『姫君の復讐療法──無残な仕返しですが、なぜか笑顔になりました』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第1章『記憶のメイドと火刑の微笑み』

第11話『そして、私も焼かれていた』

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 ──深夜。

 王宮の奥、かつてリナの部屋だった小さな石室に、まひるはひとりで座っていた。

 風はない。灯りもない。

 ただ、蝋燭の残り香と、焦げた布のにおいだけが、まだ残っていた。

 

 リナがいた場所。
 あの子が毎晩、黙って本を読んでいた窓辺。
 あの子が泣きながら笑っていた、あの夜の椅子。

 

 そこに、まひるはいた。

 王女ではない、“まひる”として。

 

 誰もいない部屋に、そっとリナのリボンを置く。

 焼け残った、その紫の布片は──まるでまだ、あの子の体温を宿しているようだった。

 

「ねえ、リナ」

 

 まひるは、誰に言うでもなく、語り始める。

 語ることでしか、保てない心があった。

 

「……わたし、ずっと“あなたに”なりたかったの」

 

 灯りのない部屋に、少女の声が静かに響く。

 

「あなたのように、誰かのために走って。
 あなたのように、真っすぐで、優しくて、強くて……」

 

 声が震えた。

 

「……でも、私は、王女だったから。
 誰かを疑うことしか、許されなかった。
 信じる前に、証拠を見ろって。
 法のもとに生きろって。
 “信じてはいけない”って、何度も言われたの……」

 

 その声は、やがて呟きになっていく。

 誰に届かなくてもいい。ただ、言いたかった。

 

「でも、リナ……」

 

 リナが処刑される直前、あの広場で微笑んだこと。
 まひるの名を呼びながら、感謝を伝えたこと。

 あれは、決して憎んでいた者の顔じゃなかった。

 

「あなたを焼いたのは、王国でも民衆でもない。
 ──わたし、だった」

 

 リナを守れなかった。

 王女としての使命を選んだ。

 あのとき、“法”じゃなくて“信じる”を選べたら──。

 

 涙が、こぼれた。

 リナを想う夜、何度も泣いた。

 でも、こんなふうに、自分の罪を言葉にしたのは、初めてだった。

 

「……リナ、あなたが焼かれてた時、わたしも、ずっと炎のなかにいたんだよ」

 

 少女は、顔を伏せた。

 

「胸の奥で……ずっと、焦げ続けてた。
 誰にも言えないまま。
 笑って、声を上げて……でも、その声の裏側で、わたし……ずっと、泣いてたんだ」

 

 嗚咽。

 誰にも見せたことのない涙。

 あの誇り高き王女が、今、床にうずくまり、誰の目もないなかで、声を殺して泣いていた。

 

「……あなたに、教えたかったの」

 

 あのときのリナの言葉を、まひるはようやく受け取ったのだ。

 最後に見せた笑顔は、「赦し」だった。

 でも──本当に赦されるには、自分も焼かれなければならなかった。

 

「あなたが焼かれたあの日から、わたしもずっと……燃えてたの」

 

 心の奥で、罪の火が絶えずに燃え続けていた。

 

「でもね、リナ……今日、やっと、燃え尽きた気がする」

 

 それは、心の“火刑”。

 そして、やっと“灰”になれた瞬間。

 

「もう、あなたを“罪人”にはさせない」

 

 少女の手が、リナのリボンを抱きしめた。

 リボンはふわりと揺れて──まひるの手に吸い込まれるように、静かに落ち着いた。

 

「明日から、わたしがあなたの汚名を晴らす。
 あなたを裏切った、この国の嘘を……必ず、暴く」

 

 闇のなかで、ひとつだけ灯が生まれたようだった。

 それは、涙で濡れた少女の眼差し。

 

 まひるの瞳は、今──
 王女ではなく、“少女”としての決意に満ちていた。

 

 「あなたのための、国を作るよ。
 わたしの罪も、あなたの無念も……全部、終わらせてみせるから」

 

 それが、まひるにとっての“赦し”だった。

 

 ◆

 

 翌朝。

 王都は、リナの火刑の話でもちきりだった。

 だが、誰も知らない。

 あの火のなかで、もうひとりの少女も、静かに焼かれていたことを──

 

 そして、灰のなかから、
 新しい正義が生まれようとしていたことを。

 
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