『茶々の乱華 ~戦国の姫、愛と野望の果てに~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第2巻:信長の影と三姉妹

第2章:籠の風

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岐阜城の昼は、雲に覆われる。
 裏庭の岩が陽光に鈍く光り、雑草が風にそよぐ。
 わしは初と江を連れ、庭の隅に立つ。
 小谷城の湖畔は遠く、父上の笑顔は雲に閉ざされる。
 ――父上。わが翼は、この籠で鍛えられる。  
 江がちっちゃな手で石を拾う。
「茶々! 初! これで何か作ろう!」
 その笑顔が、わが心を温める。
 わしは江の頭を撫でる。
「江、そなた、元気だな。何を築く?」
 初が笑う。
「茶々、そなた、江を甘やかすな。されど、よし、積もう」  
 江が目を輝かせる。
「家だ! 小谷城の家な!」
 その言葉が、わが胸を刺す。
 初が一瞬、目を伏せる。
「江、うむ、家だな。茶々、そなた、積むぞ」
 わしらは石を並べる。
 江が笑い、初がそっと整える。
 小さな家は、すぐに崩れる。  
 江がふくれ、初がくすくす笑う。
「茶々、そなた、下手だな。わしの方が上手いぞ」
 わしは返す。
「初、そなた、口が達者だ。江、わしと再び作ろう」
 わしは石を手に持つ。
 そのざらついた感触が、岐阜の冷たさを思い起こす。
 ――この城は、籠だ。信長殿の影が、わしらを縛る。  
 母上が庭に現れる。
「茶々、初、江。そなたら、楽しげだな。されど、針仕事の時ぞ」
 わしは頷く。
「母上、すぐに参る。初、江、行くぞ」
 江が母上の膝に飛び込む。
「母上! 茶々と初と家を作った! 楽しかったぞ!」
 母上が微笑む。
「江、そなた、元気だな。茶々、長女として、妹たちを導け」  
 部屋に戻り、母上が針を手に持つ。
「茶々、初、針は心を映す。そなたら、乱さぬようにな」
 わしは針を握る。
 その小さな鉄が、指を刺す。
 初が江に糸を渡し、笑う。
「茶々、そなた、針目が乱れてるぞ。わしの方が上手いな」
 わしは笑う。
「初、そなた、口だけだ。江、そなたの針目を見せてみろ」  
 夕刻、織田の家臣が廊下を通る。
 その声が、扉越しに漏れる。
「浅井の姫君たち、信長殿の姪とはいえ、長政の血だ。いつか織田に刃を向けるやもしれぬ」
 わしは針を止める。
 ――刃だと? わしらを何と思う?
 初がわしを見る。
「茶々、そなた、聞いたな。怖かったか?」
 わしは首を振る。
「初、怖などない。長女として、そなたと江を守る」  
 その時、林佐渡守が部屋の外に現れる。
「茶々殿、初殿、江殿。針仕事か。戦国の姫らしい姿だな」
 わしは林を見る。
「林殿、そなた、織田の家臣の声を聞いたか? わしらを疑う者もおる」
 林が静かに頷く。
「茶々殿、そなた、耳が鋭い。戦国の世は、味方の声にも疑いが宿る。そなた、その声をどう捉える?」  
 わしは息を呑む。
「林殿、そなた、信長殿の家臣として、何故わしに問う?」
 林が目を細める。
「茶々殿、某はそなたに、戦国の真実を見せたい。そなたの父、長政殿は、織田と浅井の間で戦った。そなた、長女として、初殿、江殿を守る。その戦いをどう刻む?」
 わが心が波立つ。
   ――父上の戦い。わし、未だその答えを持たぬ。  
 わしは答える。
「林殿、わし、初と江を守る。それがわが戦いだ。されど、そなたの言う真実、わしも見つける」
 林が微笑む。
「よい答えだ、茶々殿。そなたの目は、戦国の籠を破るやもしれぬ」
 わしは�点头。
   ――戦国の真実。わし、必ず見定める。  
 夜、母上がわしらに語る。
「茶々、そなた、今日、何を学んだ?」
 わしは答える。
「母上、わし、戦国の声を学んだ。されど、初と江を守る心は変わらぬ」
 母上が微笑む。
「茶々、そなた、賢い。戦国の声は冷たい。そなたの心は、初と江で温めなされ」  
 初が江を抱き、眠る江の髪を撫でる。
「茶々、そなた、強くなったな。わし、そなたを頼るぞ」
 わしは初の手を握る。
「初、そなたも強い。共に江を守ろう」
 わしは目を閉じる。
 小谷城の炎が、瞼の裏で揺れる。
 父上の声が、遠く響く。
 ――茶々、鷹になれ。
 わしは答える。
 ――父上。わし、目を開き、翼を広げ、籠を破る。  

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