ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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対決

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僕は、待合室で、待つ様に言われ、そのまま莉子を見送った。莉子は、硬膜下血腫が原因で、歩行が困難になった。今回の意図的な転倒で何かが起きているかもしれないとの考えもあり、すぐ、精密検査になった。本来なら、ライブの打ち上げで、したたかに酔うはずだった藤井先生も、セットしていた髪を、一つに結び直して、駆けつけて来た。
「どうしたの?」
慌てて、引っ掛けてきたワンピースのあちこちが乱れていた。
「意識は、はっきりしているけど。転倒しているから、頭調べるって」
「あぁ・・・そう。部屋で、転倒していたの?」
「不思議なんだけど。車椅子が壊れていた」
「壊れていた?あんなに丈夫なのに」
藤井先生の顔が曇った。
「誰かが、故意にって事よね」
「ですよね」
「夫?」
「真っ先に疑われるのは、そうでしょうね。莉子をそんな目に合わせて、何か、得があるのでしょうか?」
「夫だとしても、何も徳はないでしょうね。莉子のお陰で、今の仕事があるのだから」
僕は、聞いた。
「莉子を離す気はないんでしょうか?」
「どうしたの?ようやく、その気になったの?」
「・・・ていうか」
僕は、少し恥ずかしくなった。
「莉子の本当の姿を見てみたくて」
「本当の姿って?」
藤井先生は、誤解したみたいだ。
「そうなんじゃなくて・・・車椅子ではなく、普通に歩けて、普通に踊ったりできて」
「そうよね。そんな姿見てないものね」
藤井先生は、少し、寂しく笑った。
「あなたに、莉子を任せてみたいわね」
そこまで、言うと、藤井先生は、僕の手を取った。
「莉子には、とても耐え難い事があったの。細かくは、聞けなかったけど、とても耐えられない。夫から辛い事を言われたみたいよ。新先生。」
先鋭の手には、力がこもっていた。いつも、冗談を言って、冷やかしている先生ではなかった。
「莉子を奪いなさい。それが一時的でもいいの。莉子を本当の姿に戻して」
「そう思っていました」
待合室で、どのくらい藤井先生と話をしただろう。ふと、顔を上げるとスーツ姿の男性がこちらに向かって歩く姿が見えた。
「架君・・・」
藤井先生は、軽く会釈した。
「連絡が行ったみたいね」
僕は、眼鏡の奥で、冷たく光る目に縛り付けられていた。
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