妄想美少女脳内ポエム

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【雨で濡れ透けた制服】ポエム題材

題材【演劇部女子 × 雨 × 濡れ透け制服 × 舞台と現実の境界が崩れる午後】

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『舞台袖より濡れた午後、わたしは自分の役を降ろされた』
 

 開演ベルは鳴っていないのに、
 今日の午後、わたしは
 ひとつの“幕”を降ろされた気がした。

 舞台でもないのに、
 客席も照明もないのに、
 この空は、容赦なく“演技”を溶かしてくる。

 午後四時、突然の雨。
 雲は遠慮も前触れもなく、空を覆い、
 そのままざあっと制服ごと、わたしを濡らした。

 ***

 演劇部でわたしが演じてきたのは、
 優等生役。
 クールな先輩役。
 時には、孤独な悪役、またあるときは、明るく奔放な主役。

 照明の下でなら、
 どんな役もなりきれた。

 舞台袖で深呼吸をすれば、
 その瞬間、“わたし”を忘れることができた。

 だけど今日――
 濡れた制服が肌に貼りついたとき、
 役ではない、“素のわたし”が、浮かび上がってしまった。

 ***

 傘を忘れたなんて、油断。
 せっかく丁寧にアイロンをかけたブラウスは、
 すぐに水を吸い、体温を奪っていく。

 白い生地の下から、
 下着の輪郭が淡く透けているのがわかった。

 舞台の上では、
 肌のラインも、声色も、光の角度もコントロールできる。

 だけどこの現実は、
 一切の脚本を許さない。

 誰がどこから見ているかもわからないなかで、
 わたしはただの「濡れた女子高生」になった。

 ***

 視線が刺さる。
 “見てないふり”をする人ほど、
 一瞬のまばたきに、正直な感情を込める。

 わたしもそれを知っている。
 “演じる側”の目は、
 常に“観る側”の視線を拾ってしまう癖がある。

 笑われてる?
 戸惑われてる?
 引かれてる?
 …それとも、どこかで、
 美しいと思われてる?

 そのどれでもあってほしくなくて、
 わたしは早足で校舎の陰に逃げ込んだ。

 ***

 舞台袖にいるときのほうが、
 ずっと安心だった。

 そこには、台詞がある。
 演出がある。
 自分に向けられる拍手も、ブーイングも、
 すべて“役柄”の評価だと割り切れる。

 でも今日のわたしに向けられるのは――
 生の視線。素のままの、評価。

 それが、怖かった。

 ***

 こんな姿、誰にも見せたくなかった。
 けれど、見られてしまった。

「舞台上では堂々としてるのに、
 雨に濡れて逃げるなんて、意外だね」

 そんな言葉を想像して、
 心の奥がきゅうっとなった。

 それでも、わたしの足は止まらなかった。

 濡れたローファーの中で靴下がぐちゃりと音を立てるたびに、
 “演技”ではない、“生身”のわたしを
 世界に刻みつけられている気がした。

 ***

 部室の鏡に映った自分。
 髪は濡れて、
 肩には水滴がしずくのように連なっていて、
 ブラウスの奥のシルエットがうっすらと浮かんでいた。

 まるで――
 稽古終わりに衣装のまま泣き出した、
 まだ役に入りきれない新人役者みたいだった。

 ***

「透けてるよ」と、
 誰かが言ってくれたら、
 きっとわたしは笑って返せたかもしれない。

 でも誰も何も言わない、
 その沈黙が、
 逆にわたしを“素”にした。

 照明がない場所で透ける布は、
 予想よりずっと、わたしの輪郭をあらわにした。

 ***

 演じることに救われてきた。
 でも今日は、
 演じることを許されなかった。

 その分、
 気づいてしまったのかもしれない。

 わたしは――
 “役者としてのわたし”を脱いでも、
 まだここに“何か”が残っていることを。

 ***

 濡れた午後。
 舞台袖ではなく、
 世界のど真ん中で透けてしまった“素のわたし”。

 恥ずかしかった。
 怖かった。
 でも、ほんの少しだけ、
 自由だった。

 拍手も照明もない場所で、
 “誰でもないわたし”が、たしかに歩いていた。

 ***

 今度の公演で演じるのは、
「何者にもなれない少女」の役。

 脚本を読みながら、
 わたしはきっと、
 今日の午後の自分を思い出す。

 雨の中で透けた自分。
 逃げることすら芝居じみていた自分。

 それでも――
 あの一歩一歩が、
 “本番よりもリアルなわたし”だった。
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