご、ごめんなさい……」
会話は終わり、少し重い空気の中、店に戻ることにした。
一方カフェの方では、僕は一人仕込みに入り、タオさん、紅、アオの3人は営業の準備をしながら皆で談笑していた。
「今日は良い男でも来ないかしらね?」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないですよ。今月も超赤字なんですから」
「いいじゃないの、そういうトキメキがあってこそ、毎日の生活に張りが出るってもんよ。あなたたちもうかうかしてるとムンちゃん誰かに取られちゃうわよ?」
「な、なに言ってんのタオさん!わ、わたしはあんな奴なんとも……」
「そう?わたしはムンさん良い人だと思うよ」
「え!?アオちゃんってそういう趣味!?」
「趣味……ってわけじゃないけど……」
「ん?そうなると相関図がややこしくなるな……」
「相関図?なんのこと?」
「いやいや、こっちのはなし」
その時入り口のドアが開いた。
二人が買い出しから帰ってきたようだ。
「おかえり」
「ただいま……」
「ん?どしたの、クロ?なんか元気ないよ?」
「え?そんなことないよ。元気だよ」
「そ?気のせいか」
「うん……」
そして、営業時間を迎え、僕たちはいつものようにそれぞれの仕事に就いたのだが、僕と紅はルカの気持ちを意識してしまい、なにかと二人を近づけさせようとお節介をしていた。
そして今日の営業が終わった。
「じゃあ、トイレ掃除をルカさん……と、アオちゃんにお願いしていいかな?」
紅ちゃんの合図も瞬時に察知できるようになり、二人にトイレ掃除を頼んだ。
「いや、トイレ掃除くらい一人でできるから!」
「いや、でも折角だし……」
「あのさ!さっきからなんなんだよ!いい加減にしろよな!」
僕たちのやり過ぎた計らいに、ルカは怒りだしてしまった。
「なによ!ちょっと気をつかっただけなのに、そんな怒ることないじゃない!」
「気ぃ遣うってなんだよ!?俺がなんか頼みでもしたのか!?」
紅とルカが睨み合って立っていた。
「ちょっと!二人とも大きな声出すのよくないよ!」
アオが慌てて止めようとする。
「ちっ!ああ、もう、悪かったよ……ちょっと外の空気吸ってくるわ……」
そう言って、ルカは出て行った。
「なんか、裏目に出ちゃったね……」
「なによ、アイツ!大人のくせに素直じゃないんだから!」
「僕ちょっと謝りに行ってきますね。多分屋上にいると思うんで……」
予想通り、ルカは屋上にいた。
たまにここに来ては黄昏ているルカを何度か見かけたことがあった。
いつも気を張っているように見えるが、繊細な人なんだなと思ったりもした。
「あの、ルカさん……」
「なんだよ、ムンさん……」
「今日は、なんかごめんなさい……」
「いや、俺の方こそ……」
「いやいや、ルカさんは悪くないよ……」
「ダメっすね、俺……昔はこんなんじゃなかったんだけどな……いつからか、こんなに人にきつく当たったり、素直じゃなくなったり……」
そう言って、ルカは大きく溜息をついた。
こういう弱気なルカを見るのは初めてかもしれなかった。
「過去になにかあったんですか?あ、いや、全然詮索するつもりじゃないんだけど……」
「別に大したことじゃないですよ。ちょっとした人間不信があったり、大事な人とうまくいかなかったり……」
「大事な人って、好きだった人ってことですか?」
「それは……よくわかんないっす……でも、後悔は残っちゃいましたね……まあ全て俺が人の気持ちを考えずに行動した結果なんで自業自得ですよ」
「そうかな?詳しい事情は知らないけど、ルカさんはさ……いつも強がっているように見えるけど、本当は凄い優しくて、周りにも気を配れる心温かい人なんだなって、僕は思ってますよ……」
「相変わらず優しいねー、ムンさんは。だからみんなに人気あるのかな?」
「僕がルカさんより人気あるわけないじゃないですか。ミトちゃんだって、あんなにルカさんに懐いてるしね」
「はは、あいつはまだ子供だからな」
「でも、他人の気持ちを慮るあまり、自分の気持ちを蔑ろにするのは……いつかまた後悔しますよ……」
「――……――」
「だから、もっと自分のしたいように、自由に生きればいいと思うんです」
「それはムンさんに悪いよ……」
「ほら、また人に気を遣ってるじゃないですか」
「――……――」
「ここって、全然規制ないし、そもそもタオさんがあんな自由な人だし」
少しずつだが、ルカの心が解《ほぐ》れていってるような感じがした。
「俺も……自分に正直に生きていいのかな?」
「もちろん!」
「後悔……しないでくださいよ?」
そう言って、ルカは僕に歩み寄り、そして……
僕の唇を奪った……
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