死神の守人

蘇 陶華

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魔界の森を抜けて

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いつの間にか、僕は幼い日に戻っていた。深い森へと続く坂道を駆け抜けると、鬱蒼とした木々のアーチが僕を待っていた。咲き乱れるのは、赤い花々。風が吹くのか、揺れるたびに、不思議な音がする。見上げると、花だと思っていたのは、それぞれに顔を持ち、何やら言葉を発していた。小声で、一斉に別々の事を話すので、よく聞き取れない。僕は、近寄りたくても、幼い僕には小さすぎて届かない。僕は、自分が、届きそうな位置に、小さな蕾があるのを見つけて、近寄ると、蕾は、音を立てて開くと、
「おかえり!」
と呟いた。
「おかえり?」
僕が、不思議そうな顔をすると、赤い花々達は、ザワザワと声を上げ始めた。
「忘れたの?どうやら、忘れちまったようだ」
「仕方がないよ。あっちに行ったら、そうなる」
「こっちの恩も忘れちまって」
「あっちの味方にでも、なったつもりか」
花々は、声を上げ、興奮してきたのか、枝を大きく震わせていた。ザワザワと枝
の擦れあう音がして、蔓が四方に伸び始めている。
「何の事?」
僕が、見えあげるが、口々に騒ぎ立てるだけで、答えはない。答える代わりに、蔓が伸び、僕に向かって伸びてきた。
「喰ってしまえ!」
蔓の先があちこちから伸びてきて、僕の腕を掴もうとしている。花々に、あった顔はいつの間にか、消えていて。鋭い牙を持つ、口があちこちに見える。枝葉は、激しく伸び上がり、よく見ると、あちこちに人々のちぎれた死体が、絡みついていた。
「うわ」
蔓に絡まれた僕が、後ろに逃げると、優しく誰かが受け止め、蔓を払った。
「お前は、あの時の」
先程、いた老婆だった。
「結局、ここに戻ってきたんだね」
老婆は、僕の顔を覗き込んだ。
「これで、良かったのか、わからないよ。いいかい、ここから先は、決して、誰とも口を聞いてはいけない。何も、興味を持ってはいけない。会いたい人の事だけを考えて、まっすぐ行くんだ。今は、時間を遡っているんだよ」
老婆は、僕の背中を押して、伸びてきた蔓を次から次へと、切り裂いていった。
「早く、行きなさい」
僕は、老婆の顔に見覚えがあった。あの日、八と会えなかった日に、たくさんの鳥の大群とあった日。市神が、迦桜羅の力を失った日、僕が、その力を持ち帰った日に会ったのが、このお婆さんだった。
「ちゃんと、戻ってくるんだよ」
そう言われて、僕は、赤い血の滴るアーチを抜けていった。森へと続く道は、現世とは、違い細く、その両側には、何もなく、両側に崖があるかの様だった。誰かが、話しかけたり、突然、火の塊が現れたりしたが、僕は、構わず、前に突き進んでいた。いつしか、崖に挟まれた道は、深い谷底の道となり、強い風が、吹き荒れ僕の頬をなぶっていた。僕の前に、八が現れた。
「あ」
僕は、息を呑んだ。八は、先程、僕と別れた時と同じ姿で、更に怪我をしており、道の上に、横たわっていた。意識がないのか、右手で、両目を覆ったままだった。
「そのまま、行くんだ」
先程のお婆さんの声が聞こえて、僕は一旦、通り過ぎたが、その時、八の唸る声が聞こえた。
「ううう」
苦しそうな声に、僕は、思わず立ち止まった。
「早く、行くんだ」
お婆さんの声だ。
「助けて」
八の声に、僕は、振り返り、八の顔を覗き込んでしまった。
「大丈夫か」
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