「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第24話:文化祭準備と、嫉妬と柔軟剤戦争

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 文化祭――それは、香りが乱舞する季節だ。

 クラスごとの装飾、出し物、準備の熱気。そして、密集した空間で動き回る女子たちが、それぞれの"香り戦略"を展開する戦場でもある。

「白井くん、ちょっとこのパネル持ってくれますか?」

「おっけー、どこに……あっ、これ、ミルクティーの香り……」

「ふふっ、やっぱり分かります? 新しい柔軟剤なんですよ。ルナさんに負けないように、私も少しだけ冒険してみました」

 久遠美月は、いつもの静けさにほんの少し“挑戦の匂い”を混ぜていた。
 ウッディベースに、マグノリアと紅茶を足した柔らかな甘さ。

(確かに、香りに奥行きがある……)

「おーい、白井! 脚立運ぶの手伝って!」

 教室の反対側から、元気な声。
 白神ルナが、スカートを気にせず高い場所に登ろうとしていた。

「ったく、パンツ見え……いや、もう少し気をつけて……」

「へっ? パンツじゃないし! 今日はショートスパッツ装備だもん!」

 彼女が動くたび、ふわりと漂うのは甘いミルクティーに、微かにミントを加えた柔軟剤の香り。
 彼女らしい、元気さと女の子らしさを絶妙にブレンドした香りだった。

(今日のルナ、いつもより調整してるな……)

「白井くん、何呆けてるの?」

 声がして振り返ると、そこには新たな存在――志村紅葉がいた。

 図書室の静けさから飛び出してきた彼女は、文化祭の書道展示の準備を手伝いに来ていた。
 彼女からは、ほんのりと墨の香りと、それに重なるようにアールグレイとホワイトムスクの香りが。

「……これ、文化祭用に調合してみたの」

 紅葉がポツリと漏らした。

 彼女もまた、"香りで自分を表現しようとしていた"のだ。

「白井くん、どう? この香り……印象、ある?」

「ある。……すごく“静かに主張してくる”感じがする」

「よかった……“伝わって”」

 美月、ルナ、紅葉。

 三人の香りが、教室の中で静かに火花を散らしていた。

 そして事件は起こった。

「白井! お前、どの香りが一番好き!? 答えろやあああ!!」

 ルナがシャープペン片手に詰め寄ってきた。

「え!? いや、その、みんなそれぞれ……」

「それぞれじゃなくて!! どれ!? 一番“ときめいた香り”は!? 忖度抜きで!!」

 美月と紅葉も、無言で白井に視線を送る。
 空気が、香りと嫉妬とで濃密になる。

 僕は――鼻を深く吸い込み、そして言った。

「……比べられないよ。全部、“その人そのものの匂い”だから」

 沈黙。

「……ズルいけど、認める」

「誤魔化したようで、ちゃんと答えになってるのが悔しい」

「……うん。だからまた、私も香らせる」

 3人はそれぞれ、そっと背中を向けて準備に戻った。
 でも、香りだけは――

 確実に僕の心に、残り続けていた。

 文化祭前夜。
 香りは、すでに本番以上に熱を帯びていた。

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