56 / 82
鋼の冠を抱く皇帝
しおりを挟む
これほど、自由を奪われたはずなのに、輝かしい王がいただろうか。屈辱に燃えた眼を、聚楽に向け、唇を噛み締めて、佇む顔は、透き通るように白く、両手首には、痛々しく、茨の腕輪が食い込んでいる。それでも、立っている姿は、神々しく美しい。聚周は、思わず得た獲物に、満足していた。
「このまま、風蘭の代わりに、本物が玉座につくのもありだと思うがな」
聚周は、成徳に言う。
「正統な後継者だろ」
風蘭の身体から、姿を現した成徳は、顔を顰める。
「それでは、意味がない。妖の血を引く者に、座を渡す訳には、いかない」
「妖でも、正統だろう。蛟の精を取り入れても、蛟は、龍にはなれん」
紫鳳が、吐き捨てるように言う。
「瑠璃光。合図さえくれれば、いつでも、こいつ達を、叩き潰してやる」
紫鳳の怒りは、頂点に達しそうだった。
「だめだ」
瑠璃光は、頭を振った。
「そうだよな。風蘭を助け出したいから、こんな俺の手に落ちたんだよな」
聚周は、自分の上唇をそっと舐めた。
「何をやっても、俺より上で。ずっと、澄ました顔が嫌だった。術が使えないなら、お前も風蘭も変わらないよね」
聚周は、瑠璃光の長い髪を引っ張り、自分の頬を寄せる。
「お前に、その気があるなら、皇帝の座に座らせてもいいぞ」
「ふざけやがって」
紫鳳の閉じられた翼が、開きそうになっている。青嵐は、怒りのあまり、炎を制御できなくなっていた。紗々姫だけが、薄く笑い、このやりとりを見ていた。
「お前ごときに、瑠璃光が抑えられると思うな」
「おや・・・何か、できるのかな」
「蛟は、蛟。龍には、なれん」
「同じ妖のもの同士、獲物に預かろうではないか?」
成徳は、嘲るように紗々姫に言い放つ。風蘭の命を盾に、聚周も成徳もやりたい放題だった。事もあろうか、抵抗の出来ない瑠璃光の髪を引き上げると、聚周は、瑠璃光の頬を、弄ぶかのように、舌先で、舐め上げた。誰もが、ゾッとする光景だった。
「調子に乗りおって」
紗々姫が、吐き捨てるように言った。声は、氷のように冷たく、双眸は、冷たい光を放っていた。激しい怒りの炎が、紗々姫の中で、踊り狂っていた。
「報告します」
人知れずの薬草園に軍兵が、血相を変えて飛び込んできた。周りの異常な空気に気を取られながらも、成徳に耳打ちする。
「ほらきたか?」
笑う紗々姫の、口元が耳まで裂けるのを、成徳は、肝を冷やす思いで見ていた。その報告の内容は、紗々姫が、何故、不敵に笑うのかを物語っていた。
「陽の元の国の襲来です。」
「何と!」
成徳は、目を見張った。陽の元の国は、最近、大陸の港町に現れ、虐殺や略奪を繰り返し、最近は、大人しくなっていた筈だった。それが、この後に及んで・・・何故?成徳の視線は、泳いでいた。ふと、紗々姫の目と目が合った。
「聞いたのか?」
紗々姫の目が、まるで、猫の瞳のように細くなった。
「あれ?」
成徳は、後ろに尻餅をつきそうになった。あれは、蛟の精ではない。もっと、恐ろしい物。今にも、紗々姫の裂けた口からは、長い舌が飛び出してくる様だった。
「終わると思うなよ」
紗々姫が、呟き終わるか、終わらないかのうちに、また、一人、軍兵が、顔色を変えて聖徳の元へと走り込んできた。
「報告です」
抵抗のできない瑠璃光の髪を弄んでいた聚周も、陽の元の国の来襲を聞いて、手元が止まっていたが、更に、現れた軍兵の姿に、空いた口が閉まらないでいた。
大陸の北にある草原の国、アルタイ国が、国境を渡り攻めてきたと言うのだ。皇帝不在の情報は、高い山を越え、周辺国の虎視眈々と、侵略を狙う国達に隙を与えていた。
「どうする。皇帝不在で、どう戦う?」
紗々姫は、恐ろしい顔で、聖徳に言う。
「はなから、皇帝など、あてにしておらん」
「爺さんが、先陣切って、出ていくのもいいだろう」
青嵐は、笑った。
「聚周!先陣きって、アルタイ国に向かうのだ」
「断る。欲しい物を手に入れれば、用はない」
聚周は、瑠璃光の手を引くと、早々に立ち去ろうとしている。
「目的は、果たした。こいつさえ、手に入れば、最初から、何もいらない」
「そういう訳には、行かないのよ」
紗々姫が、いつの間にか、聚周の前にたちはだかっていた。
「このまま、風蘭の代わりに、本物が玉座につくのもありだと思うがな」
聚周は、成徳に言う。
「正統な後継者だろ」
風蘭の身体から、姿を現した成徳は、顔を顰める。
「それでは、意味がない。妖の血を引く者に、座を渡す訳には、いかない」
「妖でも、正統だろう。蛟の精を取り入れても、蛟は、龍にはなれん」
紫鳳が、吐き捨てるように言う。
「瑠璃光。合図さえくれれば、いつでも、こいつ達を、叩き潰してやる」
紫鳳の怒りは、頂点に達しそうだった。
「だめだ」
瑠璃光は、頭を振った。
「そうだよな。風蘭を助け出したいから、こんな俺の手に落ちたんだよな」
聚周は、自分の上唇をそっと舐めた。
「何をやっても、俺より上で。ずっと、澄ました顔が嫌だった。術が使えないなら、お前も風蘭も変わらないよね」
聚周は、瑠璃光の長い髪を引っ張り、自分の頬を寄せる。
「お前に、その気があるなら、皇帝の座に座らせてもいいぞ」
「ふざけやがって」
紫鳳の閉じられた翼が、開きそうになっている。青嵐は、怒りのあまり、炎を制御できなくなっていた。紗々姫だけが、薄く笑い、このやりとりを見ていた。
「お前ごときに、瑠璃光が抑えられると思うな」
「おや・・・何か、できるのかな」
「蛟は、蛟。龍には、なれん」
「同じ妖のもの同士、獲物に預かろうではないか?」
成徳は、嘲るように紗々姫に言い放つ。風蘭の命を盾に、聚周も成徳もやりたい放題だった。事もあろうか、抵抗の出来ない瑠璃光の髪を引き上げると、聚周は、瑠璃光の頬を、弄ぶかのように、舌先で、舐め上げた。誰もが、ゾッとする光景だった。
「調子に乗りおって」
紗々姫が、吐き捨てるように言った。声は、氷のように冷たく、双眸は、冷たい光を放っていた。激しい怒りの炎が、紗々姫の中で、踊り狂っていた。
「報告します」
人知れずの薬草園に軍兵が、血相を変えて飛び込んできた。周りの異常な空気に気を取られながらも、成徳に耳打ちする。
「ほらきたか?」
笑う紗々姫の、口元が耳まで裂けるのを、成徳は、肝を冷やす思いで見ていた。その報告の内容は、紗々姫が、何故、不敵に笑うのかを物語っていた。
「陽の元の国の襲来です。」
「何と!」
成徳は、目を見張った。陽の元の国は、最近、大陸の港町に現れ、虐殺や略奪を繰り返し、最近は、大人しくなっていた筈だった。それが、この後に及んで・・・何故?成徳の視線は、泳いでいた。ふと、紗々姫の目と目が合った。
「聞いたのか?」
紗々姫の目が、まるで、猫の瞳のように細くなった。
「あれ?」
成徳は、後ろに尻餅をつきそうになった。あれは、蛟の精ではない。もっと、恐ろしい物。今にも、紗々姫の裂けた口からは、長い舌が飛び出してくる様だった。
「終わると思うなよ」
紗々姫が、呟き終わるか、終わらないかのうちに、また、一人、軍兵が、顔色を変えて聖徳の元へと走り込んできた。
「報告です」
抵抗のできない瑠璃光の髪を弄んでいた聚周も、陽の元の国の来襲を聞いて、手元が止まっていたが、更に、現れた軍兵の姿に、空いた口が閉まらないでいた。
大陸の北にある草原の国、アルタイ国が、国境を渡り攻めてきたと言うのだ。皇帝不在の情報は、高い山を越え、周辺国の虎視眈々と、侵略を狙う国達に隙を与えていた。
「どうする。皇帝不在で、どう戦う?」
紗々姫は、恐ろしい顔で、聖徳に言う。
「はなから、皇帝など、あてにしておらん」
「爺さんが、先陣切って、出ていくのもいいだろう」
青嵐は、笑った。
「聚周!先陣きって、アルタイ国に向かうのだ」
「断る。欲しい物を手に入れれば、用はない」
聚周は、瑠璃光の手を引くと、早々に立ち去ろうとしている。
「目的は、果たした。こいつさえ、手に入れば、最初から、何もいらない」
「そういう訳には、行かないのよ」
紗々姫が、いつの間にか、聚周の前にたちはだかっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる