「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第129話「香りの暴走、すれ違いの香水トラップ」

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 仮装リハーサルの翌日、ホームルーム後の教室。

 

「これ──試してみたかったの。香りの“残像演出”」

 そう言って、紅葉は小瓶をいくつか机の上に並べた。

 

「“残香式舞踏空間”っていう演出があるの。
 香りを場所に定着させて、そこにいた人の“存在感”を演出する仕掛け」

 

「つまり……この教室で香りを使えば、“誰がどこにいたか”を香りで再現できるってことか」

 僕が頷くと、紅葉は静かに微笑んだ。

 

「ええ。その代わり──**香りが“消えにくくなる”**わよ」

 

 それは、のちの“混乱”を予言する言葉だった。

 

 ◆

 

 翌日、放課後。

 準備のためにヒロインたちが衣装を着用したまま教室入り。

 そして……事件は起こった。

 

「…………あれ?」

 いぶきが、腕を嗅いで首を傾げた。

 

「ちょっと待って? この香り……私のじゃない……?」

 

「え!? うちも、なんか変な香りついてんだけど!?」
 ルナがマントをばさっと開いて叫ぶ。

 

「わたしも……これ、明らかに“遥香の”香りよ……」
 美月が鼻をひくつかせながら、顔をしかめる。

 

 ──そう、紅葉が仕込んだ“残像香”は、教室に定着しすぎていた。

 

 準備作業で接触が起こり、衣装や髪に**“他人の香り”が移ってしまった**のだ。

 

 紅葉:「……ごめんなさい、ここまで強く定着するとは……」

 

 僕は、鼻を押さえてその場にへたり込みそうになる。

 

「こ、これは……ダメだ……」

「誰が誰の匂いだ!? 香りが人格と分離してるぅぅぅ!!」

 

 美月(の服)からはルナの香り。

 ルナの髪からは紅葉の墨香。

 紅葉は遥香のフェロモン系ボディミストの香りに包まれ、

 遥香はなぜか“いぶきの微香バニラ”に化け、

 いぶきは紅葉の白檀&沈香をまとっていた。

 

 ──まさに香りのカオス空間。

 

「ねぇ!? なんで美月が“うちの匂い”してんの!? ちょっとそれ着替えてもらえます!? うちの匂いはうちのモノです!!」
 ルナが半泣きで叫ぶ。

 

「それは……言っておくけど私が望んでこうなったわけじゃないわ……」
 美月が困惑顔で返す。

 

「こ、こんな状態で白井くんに嗅がれたら……っ、間違えられちゃう……」
 いぶきが自分の袖をくんくんと嗅ぎながら顔を赤くする。

 

「……いや、これは逆に面白いじゃない? “中身と香りが違う”なんて、めったに体験できないわ」
 紅葉だけが冷静に記録を取りながら言った。

 

 一方、僕はというと──

 

(この混乱の中で“正しい香りの主”を当てられるかどうか……)

(これは試されている……俺の嗅覚の真価がッ!!)

 

 だが次の瞬間、遥香がにやりと笑って言った。

 

「じゃあ白井。今から私たち全員の“香り”当てゲーム、する?」

 

「やめてくれええええええええ!!!」

 

 

 混乱の渦中で、嗅覚だけを頼りに、僕は恋と汗と香水の錯覚戦争を生き延びねばならない。

 

 香りは、記憶を惑わす。

 香りは、心を試す。

 

 ──今のこの教室は、香りの迷宮。

 僕の“鼻”だけが、出口を見つけられるかもしれない。

 

 

 つづく。

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