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待ち合わせは、線路の上

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颯太は、線路の脇に立っていた。なかなか開かない踏切。そばには、すっかり人気のない本屋が、立っている。昼間には、塾帰りの子供達の自転車が、並んでいたが、夜中となると人気がない。朝と夕方は、往復する電車で、踏切が開くのは、ほんの僅かな時間だ。
「結局、来る気がないのかよ」
颯太は、音羽に無視された事に気づいた。あまり、依頼を受ける気がないらしい。事前に、来る依頼のメールは、音羽が、チェックする。緊急な案件なのか、時間に余裕がある時でいいのか、判断するのが、音羽の仕事だが、今回の件は、興味がないのか、何度も、送られてくるメールを削除していた。
「関わるな」
という場合もある。以前に、関わるなと言われた件で、酷い目にあった時があった。神社の鳥居に化けた妖物に、どこまでも、追いかけられ逃げ込んだ鐘撞堂の鐘を吹き飛ばした事があった。
「霊以外は、取り扱うな」
あれ以来、音羽の言う事は、守るようにしている。だが、今回は、どうしても、引き受けたかった。依頼は、子供を亡くした母親からだ。
「そこに家の子が出ると言うんです」
小学生の息子さんが、不幸な事故で、この踏切で、亡くなった。その霊が、その近くの本屋の防犯カメラに映ると言うのだ。
「本当なら、逢いたいです。そして、どうして、そこにいるのか聞きたいです」
心無い噂に傷ついている。颯太は、思った。本当にその母親の子なら、逢わせてあげたいてあげたい。だが、やはり、今回も、音羽に却下された。
「ただの地縛霊でしょう?」
颯太は、引き受けるべきだと言った。
「また、手に負えなくなるよ」
音羽は、却下した。
「颯太には、負えない」
「でも、困ってるんだよ。それに、本当に、自分の子が成仏しないで、残っているなんて、可哀想でしょう?」
「甘いね」
「じゃ・・・どうすればいいの?」
「彼を同行させて」
「彼?」
あの頼りない高校教師の事だ。
「あんな弱い奴に何ができる訳?」
「確かに、今は、弱い。」
「今は??」
「閉じ込められているからね」
「どこに?」
「まだ、殻の中だ。きっかけがないと、本当の彼には逢えない」
「意味わからないなぁ」
「とにかく、この件は、後回しにして。君には、無理」
そう言うと音羽は、地面の中に沈んでいった。
「かと言って・・・」
このまま、放っておけるか?颯太は、カメラがよく映し出す少年がいる位置になっていた。
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