6 / 82
妖の姫、紗々姫。
しおりを挟む
どこか遠くで、太鼓の音が続いていた。腹の奥底に響く太い音。あちこちで、松明が群れをなし、消えては、また、光る。三華の塔の一つに、紗々姫は、いた。時の帝に、姉と同じ血を引くからと齢3歳で、嫁いでから何年も経っていた。正室とは、名ばかり。帝は、歳の離れた姉の面影を求めていたが、成長するにつれ、紗々は、姉とは、全く違う容貌に育っていた。それでも、それでも、歳の離れた紗々を帝は、可愛がっていた。
三かの塔は、朝廷の宝物殿となっていたが、その一つは、紗々への貢物などが、納められる塔がある。物心つく頃から、紗々は、そこに事あるごとに、入り浸り、夜を越す事があった。日も当たらぬ塔に、行く紗々を朝廷の者は、眉を顰めていたが、必ず、お供の老婆が側についていた玉枝御前である。3歳で、朝廷に嫁いできた時も、一緒に、ついてきた。乳母の様な否、紗々にとっては、母親の様な存在である。
「灯があちこちに、飛んでおるな」
紗々姫は、塔の1番上の窓から、外を見下ろしていた。
「何やら、物の怪が出た様です」
「物の怪とな」
紗々姫は、喉の奥で笑った。
「どこを探しても、元を立たなければ意味があるまい」
そっと、肩に触れる手を、優しく撫でる紗々姫。その手の爪は、長く黒い。
「人の心に住む鬼の方が、よほど怖いと思うが。。のう」
紗々姫が、後ろを振り向くと、数多の魑魅魍魎が、床の上を渦巻くように、這いのたうち回る。それらを囲むように、幾つもの棚が並び、見た事もないような壺や飾り箪笥、巻物、皿やガラスの置物が、重なるように置かれていた。紗々姫の側にあった棚から、青白い光が上がった。小瓶から、飛び出た爬虫類に似た妖が、紗々姫の顔に飛びついた。
「姫様!」
玉枝御前は、驚いて振り払おうとしたが、紗々姫は、顔色一つ変えず、右手で掴むと、振り払い両足で、踏みつけてしまった。
「造作ない。」
紗々姫には、妖を恐れる気持ちが、微塵もなかった。それよりも、虫ケラの様に扱い、妖は、紗々姫を逸れていた。
「立派に、育っていただきました」
妖を踏み潰した紗々姫を、玉枝御前は、誇らしく思った。
「それより。。玉枝。あれは、持ってきたか」
紗々姫は、玉枝御前が差し出すのを、待っているかのように、袖の下を覗き込んだ。
「はい。もちろんですとも、少しずつ、切り落としておきました」
玉枝御前が、取り出したのは、鶴白が持ち帰ったと同じ、黒褐色の黄熟香であった。
「全てを渡せば良いものを」
紗々姫は、黄熟香を受け取理、少し、削り取ると、香炉に放り込み、残りは、ガラスの箱に押し込んだ。
「それを、どうするおつもりで?」
「天と地を繋ぐのよ。玉枝も、嬉しく思う事が、これから起きていくのよ」
笑う紗々姫の顔は、恐ろしく灯の中に、妖として浮かび上がっていた。
三かの塔は、朝廷の宝物殿となっていたが、その一つは、紗々への貢物などが、納められる塔がある。物心つく頃から、紗々は、そこに事あるごとに、入り浸り、夜を越す事があった。日も当たらぬ塔に、行く紗々を朝廷の者は、眉を顰めていたが、必ず、お供の老婆が側についていた玉枝御前である。3歳で、朝廷に嫁いできた時も、一緒に、ついてきた。乳母の様な否、紗々にとっては、母親の様な存在である。
「灯があちこちに、飛んでおるな」
紗々姫は、塔の1番上の窓から、外を見下ろしていた。
「何やら、物の怪が出た様です」
「物の怪とな」
紗々姫は、喉の奥で笑った。
「どこを探しても、元を立たなければ意味があるまい」
そっと、肩に触れる手を、優しく撫でる紗々姫。その手の爪は、長く黒い。
「人の心に住む鬼の方が、よほど怖いと思うが。。のう」
紗々姫が、後ろを振り向くと、数多の魑魅魍魎が、床の上を渦巻くように、這いのたうち回る。それらを囲むように、幾つもの棚が並び、見た事もないような壺や飾り箪笥、巻物、皿やガラスの置物が、重なるように置かれていた。紗々姫の側にあった棚から、青白い光が上がった。小瓶から、飛び出た爬虫類に似た妖が、紗々姫の顔に飛びついた。
「姫様!」
玉枝御前は、驚いて振り払おうとしたが、紗々姫は、顔色一つ変えず、右手で掴むと、振り払い両足で、踏みつけてしまった。
「造作ない。」
紗々姫には、妖を恐れる気持ちが、微塵もなかった。それよりも、虫ケラの様に扱い、妖は、紗々姫を逸れていた。
「立派に、育っていただきました」
妖を踏み潰した紗々姫を、玉枝御前は、誇らしく思った。
「それより。。玉枝。あれは、持ってきたか」
紗々姫は、玉枝御前が差し出すのを、待っているかのように、袖の下を覗き込んだ。
「はい。もちろんですとも、少しずつ、切り落としておきました」
玉枝御前が、取り出したのは、鶴白が持ち帰ったと同じ、黒褐色の黄熟香であった。
「全てを渡せば良いものを」
紗々姫は、黄熟香を受け取理、少し、削り取ると、香炉に放り込み、残りは、ガラスの箱に押し込んだ。
「それを、どうするおつもりで?」
「天と地を繋ぐのよ。玉枝も、嬉しく思う事が、これから起きていくのよ」
笑う紗々姫の顔は、恐ろしく灯の中に、妖として浮かび上がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる