死神の守人

蘇 陶華

文字の大きさ
46 / 50

美しき守護神 迦桜羅。

しおりを挟む
市神が咽び泣いていた。僕は、今までの、市神に受けてきた傷は、決して浅くはないけど、市神を憎む気にはなれなかった。彼が、白衣を見に纏い、医療で人を救う姿が、神々しかったし、一目置いていた。信徒達から、気を貰う代わりに、守護神として存在していたのだろうけど、力を持ち続ける事は叶わなかった。食魂華で、力を得た信徒達が、昇天した事で、市神の存在は、危うい物になっていた。沙羅は、咽び泣く市神をやや冷めた目で、遠くから見ていた。
「来るわよ」
沙羅の声は、感情がなかった。
少し、空間が震えたかと思うと、軽い羽音がして、半身が、龍の体をした見慣れた女性が降りてきた。
「あぁ。。」
僕は、納得した。三那月だった。いつも、市神のそばにいた。
「探しましたよ」
三那月は、何人かの信徒達を引き連れていた。鎌を手にした沙羅が、怖い顔をして、その一団を見上げていた。
「まさか、2人の迦桜羅にここで会えるとは、思いもしませんでした」
三那月は、口元に、微笑みを浮かべ、お辞儀をした。
「お分かりかと、思いますが、私達には、守護神が必要です」
「必要ないかと思うけど」
沙羅は、三那月に言い放った。
「十分な姿をしているのでは」
「いえいえ、数多の神々を控えていますので、まとめる方が必要です」
市神は、三那月を見ても、何の感情も湧かない目をしていた。
「君が、これから何をしたいのか、わかる」
そう言うと、市神は、持っていた剣をのど先に突きつけた。
「新たな迦桜羅を召喚するつもりだろう」
「新たな?」
三那月は、ややヒステリックな声をあげて笑った。
「必要なんです。あなた達、以外の迦桜羅が」
「3人目の迦桜羅を探しているって事?」
沙羅がやや呆れた感じで、聞いた。
「迦桜羅が何者なのか、あなたは、知らないから」
吐き捨てるように言うと沙羅の体は、フワッと宙にうき、側にあった大樹の枝に、腰掛けた。
「人として例えるのは、変だけど、理解がなけれな、同じ事を繰り返すだけ、市神や蓮のように」
「私達は、ここで、ひく訳には行かないんです」
「そう言うと思っていたよ」
三那月は、そっと、差し出された剣先を手で押し返した。
「降りてください。迦桜羅の座から、あなたは、普通に人間として存在した方が、輝いていられる」
三那月の目が、優しく市神の話しかけている。
「放棄してください。後は、私が、あの者を倒しておきます」
「もし、私がお前と戦うと言ったら?」
「できないと思います。私達と戦う事はできない事になっているから」
迦桜羅は、人を殺す事はできない。たとえ、半身が昇天した人間であっても。三那月は、それを言っていた。
「守護神だからか?」
市神は、剣を放り出すと、右の拳に気を込めた。蒼白い光が上がったかと思うと、右の拳は、誰も、止める暇もなく左の胸を貫いていた。
「嘘だろう」
誰もが、そう思った。市神は、自分の左胸を、自分の右手で、撃ち抜いていた。
「沙羅!」
僕は、沙羅を見た。沙羅に助けを求めたが、沙羅は、首を振った。
「ダメよ。自分で、命を絶ったら、助けないの」
僕は、市神を抱えていた。手を通し抱き上げようとしたが、幼い体の僕にでさえ、抱えあげる事ができるほど、市神の体は、次第に、軽くなり、砂のように、内側から、崩れ去ってしまった。
「後は、頼む」
僕に、そう言い残して。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...