ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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恋人の隣にいる人

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架の妻の事件の連絡が入ったのは、綾葉の自宅に、架が訪れていた時だった。いつものように、仕事の合間を縫って、行き先で見つけたお菓子や果物を届けてくれるのを綾葉h、嬉しく思っていた。自分の為に婚期を逃した綾葉を気遣ってくれるのは、嬉しいが、それ以上に進展しないのが、歯痒かった。
「もう少しで、子供達の発表会があるから、練習とかで、週末は、逢えないかな」
「うん・・・わかっている」
架h、器用にも、果物を剥きはじめた。こう見ていると、右手が動かないなんて、信じられないほど、器用に、皿の上に剥かれた果物を並べていく。
「今度で、いいんだけど・・・」
綾葉は、提案してみる事にした。子供達の発表会で、講師の綾葉とバイオリストとコラボがある。それは、何か、目玉がないかと、音楽教室の提案があったからで、架の出演への打診があった。綾葉が、大学の同期で、友人である事は、誰もが知っている。元の恋人同士であった事は、一部の友人達も知っている事で、誰もが、天才ピアニストの復帰を待っている。だが、
「ピアニストの復帰が、音楽教室の発表会なんてね」
笑う友人がいるのも、真実。でも、架が、ステージに上がるキッカケになるなら、子供達との中なら、気持ちが軽くなるかも知れない。綾葉は、言葉に出そうか、迷っていた。
「あの・・・架?」
架は、剥きかけの果物を途中で、テーブルに置いたまま、携帯を見入っていた。
「仕事で、何かあったの?」
綾葉の自宅に着いた時に、架が、キッチンに行っている間に、何回か、着信があった。気づいていたが、特に、架に告げるのは、必要ないと思っていた。折角の自分達の時間を邪魔されたくない。そう思っていた。
「う・・ん」
架は、上の空だ。
「気になるなら、掛けてみたら」
かけて欲しくない。自分との時間を邪魔されたくないが、綾葉は、強がった。着信があったのは、莉子の父親からだった。また、莉子に何かあったらしい。いつも、莉子が二人の間に入ってくる。以前、架の家で、莉子のステージの写真を見せてもらった。黄色い裾の長いドレスを着て、頭上にアバニコ(扇子)を翳した莉子は、美しかった。架が、感情はないと言いながら、莉子との結婚生活に終止符を打たない理由がわかった。自分とは、全く、異なる莉子に掛は、惹かれている。その後、自分は、積極的に架を誘惑した。遠くに架が、行ってしまわないように、架の事は、絶対に離さない。
「大事な電話でしょ。お父様からなら」
敢えて、莉子のとは、言わなかった。名前さえも、吐き気がする。架は、綾葉を避けるように、隣の部屋に行った。静かな声で、話す様子が伺えるが、途中
「え?」
大きな声を上げると慌てて、自分のいる所に、車の鍵を取りに走ってきた。かなり慌てている様子だった。
「ごめん。帰る」
「どうしたの?」
上着を掴む架の手を、慌てて掴む。
「どこへ行くの?私も」
「だめだ。待っててほしい。連絡するから」
「どこへ?行くのよ」
架は、綾葉の手を、力任せに剥がす。
「莉子が・・・」
架の頭の中に、あの日の記憶が蘇る。マンションの廊下の血溜まりの中に、斃れていた莉子。せめて命だけはと、一晩中、願っていたあの日の記憶。架は、動揺し、綾葉がそこにいる事を忘れているかの様だった。
「ごめん」
綾葉の腕を、加減なく押すと、架は、マンションのドアから出ていった。
「架・・・」
綾葉は、呆然と立ち尽くすだけだった。
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