死神の守人

蘇 陶華

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迦桜羅を受け入れる時

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市神は、目を疑った。剣を手にした市神の前に現れたのは、湖の底に沈んだ満身創痍の迦桜羅ではなく、黄金色に輝く迦桜羅の姿だった。かつては、人間だった姿の欠片は、微塵もなく、細い金糸と羽毛に覆われた姿だった。
「お前は?」
声を発すると、金の羽毛に覆われた、同じく翡翠色の瞳が自分を見つめているのがわかった。この眼差しは、見覚えがある。市神は、足元の湖面を見下ろした。
「まさか?」
「こんな事は、望んでいなかった」
僕は、低く呟いた。
「静かに、暮らせれればよかったのに」
力を得る事も、望んではいないんだよ。勿論、永遠の命だって。僕は、限りない時間をこの姿で生きていくなんて、耐え難いんだ。
「高野 蓮。。。ここで、もう一度、お前と決着をしなければならない」
市神の剣を持つ手が震えていた。
「市神。悪いけど、時間がないんだ」
僕は、両手を振った。抱えていた僕の腕には、八の姿はない。僕が覚醒した時、八の与えられた時間が終わっていた。黄泉路に取り込まれ、もう、1人の力で、戻る事は、難しい。
「行かせてくれないか?」
僕は、市神に言った。どうしても、僕の行く手を邪魔すると言うのなら、僕は、戦いたくもないのに、市神を落とすしかない。
「どこに行くんだ?」
「取り戻しに」
市神は、僕の背後を見回した。
「あぁ。。お仲間か」
市神は、笑った。
「こんな時に、余裕だな」
市神は、剣先を僕に向けて言った。
「迦桜羅は、一人しか継承できないそうだ。この様子から見ると、お前に部があるようだが、私も、引き下がる訳には行かないんだ」
「後にして、くれないか」
僕は、市神の剣先を手で払った。
「同じ釈桜羅で争ってどうする?時間がないんだ」
市神は、何としても、僕のいく手を塞ぎたいようだ。
「悪いけど」
僕は、大きく上に向かった。市神を相手にしている時間はないが、彼と闘うことも避けたい。僕の翼は、大きく震え、市神の頭上を大きく超えた。市神が、僕に追い就こうと、翼を震わすが、僕は、構わず、そこから、まっすぐ飛び去った。
闇が導く北へ向かい、一直線に飛び立っていった。この世とあの世の境目には、多くの魂が集まるという。どちらに行けばいいのか、以前の僕はわからなかったが、今ならわかる。僕の目には、空の彼方に闇筋が見えていた。細い筋が、地の果ての鬱蒼とした森を指しており、入り口は、長い坂の先にあった。苔むした道標があり、そこには、赤い着物を着た、肩口で髪を切り揃えた老婆が座っていた。
「人では、ない者だね」
老婆は、歯のない口で、いやらしく笑った。僕の姿に動じる事もない。
「ここから先は、自分の足で歩くんだよ」
僕は、変化を解いた。
「あれまぁ。。幼い子供でないの」
幼い子供と言われた僕は、自分の姿を気にする訳ではなく、鬱蒼とした森へと続く道へと駆け出したいった。
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