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第1巻:小谷の姫と父の死
第16章:石の震え
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岐阜城の朝は、霧に閉ざされる。
裏庭の岩が朝露に濡れ、鈍く光る。
わしは一人、庭の隅に立つ。
小谷城の湖畔は遠く、父上の声は霧に溶ける。
――父上。わが目は、戦国の震えを捉え始めたり。
江がちっちゃな足音で駆け寄る。
「茶々! 初と一緒に遊ぼう! 石で何か作るぞ!」
その無垢な笑顔が、わが心を温める。
わしは江の手を取る。
「江、そなた、いつも元気だな。初はどこだ?」
初が岩の陰から現れる。
「茶々、そなた、遅いぞ! 江がそなたを待ってるのだ!」
わしは笑う。
「初、そなた、江を甘やかすな。されど、よし、何を築く?」
江が石を手に持ち、目を輝かせる。
「茶々、初、船だ! 湖を渡る船な!」
その言葉が、わが胸を刺す。
初が微笑む。
「江、そなた、夢が大きいな。茶々、そなた、積むぞ」
わしらは石を並べる。
江が笑い、初がそっと整える。
小さな船は、すぐに崩れる。
江がふくれ、初がくすくす笑う。
「茶々、そなた、下手だな。わしの方が上手いぞ」
わしは返す。
「初、そなた、口が達者だ。江、わしと再び作ろう」
この刹那、わしは妹たちと小谷城の湖畔にいる気がする。
だが、庭の向こうから響く声が、わが耳を捉える。
織田の家臣たちが、林佐渡守とひそひそ語らう。
「浅井の姫君たち、信長殿の姪とはいえ、長政の血は危うい。織田の基盤を揺らすやもしれぬ」
「黙れ! 信長殿の命だ。そなた、忠義を疑うか?」
わしは石を握り、爪が掌に食い込む。
――揺らすだと? わしらを何と思う?
江がわしにしがみつく。
「茶々、そなた、怖い顔だ……何だ、あれ?」
わしは江の頭を撫でる。
「江、心配するな。わしと初がそなたを守る」
初がわしを見る。
「茶々、そなた、あの者たちの言葉を聞いたな。どうする?」
わしは答える。
「初、わし、長女として、そなたと江を守る。恐れるな」
林がわしらに近づく。
「茶々殿、初殿、江殿。庭の石は、そなたらの試練を映すか?」
わしは林を見る。
「林殿、そなた、織田の家臣たちの不穏な声を聞いたか? わしらを疑う者、増えておるな」
林が岩に腰を下ろす。
「茶々殿、そなた、耳が鋭い。戦国の世は、忠義の裏に裏切りが震える。そなた、その震えをどう捉える?」
わしは息を呑む。
「震え? 林殿、そなた、信長殿の家臣として、何故わしに問う?」
林が静かに語る。
「茶々殿、某は信長殿に仕える。されど、戦国の目は、忠義を超える。そなたの父、長政殿は、織田と浅井の間で忠義と裏切りの震えを握った。そなた、その震えをどう感じる?」
わが心が波立つ。
――父上の震え。わし、未だその深さを知らぬ。
わしは答える。
「林殿、わし、初と江を守る。それがわが震えだ。されど、そなたの言う裏側、わしも見つける」
林が微笑む。
「よい答えだ、茶々殿。そなたの目は、戦国の石の震えを見抜くやもしれぬ。されど、急ぐな。岐阜の霧は、そなたを試す」
わしは石を握り、頷く。
――戦国の震え。わし、必ず見定める。
昼下がり、母上がわしらを呼ぶ。
「茶々、初、江。針仕事を覚えなされ。戦国の姫は、針も刃ぞ」
わしは針を手に持つ。
その小さな鉄が、指を刺す。
初が江に糸を渡し、笑う。
「茶々、そなた、針目が乱れてるぞ。わしの方が上手いな」
わしは笑う。
「初、そなた、口だけだ。江、そなたの針目を見せてみろ」
夜、部屋で、母上がわしらに語る。
「茶々、そなた、今日、何を学んだ?」
わしは答える。
「母上、わし、戦国の震えを見た。忠義と裏切りの刃を知った」
母上が目を細める。
「茶々、そなた、賢い。戦国の震えは冷たい。されど、そなたの心は、初と江で温めなされ」
初が江を抱き、眠る江の額に触れる。
「茶々、そなた、強くなったな。わし、そなたを頼るぞ」
わしは初の手を握る。
「初、そなたも強い。共に江を守ろう」
わしは目を閉じる。
小谷城の炎が、瞼の裏で揺れる。
父上の声が、遠く響く。
――茶々、鷹になれ。
わしは答える。
――父上。わし、目を開き、爪を鋭くし、震えを掴む。
裏庭の岩が朝露に濡れ、鈍く光る。
わしは一人、庭の隅に立つ。
小谷城の湖畔は遠く、父上の声は霧に溶ける。
――父上。わが目は、戦国の震えを捉え始めたり。
江がちっちゃな足音で駆け寄る。
「茶々! 初と一緒に遊ぼう! 石で何か作るぞ!」
その無垢な笑顔が、わが心を温める。
わしは江の手を取る。
「江、そなた、いつも元気だな。初はどこだ?」
初が岩の陰から現れる。
「茶々、そなた、遅いぞ! 江がそなたを待ってるのだ!」
わしは笑う。
「初、そなた、江を甘やかすな。されど、よし、何を築く?」
江が石を手に持ち、目を輝かせる。
「茶々、初、船だ! 湖を渡る船な!」
その言葉が、わが胸を刺す。
初が微笑む。
「江、そなた、夢が大きいな。茶々、そなた、積むぞ」
わしらは石を並べる。
江が笑い、初がそっと整える。
小さな船は、すぐに崩れる。
江がふくれ、初がくすくす笑う。
「茶々、そなた、下手だな。わしの方が上手いぞ」
わしは返す。
「初、そなた、口が達者だ。江、わしと再び作ろう」
この刹那、わしは妹たちと小谷城の湖畔にいる気がする。
だが、庭の向こうから響く声が、わが耳を捉える。
織田の家臣たちが、林佐渡守とひそひそ語らう。
「浅井の姫君たち、信長殿の姪とはいえ、長政の血は危うい。織田の基盤を揺らすやもしれぬ」
「黙れ! 信長殿の命だ。そなた、忠義を疑うか?」
わしは石を握り、爪が掌に食い込む。
――揺らすだと? わしらを何と思う?
江がわしにしがみつく。
「茶々、そなた、怖い顔だ……何だ、あれ?」
わしは江の頭を撫でる。
「江、心配するな。わしと初がそなたを守る」
初がわしを見る。
「茶々、そなた、あの者たちの言葉を聞いたな。どうする?」
わしは答える。
「初、わし、長女として、そなたと江を守る。恐れるな」
林がわしらに近づく。
「茶々殿、初殿、江殿。庭の石は、そなたらの試練を映すか?」
わしは林を見る。
「林殿、そなた、織田の家臣たちの不穏な声を聞いたか? わしらを疑う者、増えておるな」
林が岩に腰を下ろす。
「茶々殿、そなた、耳が鋭い。戦国の世は、忠義の裏に裏切りが震える。そなた、その震えをどう捉える?」
わしは息を呑む。
「震え? 林殿、そなた、信長殿の家臣として、何故わしに問う?」
林が静かに語る。
「茶々殿、某は信長殿に仕える。されど、戦国の目は、忠義を超える。そなたの父、長政殿は、織田と浅井の間で忠義と裏切りの震えを握った。そなた、その震えをどう感じる?」
わが心が波立つ。
――父上の震え。わし、未だその深さを知らぬ。
わしは答える。
「林殿、わし、初と江を守る。それがわが震えだ。されど、そなたの言う裏側、わしも見つける」
林が微笑む。
「よい答えだ、茶々殿。そなたの目は、戦国の石の震えを見抜くやもしれぬ。されど、急ぐな。岐阜の霧は、そなたを試す」
わしは石を握り、頷く。
――戦国の震え。わし、必ず見定める。
昼下がり、母上がわしらを呼ぶ。
「茶々、初、江。針仕事を覚えなされ。戦国の姫は、針も刃ぞ」
わしは針を手に持つ。
その小さな鉄が、指を刺す。
初が江に糸を渡し、笑う。
「茶々、そなた、針目が乱れてるぞ。わしの方が上手いな」
わしは笑う。
「初、そなた、口だけだ。江、そなたの針目を見せてみろ」
夜、部屋で、母上がわしらに語る。
「茶々、そなた、今日、何を学んだ?」
わしは答える。
「母上、わし、戦国の震えを見た。忠義と裏切りの刃を知った」
母上が目を細める。
「茶々、そなた、賢い。戦国の震えは冷たい。されど、そなたの心は、初と江で温めなされ」
初が江を抱き、眠る江の額に触れる。
「茶々、そなた、強くなったな。わし、そなたを頼るぞ」
わしは初の手を握る。
「初、そなたも強い。共に江を守ろう」
わしは目を閉じる。
小谷城の炎が、瞼の裏で揺れる。
父上の声が、遠く響く。
――茶々、鷹になれ。
わしは答える。
――父上。わし、目を開き、爪を鋭くし、震えを掴む。
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