ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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罪があるのは、誰なのか?

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連休明けの病院は、混んでいた。可能なら避けたい所だが、定期検診だから、仕方がない。周りには、夫婦で訪れているのか、男性がチラホラ見えていた。
「産んで欲しい」
そう言われた時、嬉しかった。架の血を分けた子供がお腹の中に息づいている事が嬉しかった。
「おばあちゃんに任せなさい」
秘密にしていた妊娠がバレた時に、祖母はそう言ってくれた。後から、架の会社に乗り込んだと聞いて肝を冷やしたが、祖母の力もあり、事態は動いた。
「離婚は、しないのかね?」
祖母は、架の妻になる事を望んでいた。
「障害のある人を押し除けて、妻の座には、座れない」
綾葉は言った。残酷だけど、莉子に子供は、産めない。架の血を残す事ができるのは、自分だけだ。もしかしたら、硬膜下血腫の再発で、莉子が亡くなるかもしれない。その時は、自分が、架の隣に座る事ができる。子供を認めてもらえるだけでいい。きっと、架の夢を叶える子供になるだろう。それまでの、辛抱だ。検診に1人で、来るのも平気だ。
「随分と混んでいるのね」
弾んだ声で現れたのは、心陽だった。
「何度か、逢いますね」
以前、架と優勝争いをした心陽の事は、覚えている。架の夢が消滅した現在は、ピアニストとして第一線で、活躍している。
「どうして、ここに?」
「知らせたい事があって。たまたま、ここの近くに住んでいて、あなたが、ここに入るのを見かけたから」
今でも、この女性は、架に付き纏っている。莉子の友人のふりをしながら、架が、振り向くのを待っている筈。
「お子さん、できたんですってね?おめでとうございます」
「どうして、それを?」
「架さんに聞いたから。嬉しそうに話していたわ」
架が、本当にこんな女性に話すとは、思えない。綾葉は、警戒した。
「でも、どうなのかしらね?莉子のお父様の力で、投資受けている噂もあるし、外に子供を作った事がバレたら、不味いのでは?」
「架の子供って、確証はあるのかしら?」
「検査してみますか?」
「だとしても、責められないわ。だって、莉子さんには、子供は、できないんですもの」
「そうよね。それで、莉子に何かあったら、あなたが、架の妻の座に座れるわね」
綾葉の顔色が変わった。
「図星だったかしら。いい知らせよ。莉子が緊急手術したって話よ。また、何かが、起こるかもしれない。あなたの思うようになるかもよ」
心陽は、耳元で、呟く。
「架が、本当に手に入れたいのは、誰なのかしらね?簡単に手に入る人を選ぶのかしら?」
「ちょっと!」
思わず、大きな声を上げた綾葉を、周りの患者が一斉に見つめる。
「どんな意図で、話しているかわからないけど、適当な事を言わないでください」
「もう、あなたは、過去の人だって言いたいのよ」
「あなたは、一体、何の関係があって?」
綾葉は、興奮してはいけないと思いつつも、鼓動が早くなり、お腹が苦しくなるのが、分かった。
「架は、莉子のそばに付き添っているわ。きっと、これからも、子供がいたとしても、それは、変わらない」
「酷い・・・あなただって・・」
「私は、あなたとは違う。そんな方法で、彼を繋ぎ止めたりしない」
心陽は、吐き捨てるように呟くと、綾葉の前から、姿を消した。
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