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第十七話 流樺羽千歳の事情 高校編
しおりを挟む優しい性格と端正な顔立ちで、流樺羽千歳は子供の頃から女子にもてた。
女子だけでなく、老若男女問わず人受けがよかった。
学校での成績もよく、陸上部の副キャプテンとして活躍していた。
中学の頃から女性とは何人か付き合ってきたが、高校1年の時に付き合いだした熊沢佳子は、それまでに付き合っていた女性よりも好感が持てた。
とりわけ美人という訳でもなかったが、あまり派手な女性が好きではないルカは、佳子くらいの女性が居心地が良かったし、実際長く続いた。
高校3年の時、春日井という男子と同じクラスになった。
中学の時から同じ学校だったが、クラスは一緒になることはなく、存在こそ知ってはいたが喋ることはなかった。
春日井は休憩時間いつも本や漫画を読んでいて、一人で過ごしていた。
誰かと一緒にいるとこも見た事ないし、声を聞いた記憶もないような気がした。
見た目もパーツは可愛らしい部分もあったが、人受けするような容姿ではなく、クラスの女子は少し敬遠していた。
所謂オタクと言われるタイプだった。
ルカは部活を引退した後、ほぼ毎日佳子と下校していた。
ある日の放課後、職員室に用事のあった佳子をルカは教室で待っていた。
普段なら自分の席に座っていたのだが、後輩たちが活動しているグラウンドを見るため窓際の席に座って待つことにした。
その座った席の机の中にブックカバーの付いた本が入っているのがちらりと見えた。
最初は気にしていなかったが、自分の座っている席が春日井の席だと気付くと、何故か気になりだした。
(あいつ普段何読んでいるんだろう?)
いけないと思いつつ、その本を取り出してページをめくった。
漫画だった。
隻腕の剣士と盲目の剣士の戦いを描いた作品だった。
確認してすぐに机の中に戻すつもりだったが、作品に引き込まれ、5分ほど読んでいた。
気付くと横に人が立っていた。
春日井だった。
「る、るる、流樺羽君、そ、そこ、ぼ、僕の席なんだけど……」
「あ、ごめん、春日井!読むつもりなかったんだけど、見えてたのが気になって、つい手に取ってしまったんだ。ホントごめん!」
「べ、別に、ぼ、僕は、か、構わないけど……」
「ごめんごめん。でもこの本めっちゃおもしろいな」
「お、おもしろいよね。も、もし、よかったら、も、持って帰る?」
「え、借りていいの?」
「う、うん。い、今は2冊しか、ないけど……」
「ありがとう!なんかちょっと読んだら引き込まれちゃって、続きがめっちゃ気になってたんだ。あ、でも春日井も呼んでる途中とかじゃないの?」
「ぼ、僕は、もう、何回も読んでるから、べ、別にいいよ」
「おお、じゃあ借りることにするよ。サンキュー」
しばらくして、佳子が戻ってきて、いつものように二人で帰宅した。
「今日さ、さっき初めて春日井と喋ったよ」
「そうなんだ。どんな人だった?」
「ちょっとどもりがあるけど、良い奴で漫画貸してくれた」
「そっか」
そして、いつものように他愛のない話をして帰った。
家に着いて、借りてきた漫画の続きを読んだ。
またすぐに作品の世界に魅了され、一気に読み終えた。
翌日の朝、春日井に返して礼を言った。
「ありがとう。これやっぱめっちゃおもしろいな。一気に読んだ。続きが気になるわ」
「だ、だと思って、も、もし、よかったら、続き持ってきたけど、よ、読む?」
そう言って、3巻から先を紙袋に入れて持ってきてくれていた。
「え!マジで!?いいの!?めっちゃ嬉しい!ありがとう春日井!」
そこから春日井との関係は始まり、それ以降もお薦めの漫画を貸してくれた。
そのうち漫画だけでなく、小説、ゲーム、アニメ、アイドル、映画、色んなものを薦めてくれた。
春日井が薦めるものはどれも当たりだった。
そして春日井は意外に会話もおもしろかった。
色んな作品の批評や感想、それらを鋭く的確に洞察していた。
他の男子生徒と違い、下ネタを一切言わなかったが、春日井がボソっと言う一言も、ツボに嵌ってルカをよく笑わせた。
自分の知らない分野を切り開いてくれた春日井に、いつしかルカは夢中になっていた。
時々佳子と3人で帰るようになる仲になったが、本音は春日井と二人でいたかった。
そして、そのうち佳子を置いて、春日井の家にも行くようになった。
二人で漫画に耽ったり、時には勉強も教えてもらったりした。
そしてゲームも教わった。
ゲームの中で、春日井はルカを圧倒していた。
それもそのはず、春日井は全国クラスの格闘ゲームの大会で好成績を収めるほどの実力者だった。
ルカは毎日のように通い、春日井からゲームを教わり、段々と実力をつけていった。
春日井と出会い、毎日が充実していた。
この感情がどういう類のものなのかよくわからなかったが、とにかく春日井とずっと過ごしていたかった。
しかしいつの日からか、春日井は一緒に行動しようとしなくなり、段々避けるようになってきた。
ルカは自分が春日井に付きまといすぎたのかなと反省した。
だが実際はそうではなく、春日井の様子がおかしいことに気付き始めた。
春日井の服が濡れていたり、鞄が汚れていたりしている日があり、そして怪我ができている日もあった。
何も喋ろうとしない春日井からは真実がわからず、自分で原因を探り始めた。
春日井はいじめを受けていた。
複数の男女から、酷い言葉を浴びせられたり、暴力を受けていた。
主犯は佳子だった。
ルカが春日井とつるむようになって、佳子は不満だった。
ルカを取られたような気がしたし、平静を装ってたが3人で帰るのも本当は不愉快だった。
元々どちらかというと地味だった佳子は、ルカと付き合うことによって、ステータスが一気に向上したのだ。
中学時代の教室の隅の方で大人しくしていた人種から、今ではスクールカーストの上位の女子へとクラスチェンジすることにも成功したのだ。
それが、あのクラスの底辺の春日井の存在によって、自分の築いた地位が、ステータスが侵害されている気がした。
いじめが発覚してすぐに佳子とは別れた。
佳子は泣いて謝ってきたが許せるわけはなかった。
なによりあの日、春日井を蔑んだ目で見て言った「きっも」の一言が脳裏から離れなかった。
春日井には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「た、大したことないよ」と言っていたが、春日井は夏休みの内に転校していった。
春日井が転校してから、ルカは人とつるまなくなった。
春日井より一緒にいて楽しい人などいなかった。
他の同級生を程度の低い人種と見下し始めた。
それはルカの人相にも表れ、性格も以前のような優しい人柄ではなく、ドライで冷たい印象を与えるような人種に変わった。
そしてそれ以降ルカは女性を毛嫌いするようになっていた。
普段からその態度を示していたわけではないが、時折女性が見せるしたたかな部分や狡猾な一面を見ると、その嫌悪感は増殖した。
そして今後もし人を好きになるのなら、その人の人間性をしっかり見極めてから好きになろう、そう決めた。
だが、今後人を好きになれる日が訪れるのだろうかという思いもあった。
その懸念は的中し、あの日から何年経っても、誰も好きになることはなかった。
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