死神の守人

蘇 陶華

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もう一人の影

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沙羅の鎌は、大きく空気を切り裂き、僕の目の前を横一文字に切り裂いていった。幼い姿の沙羅の動きは、よくこんな力が眠っていたのかと、思える程、力強い物だった。空間は、横に裂け、現れたのは、真っ赤な世界だった。辺り一面は、赤くそして黒く、ドロドロとした空気は、肌に纏わりつき、血の空と肢体の山が、広がる世界だった。
「ここは?」
僕は、目を凝らした。
「あの日から、まだ、時間は経っていない。」
沙羅は、真っ直ぐな目で、僕を見た。
「見ての通り、多くの人が亡くなった。あの日の時間も場所も、ここに切り取ってあるだけ」
「あの日。。とは?」
僕は、元に戻った姿で、周りを見渡していた。確かに、時間は止まり、至る所に、人が倒れ、その中には、幼い子供や歳を重ねた人の姿もあった。
「食魂華が盗まれ、力を得た者達が、人間界で、多くの人を殺した。その方が、自分達の霊気を養う事ができるからね。」
「誰が?」
「何より、自分達のしている事が正しいと。三界が混じらず、均衡を保つには、それが正しいと思う人達」
「それって。。市神達?」
「違うわ」
沙羅は、首を振った。
「市神は、知らなかったの。彼一人は、何も、知らされなかった。自分の身内達を信じたのね」
「市神が、知らなかった?」
僕は、言葉がなかった。絶対的、王者として信徒達の上にいた、市神が知らなかったなんて。
「もともと。。。迦桜羅に適しなかっただけかもしれない。だから、彼は、力を失った」
僕は、この時、沙羅の話に気を取られていた。軽い羽音が聞こえ、僕の背後に、降り立つ者の姿に。
「あぁ。。来たわね」
沙羅の瞳に映る姿を見て、僕は、振り返った。
「あなたのおかげで、人間の姿を保つのが、大変になってしまったわ」
沙羅は、薄く笑った。
「まさかね、簡単に死神が消滅するなんて、思わなかったからね」
僕の後ろに降り立ったのは、市神だった。
「結局、あなたは、蓮から、迦桜羅を取り上げる事はできないのよ」
ゆっくりと、刃先を向ける腕を、沙羅は、優しく押し戻した。
「今の私は、力がない。と言っても、この世界にいるときは、格別なの。人の姿を被っている時よりわね」
沙羅が、手のひらに力を込めると、青い光が、ほとばしり、剣先が高い音を放っていた。
「私は、死神?だと思う?」
「思わないよ。沙羅」
沙羅の表情から、この後、恐ろしい事が起こる予感がしていた。今、この世界で、沙羅に、市神が勝てるとは、思わない。僕は、慌てて否定した。
「君は、生を司る者。何よりも、君がわかってるじゃないか」
僕は、市神を目で制した。
「もう、やめよう。僕らは、十分だよ。市神、聞いたか?僕らが、戦う相手は、ここにいるお互いではない」
市神は、笑った。
「お前達の言う事を信じろと?」
誰だって、自分が裏切られたなんて、信じたくない。それが、身内だったら、余計に。市神の怒りの炎が、大きくなっていくのが、見えた。
「市神、よく見るんだ、人間だった頃、医師として生きてきたんじゃないか?あの日に、何が起きて、この人達がこんなになってしまったのか?」
周りをじっと見つめる市神の目が、悲しそうに光った。
「そうだよ。。そうだったんだ。。。」
急に、咽び泣く市神の姿に、僕と沙羅は、顔を見合わせてしまった。
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