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悪意の天使
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吉光寺 紗羅。訪問看護師。まだ、20代。僕が初めて会ったのは、感動的な最後を遂げた佐藤 春子さんの退院カンファレンスでだった。こんな世界に飛び込んで来る看護師は、ある程度、年齢のいった女性が多い中で、若く目立っていた。
「普通は、医療をやりたいって、子が多いのよ」
紹介した事業所の管理者は、得意げにいった。若い正看護師がいるというだけで、僕らの周りは、浮き足立っていた。その上、色が白く、美形というだけで、皆、彼女と仕事をやりたがった。そう、僕、以外は。僕には、わかる。彼女が、僕と同じ世界の人間。いや。。。細かく言うと、彼女は僕と真逆にいる事を。
僕は、幾つもの現場で、死神の鎌が振り下ろされる瞬間を見ていた。彼女は、死神を呼んでいる。美しいその顔は、表情もなく開かれた瞳は、氷のように冷たかった。
「初めまして。」
僕は、挨拶を交わした。名刺を交わすときに、指先に電気が走った。
「!」
指が触れた瞬間、時間が止まったような気がした。彼女が、僕の顔を凝視した。瞬間、口元に冷ややかな笑みを浮かべるのを、僕は、見逃さなかった。
「よろしくお願いします」
しおらしく彼女は、お辞儀をした。
「これから、佐藤 春子さんは、自宅に戻られます。急変があるえるので、この子が同行します」
管理者は、紗羅の背中を押し出していった。
「とっても、頼りになるんですよ」
紗羅は、後ろで、束ねた髪を揺らしながら、お辞儀していた。僕には、わかる。紗羅からは、「死」の匂いがする事を。若く輝く命を持っている子達とは、違う、陰鬱な光が彼女にはある。開いた目は、誰しもの命を吸い取ってしまいそうな暗い光が宿っている。白衣の天使ではない。彼女は、死に直面し、絶望するひち達の魂の叫びを糧に生きている。悪意だ。。悪意がある。
「これからも、よろしくお願いしますね」
彼女は、僕を見つめて、冷たく微笑んだ。美しい微笑みというのか?僕は、背筋がゾッとした。その後、佐藤 春子さんは、点滴チューブを入れたまま訪問看護師の皿が、同乗する形で、退院した。自宅に、着くと、庭先では、早咲きの桜が満開で、とても、目に鮮やかだった。思いがけず、佐藤 春子さんの存在を忘れて僕は、玄関に立ちすくした。
「綺麗だ。。」
「まだ、雪があるのに、春なんですね」
春子さんの長男が、玄関に出迎えていた。
「お袋も、あと、どの位、持つか。。。」
「桜ですか?」
春子さんの乗ったストレッチャーに付き添いながら、紗羅が言った。
「桜を見ると、悲しくなるんですよね」
紗羅が、桜を憎々しげに見上げた。ハラハラと小さな花びらが、舞ながら落ちてきた。
「絶望とか、死とか。。いい感情はない」
小さく呟くと、家の中に消えていった。ゆっくりと春子さんの自宅に入ろうとした時に、一陣の風が怒った。
「あぁ!」
僕は、声を上げた。寒い中、咲いていた早咲きの桜は、紗羅の言葉に傷ついたのか、気の根本から湧き上がる風に、大きく枝を揺らし、花吹雪と共に、舞い散ってしまった。
「ほらね」
紗羅の声が聞こえた気がした。その夜、遅く春子さんは、息を引き取った。
「普通は、医療をやりたいって、子が多いのよ」
紹介した事業所の管理者は、得意げにいった。若い正看護師がいるというだけで、僕らの周りは、浮き足立っていた。その上、色が白く、美形というだけで、皆、彼女と仕事をやりたがった。そう、僕、以外は。僕には、わかる。彼女が、僕と同じ世界の人間。いや。。。細かく言うと、彼女は僕と真逆にいる事を。
僕は、幾つもの現場で、死神の鎌が振り下ろされる瞬間を見ていた。彼女は、死神を呼んでいる。美しいその顔は、表情もなく開かれた瞳は、氷のように冷たかった。
「初めまして。」
僕は、挨拶を交わした。名刺を交わすときに、指先に電気が走った。
「!」
指が触れた瞬間、時間が止まったような気がした。彼女が、僕の顔を凝視した。瞬間、口元に冷ややかな笑みを浮かべるのを、僕は、見逃さなかった。
「よろしくお願いします」
しおらしく彼女は、お辞儀をした。
「これから、佐藤 春子さんは、自宅に戻られます。急変があるえるので、この子が同行します」
管理者は、紗羅の背中を押し出していった。
「とっても、頼りになるんですよ」
紗羅は、後ろで、束ねた髪を揺らしながら、お辞儀していた。僕には、わかる。紗羅からは、「死」の匂いがする事を。若く輝く命を持っている子達とは、違う、陰鬱な光が彼女にはある。開いた目は、誰しもの命を吸い取ってしまいそうな暗い光が宿っている。白衣の天使ではない。彼女は、死に直面し、絶望するひち達の魂の叫びを糧に生きている。悪意だ。。悪意がある。
「これからも、よろしくお願いしますね」
彼女は、僕を見つめて、冷たく微笑んだ。美しい微笑みというのか?僕は、背筋がゾッとした。その後、佐藤 春子さんは、点滴チューブを入れたまま訪問看護師の皿が、同乗する形で、退院した。自宅に、着くと、庭先では、早咲きの桜が満開で、とても、目に鮮やかだった。思いがけず、佐藤 春子さんの存在を忘れて僕は、玄関に立ちすくした。
「綺麗だ。。」
「まだ、雪があるのに、春なんですね」
春子さんの長男が、玄関に出迎えていた。
「お袋も、あと、どの位、持つか。。。」
「桜ですか?」
春子さんの乗ったストレッチャーに付き添いながら、紗羅が言った。
「桜を見ると、悲しくなるんですよね」
紗羅が、桜を憎々しげに見上げた。ハラハラと小さな花びらが、舞ながら落ちてきた。
「絶望とか、死とか。。いい感情はない」
小さく呟くと、家の中に消えていった。ゆっくりと春子さんの自宅に入ろうとした時に、一陣の風が怒った。
「あぁ!」
僕は、声を上げた。寒い中、咲いていた早咲きの桜は、紗羅の言葉に傷ついたのか、気の根本から湧き上がる風に、大きく枝を揺らし、花吹雪と共に、舞い散ってしまった。
「ほらね」
紗羅の声が聞こえた気がした。その夜、遅く春子さんは、息を引き取った。
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