ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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心を埋めてくれるのは、誰?

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自分は、何でも手に入れてきたと思う。クラスの中でも、目立っていたし、スポーツもこなした。いつも、みんなの中心に居て、リーダー格だと思っていた。だけど
「強い光は濃い影を生むのよ」
いつだったか、心陽に傷つけられたと泣きついた莉子に言われた言葉に傷ついた。莉子は、いつも、自分の味方だと思っていた。だけど、影に隠れて、心陽に傷付けられた友人の話を聞いたり、味方をしている事を知ってしまった。
「心陽。みんなが、みんな、あなたの様ではないの」
莉子は、言った。自分の味方だと思っていたのに、どうして、皆、自分の不満を莉子に言うのか?どうしても、いろんな事が目について、何とかしなきゃと奔走する性分。自分は、悪く言われてもいいからと、良かれと思って、言いたい事は言ってきた。感情を抑える事なんて、苦手だし、自分の中の感情を表現するのが、得意だし、楽しかった。その感情を表現しただけなのに。莉子の言葉は、傷付いた。その頃、莉子もピアノを弾いていたが、莉子は、なかなか、上達しなかった。自分への妬みだと思っていた。目の前にいる莉子がライバル。そう思い練習を繰り返し、莉子より上達していくのが、嬉しかった。莉子は、ピアノを止め、別の道に進んでいった。
「私は、ピアノは、諦めた方がいいみたい」
莉子にそう言われた時、心陽は、勝ったと思った。いつも、自分を見下していた莉子に勝てた。そう思えたのも、束の間だった。莉子は、持って生まれたセンスで、フラメンコを始め、ステージに立っていた。自分とは、違う世界で、どこまでも、輝く莉子。その輝きを抑え込もうとするが、すぐ、心陽の手から、すり抜け、強い光を放つ。その莉子は、ついに、自分の憧れていたピアニストの妻に収まっていた。どんなに、憎んでも憎みきれない。少しずつ、莉子の生活を壊してしまいたい。自分は、莉子より、優れている。
「リハビリをやめて帰ってきた」
莉子から、そう聞いた時、心の中で、笑った。
「大変だったのね」
心陽は、莉子から病院での様子を少しずつ、聞いていった。
「リハビリの先生は、どんな人なの?」
綻びがないか、莉子の周りの人間関係を細かく聞く心陽。言葉の端端から、莉子の心の中を探る。
「それで・・」
莉子は、中止になっていたリハビリを再開する事になったと言いそうになって、言葉を呑んだ。心陽の瞳の奥には、心配すると言うより、何か、綻びがないか、詮索する光を見つけたからだ。
「しばらく、大人しくする事にしたの」
そう言い繕って、話さないでいる事にした。新の事は、言わないでいよう。隠す様な間柄ではないが、他人に知られたら、誤解される。そう、思っていたが、実際、藤井先生の計らいで、花火大会に行く事になったその日は、心が躍っていた。
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