皇帝より鬼神になりたい香の魔道士

蘇 陶華

文字の大きさ
23 / 82

香の女帝、風蘭。舞を披露する。

しおりを挟む
氷雪の崩落が瑠璃光と聚周を襲う少し前、皇宮の中央、高台に風蘭と呼ばれる男装の女帝が眼下を見下ろしていた。側近の宦官、成徳以外、彼が女性である事は、誰も知らなかった。いつも、同じ時間に、成徳を連れ、この高台から、眼下を見下ろす。高台に高貴な人が立つ事は、危険な為、止める官僚が多かったが、風蘭は、辞めなかった。高台から、見下ろす故郷の山々に思いを馳せる事が、この皇宮に閉じ込められた風蘭の唯一の慰めになっていた。
「そろそろ身体が冷えますので」
他の者の目を恐れ、成徳は、戻るように促すが、なかなか戻ろうとしない。
「あの件は、どうなったのか?」
低い声で、尋ねた。皇宮には、星暦寮があり、皇宮の最高位の術師が治めていたが、何年か前に、術の暴走により、最高の師が亡くなっていた。その数日前に、亡くなったその妻、薫衣が他殺体で見つかったのが、原因とされており、薫衣を慕っていた風蘭は、その調査を成徳に命じていたが、なかなか、真相が明らかになっていなかった。それだけではなく、朝廷が管理していた香、つまりこの場合は、漢薬、薬の処方までもが、紛失していた。噂によると星暦寮の寵児、瑠璃光が持ち去ったとの噂もあるが、朝廷の追手が、近づくと、瑠璃光は、陽の元の国に渡ったと聞いている。無くなったのは、それだけではなく、3本の件が行方不明になったままだ。持ち主を守る件と破壊者の件。青龍と白虎の剣。そして、朱雀の剣。朝廷の盤石を揺るがす一件ではあるが、公に探す事に成徳は、反対し、人知れず、人を雇っては、瑠璃光の行方を追っていた。特に兄弟弟子の聚周は、瑠璃光には、特別な執着があるらしく、執拗に探していた。遠く見下ろす街並みも、山の端も、すっかり、夕焼けに染まりつつあった。
「さて。。中に入るか」
風蘭は、じっと眼下を見下ろす事を辞めた。いったい、幾つの夕陽を見送っただろう。あの日から、とてつもない時間が経ってしまった気がする。風蘭は、初めて、瑠璃光を見た日の事を思い出していた。朝日の中で、皇宮の中庭で、舞を披露する瑠璃光は、幼かった風蘭の目にも、艶やかで美しかった。あの瑠璃光が、優しかった叔母を殺して逃げるだろうか。
「あ。。」
成徳は、黙って見ている事にした。夕方の冷たい風に吹かれ、舞を披露する風蘭の姿が、あまりにも、物悲しく見えたからだ。指先までもが、美しく彼女が、皇帝であることが、不幸でしかないと思われた。
「だからこそ。。」
香薬を探し出さねば。。。成徳は、瑠璃光の行き先を、早く探さねばと強く思い込むのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...