ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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新しい人生

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莉子は、その後、緊急手術になった。転倒が原因だったのかは、わからないけど、言語に障害がみられて、新たな血腫が見つかったそうだ。僕らが、待合室にいる時に、騒がしくなり、結局、莉子の夫と離す機会は、失われてしまった。夫という名の元に、莉子の病状の説明を受け、手術に同意していた。あの時の何が原因で、何が起きたのかは、有耶無耶にされてしまいそうだった。
「藤井先生、疲れたでしょうから、もう、帰って」
何度も、僕の携帯が鳴っているのを、藤井先生は、気にしていた。内容が、どんな電話かは、わかっていたから、僕は、あえて出なかったのに、藤井先生は、
「出た方がいいんじゃない?」
誰からの電話か、わかってる様だった。
「いつかは、はっきりするさせる事が必要よ。莉子の病気が、そうであるように」
藤井先生は、僕の背中を押してくれているのは、わかっている。かといって、僕の電話の内容を聞かせる訳にも、気配を悟られるのも、僕は、嫌だった。
「電話でてきます。先生も、もう、戻られた方が」
「そうね」
僕は、携帯を片手に、人気のない場所を探していた。もう、遅い時間で、院内のホールには、人気がなく冷え冷えとしていたが、僕は、誰にも、逢うことのない場所を探していた。
「新?」
着信を元に掛け直した。相手は、やはり七海だった。
「怪我、大丈夫か?」
「えぇ・・・」
返事と同時に咽び泣く。
「泣くなよ。大した事なかったんだろう?」
「そうだけど。どうして、そばにいてくれないんだろうって。おじさまも、おばさまも優しくしてくれるけど、新が1人いてくれるだけでいいのに」
「七海。大事な話をしたくて、戻ったのに、こんな事に鳴ってしまって。一度、きちんと話さなきゃいけないと思っていた」
「あの女の人?」
「そばに居ようと思っている」
「何言ってるの?結婚しているのよ」
「彼女のパートナーが、結婚相手とは、限らない」
「私は、どうなるの?ずっと、新だけをみて来たのに」
「七海。僕にとって、君は、妹でしかない。妹であれば、これから先も一緒にいる事ができる。でも、パートナーとしてなら、一緒にいる事はできない」
七海は、泣いていた。僕は、電話で話を済ませるべきではないと思いながらも、早く決着をつけたかった。今、莉子は、緊急手術をしている。莉子の夫、架と話をしたかった。どうして、自分の夢を諦め、莉子を苦しめるのか?自分の道を歩かないのか・・・。
「新。きちんと話をしましょう。私も、考えたいから」
「七海。僕らにとって、いい方法を考えようよ」
僕は、人の気配がして電話を切った。僕の前に立つのは、あの莉子の夫、架だった。
「また、君だったのか」
架の顔は、憔悴しきっていた。
「どうして、彼女を大人しくさせてくれないんだ」
「あなたこそ、どうして、彼女の気持ちを考えてくれない?」
僕らは、藤井先生の目を避け、待合室から離れた中庭へと移動していた。
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