それは、人に憑く。邪神備忘録

人に戻るのか、化けるのか

真実は、人を傷つける。

邪神は、本当の事を知りたい訳ではない。

颯太を元の位置に、戻し、

晴と共に、あの蔵での生活に戻りたいだけ。

首に巻き付いた金鎖を解き、

砂の世界に行って、のんびり昼寝をしたいのだ。

勿論、颯太がこのままでも、かまわない。

妖と人間の間で、以前とは、全く逆で、人に追われながら生きるのもいいだろう。

自分は、気ままな邪神なのだから。

この世に起きる事は、他人事だ。

ただ・・・。

颯太からただ寄ってくる、臭いが気になって仕方がない。

「この臭い・・・」

随分、お昔に嗅いだ臭いだ。

「ふ・・・ん。確かに可能性はある」

九尾の狐の臭い。

気になっていた。

どこから、そんな臭いがするのか。

「どうやら、お前は、寺の事も、颯太の正体も知っているんだよな」

「許してください」

封雲は、らしくなく、ブルブル震えた。

「震えるのは、何が、怖いのかな？私かな・・・それとも・・・」

邪神は、唇で、その言葉を呟いた。

「ヒィ・・・」

封雲は、頭を抱えた。

「本当の、試してみただけなんです・・・本当なのかと思って」

「試したみたって、颯太の数珠を切ってしまう事だな」

「は・・い」

颯太は、頷いた。

「数珠が、どんな役目を果たしていたか、知っていたんだな」

「噂で・・・聞いていて」

申し訳なさそうに、封雲は、颯太の顔をチラッと見た。

「噂は、本当だったのか？」

「は・・い。だから・・・」

封雲の怯え方は、尋常でなかった。

「だから、逃げ出したんだな？」

「いえ・・・僕は、探そうと」

「探そうと？」

「はい・・・あれが、ないとダメだから」

「そうだよな。」

邪神は、自分の考えに確信が持てたので、少し、笑った。

気味の悪い笑顔だった。

「探さないと、もっと、恐ろしい事が起きるぞ」

「わかっています・・・だって。颯太が、あの九尾の狐の息子だなんて・・」

思わず、呟いた、封雲の言葉に、そこにいた全員が凍りついた。

勿論、邪神以外だったが。

「九尾の狐って・・・朝廷を混乱させたというあの・・・」

「玉藻御前・・・」

封雲は、怯えた目で、颯太を見つめていた。