死神の守人

蘇 陶華

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崩れる神々達の権威

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三那月は、焦っていた。今までは、市神が信徒達の中心にいて、均衡を保っていたが、あの20何年か前の出来事で、力を失ったばかりか、記憶まで失ってしまった。信徒達の多くは、蛇神や龍神の末裔が居り、迦桜羅に定期的に供物として、気を与える事で、力を継続していた。が、次第に、蛇神や龍神達は、自分の力を伸ばし始め、市神に従う者は居なくなっていた。黄泉路からの紫の花が、迷わせたとの話もあるが、真偽は、定かではない。明確なのは、もう、市神は、迦桜羅の力を失いつつあるという事。何人もいる眷属達の中から、市神は、落ちてしまった。これも、高野蓮が現れたせいなのか?いや、そうではない。高野蓮が現れたのではなく、最初から、高野蓮だったのではないか?あの完成された姿が、それを物語っている。迦桜羅は、誰がなっても、役目さえ果たされるのであれば、市かに拘る必要は、ないのではないか?
「何と、遠回りした事か」
この世界は、三界に分かれる。多くの神々が生まれ、信徒達は、静かに暮らしていたが、黄泉路からの紫の花が、この国々のバランスを崩した。幻覚に酔い、それぞれが混乱した。誰が、人間で、誰が、妖鬼で、天の人なのかわからなくなっていた。幻覚に惑わされ、市神は、力を失った。
「であれば、仕方がない」
市神を捨てるまで。三那月は、側近の何人かを呼び寄せていた。
「高野を追って、黄泉路に入ったと聞きました」
「追うわよ。市神も高野も消滅させるの」
三那月の身体が、少し光を帯びている。
「手に入らないなら、作るまで」
何人かを引き連れて、日の沈む空へと飛び立って行くのだった。
 高野蓮が黄泉路を急いでいる時は、沙羅は、まだ、深い眠りについていた。瀕死の状態で、八を逃し、力を失いつつあった沙羅は、胎樹と呼ばれる木の中に居た。霊力は、枯渇しており、消滅は、免れたものの、退行する事で、力を取り戻そうとしていた。赤子の様な姿で、木々の間に体を沈め、自分の力が戻るのをじっと待っていた。
「沙羅」
聞き覚えのある声が響いている。誰だったかは、わからない。
「急いで、まだ、終わっていない。早く、急ぐのよ」
胎樹は、激しく揺れ、沙羅を守っている木々の枝も、波打っている。
「誰?」
沙羅は、声の主を探そうとするが、見つける事はできなかった。時間に合わせて、手や足は伸びていくが、まだ、赤子の状態だった。
「まだ、起きれない」
沙羅が、起きようとしないので、木々は、余計にざわめきたつ。
「急いで、間に合わなくなる」
ようやく沙羅の姿が、童女になった時に、胎樹から蔓が伸び、沙羅の体を地面に放り投げた。
「さあ、行きなさい。主として、務めを果たすのよ」
小さな横笛が、空を切って飛んできた。
「これは、私のではない」
沙羅は、押し返そうとするが
「持ち主に返しなさい」
最後に、沙羅の鎌が飛んできた。
「とにかく、早く」
胎樹は、そう言うと、あっという間に、小さな木の芽に変わっていった。
「持ち主?」
沙羅は、しばらく考えると、横笛を手に、木の芽が指し示す道を走り抜けていった。
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