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裏切りへの報復

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首を締め付けられて、ナチャの顔を破裂しそうにあからんで来た。ハワードも、遠いに兄弟だった事なんて、忘れてしまったかのように、容赦なかった。苦しむナチャの姿に、心を動かされないのか、キリアスは冷静だった。キリアスの中の、犀花も、自体に気づく様子はなかった。
「ハワード。一思いにやりなさい」
構わず、キリアスは、宙に止まっている赤黒いゼリーの様な物を口に入れようとしている。どこか、生臭く、決して、人が口に入れる物ではない。
「いけない。それは・・・」
ナチャは、必死に止めようと、指先を伸ばすが、届かない。このまま、首の骨が折れてしまうと思った瞬間だった。
「そこまで」
ナチャの上に、白い影が降ってきた。ハワードは、目が眩み思わず、持っていた手が緩み、鞭を持つ手が、緩んだ。
「こんな物、まだ、使い者がいるなんて」
白夜狐だった。背中まで、銀色の髪が覆い、片方の子にだけ、半身の面を付けている。名前の通り、目は吊り上がり、赤く光っている。
「眷属よ。現れたか」
キリアスは、存在そのものを知っている様だった。
「知っている様だな。わざわざ、復活する為に、この地を選んだ様だが、我々は、受け入れる事はできないと答えていたはず」
「封印すると偽り、ここまで、私の体を運ばせたのだ。何年、何百年掛かろうと、この地の精気を吸い尽くし、蘇って復讐してやる」
「この地は、関係ない。望むなら、彼の地に帰そう」
白夜狐は、床に倒れているナチャを抱え起こす。
「まだ、間に合う。キリアス。もう、過去の事は、水に流さないか?新しく生きる為に、この地に生まれたのでは?」
「ふざけるな!」
キリアスは、宙の赤いゼリーを投げつけた。
「ようやく、合う体を見つけたのだ。前とは、違う。おや・・・前の体にも、眷属達が、うろついていたな」
白夜狐は、右の拳を握りしめた。
「あの時とは、違う。お前のせいで、天田伊國は、滅びた」
「そうか・・・どこかで、見た顔と思っていたのは」
キリアスは、笑った。
「天田伊國の狐どもか」
キリアスが、投げつける紅い礫を、腕で払う。
「今度こそ。決着をつけないと」
ナチャを、安全な場所に寝かせると、白夜狐は、細い巻物を手に取り出した。神典である。
「そんな物、効くかい!」
キリアスの指先は、長く黒い爪と、代わり白夜狐に飛びかかっていった。
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