ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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招かざる客、東方より来たる

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僕は、その時、莉子のそばにいたかった。後から、僕がそう言うと
「私も、いて欲しかった」
そう言ってくれたのが、救いだった。僕は、面会に来たという人に会いに、外来のあるホールまで、降りていった。きっと、黒壁は、莉子を見つけた事を自分の手柄の様に話すんだろうなとうんざりしながら。
「来たわ」
人混みの中に、僕の姿を見つけた彼女は、周りの人にも、聞こえる大きな声で言った。視界に彼女の巣旗を見つけた時は、一瞬、逃げようかと思ったが、きっと、
彼女は、どこまでも、追いかけてくるんだろうなと思うと、逃げ出す勇気も無くなっていた。
「七海」
僕の声は、少し、怒っていた。僕は、ここにいる事は、七海には、伝えていないし、仕事中、会いに来るなんて、全て過去を放り出して、逃げてきた僕にとって、今までの、苦労が、全て、消えてしまう錯覚に囚われていた。
「よく、ここがわかったな」
「どこまでも、ついていく。そう言ったでしょう?」
「帰れよ。ここは、君が暮らしていける環境じゃない」
七海が、田舎暮らしできるとは、思えない。
「住む気はないわ。だって、いずれ、戻って病院を継ぐんでしょう?週に1回は、会いにくる。嬉しいでしょう?」
七海は、生まれながらのお嬢様で、可愛がられてきたせいか、何でも、自分を中心に進んでいくと思っている。絵に描いたようなお嬢様だ。彼女が、ここに住める訳ないし、周りの人とうまくやっていける訳ない。何よりも、僕は、彼女との結婚を認めてはいない。
「新。働いている所が、見たいと思って。それと、ほら」
彼女は、無邪気に、高級ケーキの入った箱を絵の前に持ち上げて見せた。
「新の好きなケーキ。お義母に聞いて、買ってきたの」
お袋が、七海に教えたのか。僕は、小さくため息をつくと、人気のない所へと七海の背を押した。
「まだ、仕事が終わらないから、戻ってくれないか?」
「新幹線を乗り継いできたの。新に逢いたいと思って。せめて、夕食は一緒にしてくれない?」
「患者さんが大変なんだ。もしかしたら、帰れないかもしれない」
「新のマンションで、待っててもいい」
「七海。僕らは、そういう間じゃ・・」
「妹みたいだからって、言うんでしょう」
幼ない頃から知っている七海は、妹にしか見えない。いつも、わがままで、それを叶えるのが、僕の役目だった。
「終わったら、連絡するから、ここは、人の目がある。少し、待っててくれないか」
冷たく突き放して、帰す方法もあるだろうが、妹、みたいな七海を突き放す事も、できず、ここは、連絡するからと約束をして、一旦、ホールから出てもらうことにした。半べそかきながら、七海は、病院から出ていった。罪の意識を感じながら、次の瞬間には、七海の事を忘れていた。莉子が、どうなったのか、僕は、聞きたかったのだ。
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