死神の守人

蘇 陶華

文字の大きさ
37 / 50

終わりのない戦いの始まり

しおりを挟む
市神は、湖に浮かぶ自分の姿に満足していた。無くしていたものをようやく取り返し始めている。そんな気分だった。湖の底に沈んだ蓮の姿とは、瓜二つであるが、手には、炎の剣を持ち、それは天を焦がす勢いで燃え盛っていた。蓮の息の根を止めなければ、全ての力を手に出来ない。市神は、望んでいる訳ではなかった。最初は、三那月の自分を取り入れるためだけの嘘だと思っていた。が、連から取り返した迦桜羅の姿になった時に、忘れていた記憶が蘇ってきた。
あの日。。。自分達は、信徒達と静かに暮らしていた。それは、理想の国であり、豊かで、争う者がいない信じる者達で満たされた世界。貧しい者には、手を差し伸べ、人を守り、病を治す神官の勤めを迦桜羅として行っていた。何年も、そんな日が続くと思っていた。が、ある日、突然、変わってしまった。信徒の中に裏切り者が現れた。彼は、黄泉の者。紛れ込み、信徒達を殺め始めた。迦桜羅を誘き出すために。戦いは、終わらず地上を巻き込んだ。迦桜羅のみならず、いくつかの化身たちも現れ、戦ったが、忽然と現れた1人の女神に、次々と、倒されていった。市神も例外ではなく、女神の剣に、地に落ちる事となり、致命的な怪我を負った。
「本当の後継者ではない」
吐き捨てるように、女神は言った。
「お前が、手にすべき者ではない。修行者が、手にしてこそ、力をもたらす者」
女神は、信徒達が、誤った方向で、世のバランスを崩したとも言った。市神は、信じられなかった。何も争わず、暮らしていただけなのに。誤解だと。地の者は、どうか?争いだけではないか。地を正すために、黄泉があり人は、悔やみ、行いを正す。市神は、最後の力を振り絞り、女神に挑み、敗れた。記憶はそこまでだった。気がつくと、自分は、寂れた街の医者として、生活をしていた。富める者、貧しい者も平等に、医療を施す。それで、自分は、満足だった。蓮が、自分の前に現れた時。自然と気になった。おどおどして、周りの目を伺い落ち着かない青年。得体が知れず、それでいて懐かしい匂いがする。気になったのは、迦桜羅のせいだった。自分には、認めないと言ったのに、何もない青年が、得るのは、許される事なのか?市神は、体の中の血液が逆流する思いだった。
「自分には、ふさわしくない。それなら、蓮の何が、ふさわしいのか。見てやろう」
市神は、蓮を消滅させる事にした。あの女神の言う事が、本当なのだとすれば。
「指1本、残らず昇華してやる」
望んだ事に、再び、この街で、不穏な渦が生まれつつある。黄泉より現れし者が空を覆い、信徒達の中から、神となる者が現れ、互いの力を争う事が始まっている。まとめ、治める者が、必要だった。
「他愛もない」
湖に沈んだ後、湖面には、真っ赤な花が咲いたかの様に、血の海が広がっていた。市神は、満足した様に、見下ろし、飛び立とうとした時に、湖面が大きく盛り上がり、爆発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...