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第86話:始業式と、いないはずの香り
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蝉の声が急に減った。
空気はまだ夏の熱を残していたけれど、風の中に秋の気配が混ざりはじめていた。
二学期、始業式。
僕は、少し気だるい気持ちで校門をくぐった。
ヒロインたち──いぶき、ルナ、美月、紅葉──はそれぞれの夏の余韻をまとっていた。
いぶきはいつもの無香に、少しだけスパイシーな気配を。
ルナは日焼けした肌とシトラス系の香りで元気さを。
美月は清涼感と落ち着きを兼ね備えたウッディな香りを、
紅葉は読書と秋に向かうような、落ち着いた白檀の香りを帯びていた。
でも、僕の意識はどこか浮いていた。
──遥香がいない。
それは当たり前のことだった。
彼女は、引っ越すと言っていた。
あの夜が最後の時間だと、そう思っていた。
(……でも、なんでだろう)
(今、この風の中に……)
甘くて、熱を帯びた、あの夜と同じ“恋の香り”が、混ざってる気がする。
まさか、そんなはずは──
「──よう。久しぶり」
その声が、僕の背後から聞こえた。
振り返る。
制服姿の遥香が、笑って立っていた。
髪をひとつにまとめて、スカートからのぞく素肌に、夏の終わりの光が差していた。
「……は、るか……?」
「あれ? 驚いてる?」
「だって……引っ越したんじゃ──」
遥香は、肩をすくめて言った。
「やめた。私だけ、こっちに残って一人暮らしすることにしたんだ」
「親はびっくりしてたけど、あたし……あの夜から、決めてたんだ」
「このままじゃ、後悔するって」
香りが、風に乗って僕の鼻を満たす。
確かに、あの夜と同じ。
でも、そこには新しいものもあった。
──決意。
白井「……なんで、何も言わなかったんだよ」
遥香は、にっと笑って、
「だって……びっくりする顔、見たかったから」
その香りは、どこまでも甘くて強くて、確かに僕に向いていた。
始業式の日、僕は“いないはずの香り”に再会した。
空気はまだ夏の熱を残していたけれど、風の中に秋の気配が混ざりはじめていた。
二学期、始業式。
僕は、少し気だるい気持ちで校門をくぐった。
ヒロインたち──いぶき、ルナ、美月、紅葉──はそれぞれの夏の余韻をまとっていた。
いぶきはいつもの無香に、少しだけスパイシーな気配を。
ルナは日焼けした肌とシトラス系の香りで元気さを。
美月は清涼感と落ち着きを兼ね備えたウッディな香りを、
紅葉は読書と秋に向かうような、落ち着いた白檀の香りを帯びていた。
でも、僕の意識はどこか浮いていた。
──遥香がいない。
それは当たり前のことだった。
彼女は、引っ越すと言っていた。
あの夜が最後の時間だと、そう思っていた。
(……でも、なんでだろう)
(今、この風の中に……)
甘くて、熱を帯びた、あの夜と同じ“恋の香り”が、混ざってる気がする。
まさか、そんなはずは──
「──よう。久しぶり」
その声が、僕の背後から聞こえた。
振り返る。
制服姿の遥香が、笑って立っていた。
髪をひとつにまとめて、スカートからのぞく素肌に、夏の終わりの光が差していた。
「……は、るか……?」
「あれ? 驚いてる?」
「だって……引っ越したんじゃ──」
遥香は、肩をすくめて言った。
「やめた。私だけ、こっちに残って一人暮らしすることにしたんだ」
「親はびっくりしてたけど、あたし……あの夜から、決めてたんだ」
「このままじゃ、後悔するって」
香りが、風に乗って僕の鼻を満たす。
確かに、あの夜と同じ。
でも、そこには新しいものもあった。
──決意。
白井「……なんで、何も言わなかったんだよ」
遥香は、にっと笑って、
「だって……びっくりする顔、見たかったから」
その香りは、どこまでも甘くて強くて、確かに僕に向いていた。
始業式の日、僕は“いないはずの香り”に再会した。
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