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笑う二人の少女

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どこまでも続く、砂漠は夜空を映し出し、見た事のない美しさを見せていた。満点の星空は、遠い日に見た記憶を呼び覚ます。
「あぁ・・・そうだった」
晴は、呟いた。自分という存在が誰なのか、わからなかった。晴と言う名前は、本当に自分の名前なのか。借り物の気すらする。先ほど、もう一人の自分と体が重なった気がする。錯覚ではない。自分の中に、ようやく、自分が戻ってきた。そんな気がする。
「ねぇ、累。生きてるみたいよ」
抱き合ったままの形の双子の片割れが話す。
「ここに来たのに、まだ、生きてるよ。愛」
「誰なんだろう」
「誰だろうね。人間かな」
「人間は、来れないよ。むかーし、一人だけ来たきりだよ」
「結局、死んだ」
「そうそう。死んだ」
晴は、互いに、呼吸するように話す古木の双子が気になった。
「あの・・・」
晴は、思い切って、声を掛けてみた。
「君らは、人間なの?」
「そんな訳ないじゃん。穢らわしい」
片方の銀髪の少女が、頬を膨らました。
「ここに、人間が居れる訳ないじゃん」
「だって・・・僕は?」
晴は、自分を指さした。
「もしかして。僕は?死んだの?」
双子は、顔を合わせる。
「死んだのか?」
「死んだ?」
晴は、頭が重くなってきた気がして、俯いた。自分は、この知らない地で、命を費やしてしまったのだろうか?あの黒い雲と一緒に、この世界に送られて、魂は、消滅したのか?今までの、穏やかな生活は、どこに消えてしまったのか。もう、家族には、逢えないのか。そう思うと腹が立ってきた。お腹に抱えている小さな怒りの炎が次第に大きくなってくる。
「なんか、空気が変わった」
金髪の片割れが呟く。
「おかしいよ」
体の中に怒りが満ちてくる。どす黒く渦巻いた怒りが、体の中央から、末端に流れていく。自分は、もう、あの穏やかな世界に戻れないのか。怒りが満ち、体の端々に道合われる。
それは、髪の毛を逆立たせ、爪先を鋭く尖らせる。
「愛!大変だよ!」
「累!大変だよ」
双子の前には、山羊の様な長い巻つのを頭にした邪神が、立ち塞がっていた。満点の星空を背に、双子を見下ろす姿は、そら恐ろしく、見る者をゾッとさせるのだった。
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