ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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地に触れるは、羽毛のように。

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何気なく僕らは、地面に立ち歩いている。だけど、意識した事がある?この足の裏には、幾つもの感覚があり、僕らに伝えているのに、何も、感じずに過ごしている事を。次第に、感覚は、鈍り、何も感じられなくなる。真っ平で、冷たい皮膚。指を一本一本、引き剥がし、柔くマッサージし、感覚を研ぎ澄ます。足裏から、伝わる感覚が、地面を踏み締め、頭上を突き抜け、天とつながる。柔らかくなった皮膚は、地面に吸い付いていく。しっかりと、踏み締めた足は、力強く大地に根付いている。なんとなく、立っていた時は、疲れやすかったり、勿論、立ち続けるのが、困難だったりする。僕は、感覚を失った莉子の足を都度、マッサージし、勿論、自分でも、揉みほぐすように、方法を伝授した。フラメンコも立ち方が、基本だ。肩を落とし、骨盤を立てる。地にしっかり、結びついていないと、綺麗に踊れない所か、膝を痛めてしまう。足を下ろした時の踵のラインが、大事だ。莉子にも、当然、伝授する。彼女が、これから先、体を痛める事なく、踊り続ける事ができるように。立てるようになるのが、目標ではない。彼女が、フラメンカとして、生きていける様に、体を作っていく。僕のつまらない感情に、溺れるのではなく。彼女の未来を考える。自分の体つくりも兼ねて、ヨガに行き、フラメンコスタジオのバイトをし、莉子のリハビリをする。そのルーティンが心地よかった。何よりも、ヨガに出会えた事が僕の考えを変えていった。
・・・なんて、つまらない事に縛られていたんだろう。僕は、今、充実している。黒壁と莉子の間も気になるが、今の生活が、僕の求めていた生活だと気がついた。親に反発する事に、夢中で、どう生きていたいかなんて、考えてなかった。誰かの為に、生活を変える事なんて、考えた事なかった。何となく、生きていた。そんな事を考えているうちに、あっち言う間に、藤井先生の退院の日が迫っていた。
「驚かしたい事がある」
黒壁がそう言う。
「わかる。何が言いたいのか」
「もちろん、私が主役よね」
莉子が言う。この時、莉子は、手すりに掴まりながら、(両手だけど)5mくらいは、歩けるようになっていた。まだまだ、長距離の移動には、車椅子が欠かせないけど、順調に行っている。食事も最新の注意を払い、僕は、レシピ本を書けるくらいになっていた。莉子の為に始めた事が、僕の能力を開花させていった。
「本当に、お前って凄いよな」
黒壁がそう言う。
「友達で、良かったよな」
「敵には、したくない」
「何の敵?」
莉子が、聞いたので、2人で慌てて、訂正した。
「藤井先生が、退院してきたら、これから先の事も、考えていかなければならない。最悪の事もわかるよね」
僕は、真面目に言った。最悪の場面も覚悟しなければならない。その前に、莉子を、立たせる。
「今までの恩を返したい」
それには、僕も賛成だ。
「俺も、最後まで、付き合う」
黒壁が言った。藤井先生が、間も無く退院してくる。今までの三角関係は、一旦休止だ。
「先生を驚かせよう」
莉子が目を輝かせていた。
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