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少女の霊 音羽の言い分

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晴が戻って来ない。音羽は、気にも留めず、次の依頼のメールの選別を始めていたが、颯太は気になって仕方がない。
「もし、帰れなくなったらどうする?」
「本当に、大丈夫なのか?」
「抜け道は、あるのか?」
あまりにも、うるさく聞き回るものだから、音羽に舌打ちされてしまった。
「ちっ!」
音羽が、舌打ちをすると、その空気は、凍りつく。白く凍った空気が、音を立てて、落ちてくる。
「やめろよ!」
フローリングが傷つく。幽霊の癖に、部屋を綺麗に使えない。音羽は、着物が好きで、幽霊なのに、古着屋を周り、年代物の着物を集めてくる。購入すると言うより、レジに立つと、店主が気を失うといった買い方だ。購入したら、部屋中に、着物を広げ、目利きが始まる。
「片付けろよ」
「うるさいわね」
音羽は、再度、舌打ちをするから、また、凍りついた空気が落ちる。
「心配なら、追いかけて行きなさいよ」
「どうやって?」
「それもそうね」
音羽は、首を捻る。
「どうして、あたしは、あなたに、彼をぶつけたのかしら?」
「え?知らないで、やったの?」
「止めるには、それしかないと思って」
「無謀すぎる」
颯太は、言葉を飲み込んだ。
「晴って?何者か、知っていたの?」
「そうね・・」
音羽は、話した。音羽には、その人に憑いている霊が見えるらしい。先祖の顔や身近な人の生き霊が見えるが、どうしても、晴だけは、見えなかったらしい。
「何かね。こう、勘が働くのよ」
「幽霊のかんね・・」
颯太は、呆れた。いつも、音羽は、肝心な事になると話をはぐらかす。音羽が、同じ霊を見えるのは当たり前。ただ、その霊が何に固執し、成仏できないのか、話さなくても、瞬間に理解できる。メールを読み取る事で、どの類の霊が関わり、解決法は何なのか、瞬間に読み取る。だから、混沌が関わる件は、
「引き受けるな」
と言っていたのだ。
「まだ、全容がはっきりしない」
最近、疑わしき案件が増えている。恐ろしく陰の気が集まり、霊障のある地に出没している。それが、何を目的としているのかは、まだ、わからない。
「こんな事、現実にある訳ないだろう?」
正体不明の霊の集まりに、颯太は、笑った。
「非現実すぎる」
「そうしたら、あたしは、どうなる?」
音羽が、颯太を見下ろした。
「あたしみたいな、存在があるとすれば、混沌もある。そして、晴みたいな存在もね」
「人工知能の世の中だぞ」
「だからよ。人の骸の上で、生活している。みんな、忘れている。過去の事」
除霊をしている颯太にも、わかっている。古き古の人達が、守っていた慣わしが消え、眠っていた災いが、目覚め始めている事を・・・。
「お前の力だけでは、解決できない日がくる。だから、助言者が、必要なのだ。だけど、晴が、どういう器なのか、まだ、よくわからん」
音羽の髪が逆立っていた。
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