極上のもふもふ愛をどうぞ。

蘇 陶華

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僕からの精一杯の愛を。

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僕は、茶都華の家族になって、当たり前の様に、年月は流れていった。少しずつ、あの日に起きた辛かった出来事を忘れる人が多かった。でも、確実に、何かが変わっていった。まず、僕らペットと一緒に避難できる様になった。僕らが家族という事を認めてもらえた。マイクロチップが努力義務になった。僕らのように、飼い主さんと離れてしまっても、すぐ、逢えるように、チップを入れる。そうすれば、僕は、今頃、母や兄妹達と裏山を走り回っていただろう。茶都華夫婦にも、変わった事が起きていた。何回も頑張っていた不妊治療がうまくいきそうだった。何回も、失敗し、僕は泣き沈む茶都華に朝まで、付き添っていた日もあったが、ようやく、2人の間に、子供が生まれそうになっていた。
「ぷくちゃん、こんにちは」
茶都華は、胎児に名前をつけていた。日増しに大きくなっていくお腹をさすりながら、話しかけている。そんな姿を見るのが、楽しみだった。それと同時に僕のお散歩は、ご主人に替わって行った。時間の許す限り、僕の為に、二人の時間を作ってくれる。
「あれ?」
そんなある日、なんでもない平地で、僕は、転ぶ様になっていった。大丈夫。立ち上がれるよ。そう思って、立とうとしても、立てない。体がフラフラしていた。そんな日があるかと思うと、なんでもない日もある。
「念の為・・」
そう言うご主人に連れられて、受診した動物病院で、告げられたのは
「骨肉腫です」
僕の体にあちこちに、できていた。
「嘘でしょ?」
ご主人の顔色は、真っ青になった。治療法はない。僕が、あの放射線で汚れた街を放浪していたせいで、僕の命は、短くなっていた。
「アル。お母さんには、黙っていような」
僕は頷いた。そのつもりだよ。茶都華に心配は、かけたくない。僕の体は、思ったより元気で、体の中に出来た腫瘍は、あまり、大きくならずに済んでいた。その間に、茶都華には、男の子が生まれ、僕は、お兄ちゃんになった。また、僕に、兄弟ができた。泣いていても、僕が行くと泣き止んだ。僕の真似をして、四つ足で、歩いたりした。あぁ・・・神様。僕は、もう少し、生きていたいです。その願いが届いたのか、僕は、たいして症状も出ずに、5歳になった楓斗と充実した時間を過ごせていた。楓斗は、僕と同じくボール遊びが大好きで、2人で、よく公園に遊びにいった。僕らの家の近くには、小さな公園がある。公園に行く時は、必ず、大人が一緒にとの約束だったけど、その日は、誰もいなかった。
「公園に行こう!」
留守番をしている時に、楓斗は、言った。僕は、抵抗したが、リードをつけられ、引きずるように、公園に連れて行かれた。この公演は、隣に、川が流れていて、河川工事をしている。その日は、日曜日で、誰もいなかった。あと、少しで、茶都華もご主人も帰ってくるのに、日毎にヤンチャになっていく楓斗は、言うことを聞いてはくれなかった。ボールをあらぬ方向に飛ばした楓斗は、それを追いかけて走り出した。
「危ない!」
僕は、走り出そうとした。が、突然、体が動かなくなった。目の前が、真っ暗になり、地に倒れてしまった。気がつくと、あたりに楓斗の姿はなかった。
「まさか・・・」
僕は、風に楓斗の行方を聞いた。微かに、泣き声が聞こえる。その方向は・・・。僕は、走った。どうか、転びませんように。必死にはして向かったのは、川の方向だった。
「アル。助けてアル!」
目に入ったのは、川に浮かぶ楓斗の姿だった。僕は、息を呑んだ。走って、行こうとしたが、川の岸は、ぬかるんでいて、足を取られる。
「楓斗!頑張って」
人を呼びに戻っていては、間に合わない。楓斗は、岸に生えている草に捕まっている。いつまで、持つか、わからない。僕は、必死に、ぬかるみの中を進んだ。足がとられ、体が、沈む。それでも、必死に、楓斗にたどり着いた。
「僕に捕まるんだ。楓斗。」
岸のそばに、コンクリートの足場が、少しだけ出ていた。そこは、僕が、よじ登るには、幅が狭くて無理だが、二本足の楓斗が立つには、十分な幅だった。僕は、ぬかるみの中を進み、楓斗に、僕に捕まるように、体を差し出した。
「嫌だよ。アル。アルが沈んじゃうよ」
楓斗は、抵抗した。僕は、楓斗の手を軽く咥えた。
「アル。ごめんよ」
楓斗は、大きな声で泣き出した。僕の体にしっかりと捕まりながら、なんとか、コンクリートの上まで、上がる事ができた。
「アル。ごめん」
何度も何度も、楓斗は、繰り返した。僕の体は、もう、力が残っていなかった。ぬかるみの中をなんとか、進んできたけど、もう、立ち上がれる力が残っていない。泣き叫ぶ、楓斗の声が誰かに届いたのか、遠くから走ってくる人が見えた。
「救急車!早く」
叫びながら、向かってくる。よかった。茶都華の大事な楓斗を守る事ができた。あの山々の日々。僕にとっては、最悪の出来事だらけだったけど、いい事もたくさんあった。たくさんの愛情を茶都華達に与えてもらった。僕は、精一杯生きる事ができました。茶都華達にたくさん愛情を注いでもらったから、これが、僕から、茶都華達に送る最後の愛情です。茶都華ありがとう。僕の最高の愛情を捧げます。僕は、静かに沈んでいった。
 あれから、どのくらい時間が、流れたのだろう。僕は、懐かしい顔が覗いている事に、気づいた。四角い視界の中に、映るのは、茶都華とご主人様、そして少し大きくなった楓斗の姿だった。
「かわいいなぁ・・・」
皆は、僕の姿を見て微笑んでいた。
「弟の名前は、なんてつける?」
ご主人様が、興奮気味に言っている。そう、僕は、また、この家族に巡り合った。アルだった頃の記憶は、もう少しで、消える。僕は、生まれ変わった。
「僕とまた、一緒に暮らしてくれる?」
僕は、無邪気に笑って見せた。
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