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その名前を口にしたら
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「ふふふ・・・」
山から、降りてきたのは、姿がなかった。
ただ笑い。
邪神の頬を撫でる。
「姿がないのか・・・」
封雲は、空を仰いだ。
山頂から滑るように降りてきた気配は、
形を持っていなかった。
ただならぬ気配は、
元あった形が、なだならぬ者であった証だ。
言葉は、宙を通し、邪神の心に響く。
「どうして、形を持たぬ?」
「もう、必要なくなったから」
「それでも、ここに残るのは、思い残した事があるから?」
「ここが、そうなのかわからない」
声が、風に弾け、木々を震わせる。
「邪神・・・」
颯太が言う。
「そこにいるのは、誰なの」
「そこにいるのは・・・」
躊躇う邪神。
「かつて、この山寺で、守っていた妖だ・・・」
「妖?」
颯太は、何かに気づいた様だ。
「その妖の姿は、僕と同じ?」
「そうだな」
颯太は、片手を上げた。
木々を抜ける風が、颯太の手に絡みつく。
「寺は、僕らを庇っていたから、焼かれたの?」
「そうだな」
「焼かれた人達は、悪い事をした?」
「お前は、悪い事をしたのか?」
「寺で、教えられた通り、霊障で、困っている人を助けていた」
「そうだろう。寺のみんなは、そうだったんだろう?」
「見た目で、殺されたの?」
「目があっても、見抜けない奴がたくさんいる。わからないから、疑わしいのを殺した」
「僕にとっては、家族だった」
・・・私にとってもな・・・
邪神は、小さく呟いた。
颯太が、あの玉藻御前の息子だったなんて。
砂の世界にやってきた時は、幼い少女だったのに。
何があって、日本にたどり着いていた?
「もういいだろう?」
邪神は、その風に向かって言った。
「もう、お前は、存在しない」
風に漂う気配は、邪神の掌にとどまっていた。
「会えるまで、待っていたのか」
掌に乗ったそれを、颯太に渡すように、鼻先で、指を広げる。
山頂から、冷たい風が流れ、邪神の掌から、花の香りが溢れていった。
禍々しい気配が、次第に消え、花の香へと変わっていく。
「邪神・・・」
宙から、音羽が、顔を出す。
「本当の事を言わないのか?」
「言うなよ」
颯太を待っていた禍々しい存在は、邪神の力で、一輪の花へと変えられていった。
颯太を待っていた者。
この地に最後まで、残り
颯太を待っていた事を伝えたかった者。
邪神は、何も告げず、
颯太の前で、存在を消していた。
「何も知らなくていい」
そう言うと、邪神は、颯太の肩を抱いた。
「もう、姿が変わる事はないから」
地に落ちたのは、萎れた一輪の百合の花だった。
「何があったの?」
「何も、知らなくていい。お前が、変わらないでいるのが、一番だから」
自分の遠い日の思い出。
触れたくない場所に、颯太の姿がった。
山から、降りてきたのは、姿がなかった。
ただ笑い。
邪神の頬を撫でる。
「姿がないのか・・・」
封雲は、空を仰いだ。
山頂から滑るように降りてきた気配は、
形を持っていなかった。
ただならぬ気配は、
元あった形が、なだならぬ者であった証だ。
言葉は、宙を通し、邪神の心に響く。
「どうして、形を持たぬ?」
「もう、必要なくなったから」
「それでも、ここに残るのは、思い残した事があるから?」
「ここが、そうなのかわからない」
声が、風に弾け、木々を震わせる。
「邪神・・・」
颯太が言う。
「そこにいるのは、誰なの」
「そこにいるのは・・・」
躊躇う邪神。
「かつて、この山寺で、守っていた妖だ・・・」
「妖?」
颯太は、何かに気づいた様だ。
「その妖の姿は、僕と同じ?」
「そうだな」
颯太は、片手を上げた。
木々を抜ける風が、颯太の手に絡みつく。
「寺は、僕らを庇っていたから、焼かれたの?」
「そうだな」
「焼かれた人達は、悪い事をした?」
「お前は、悪い事をしたのか?」
「寺で、教えられた通り、霊障で、困っている人を助けていた」
「そうだろう。寺のみんなは、そうだったんだろう?」
「見た目で、殺されたの?」
「目があっても、見抜けない奴がたくさんいる。わからないから、疑わしいのを殺した」
「僕にとっては、家族だった」
・・・私にとってもな・・・
邪神は、小さく呟いた。
颯太が、あの玉藻御前の息子だったなんて。
砂の世界にやってきた時は、幼い少女だったのに。
何があって、日本にたどり着いていた?
「もういいだろう?」
邪神は、その風に向かって言った。
「もう、お前は、存在しない」
風に漂う気配は、邪神の掌にとどまっていた。
「会えるまで、待っていたのか」
掌に乗ったそれを、颯太に渡すように、鼻先で、指を広げる。
山頂から、冷たい風が流れ、邪神の掌から、花の香りが溢れていった。
禍々しい気配が、次第に消え、花の香へと変わっていく。
「邪神・・・」
宙から、音羽が、顔を出す。
「本当の事を言わないのか?」
「言うなよ」
颯太を待っていた禍々しい存在は、邪神の力で、一輪の花へと変えられていった。
颯太を待っていた者。
この地に最後まで、残り
颯太を待っていた事を伝えたかった者。
邪神は、何も告げず、
颯太の前で、存在を消していた。
「何も知らなくていい」
そう言うと、邪神は、颯太の肩を抱いた。
「もう、姿が変わる事はないから」
地に落ちたのは、萎れた一輪の百合の花だった。
「何があったの?」
「何も、知らなくていい。お前が、変わらないでいるのが、一番だから」
自分の遠い日の思い出。
触れたくない場所に、颯太の姿がった。
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