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第3巻:本能寺の焔と新たな道
第5章:北の暮らし
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北ノ庄城の朝は、雪に閉ざされる。
石垣が冷たくそびえ、風が雪塵を舞わせる。
わしは小さな部屋の窓に凭れ、雪に覆われた庭を見つめる。
小谷城の湖畔は遠く、父上の笑顔は雪に閉ざされる。
――父上。わが翼は、北の暮らしを飛び始めたり。
初が江を連れ、ちっちゃな足音で現れる。
「茶々、そなた、いつも遠くを見てるな。江と何かしよう!」
その声は明るいが、微かな不安を帯びる。
江がわしに駆け寄り、膝に凭れる。
「茶々! 雪で何か作ろう! 初もな!」
わしは江の頭を撫でる。
「江、そなた、元気だな。よし、雪を積もう」
裏庭に出る。
雪が足元で軋み、冷気が頬を刺す。
江が雪を丸め、初がそっと整える。
「茶々、初、城を作ろう! 北ノ庄の城な!」
その言葉が、わが胸をざわつかせる。
初がわしに囁く。
「茶々、そなた、この城、慣れたか? わし、柴田勝家殿が怖いな」
わしは初の肩を抱く。
「初、恐れるな。長女として、わし、そなたらを守る」
母上が庭に現れる。
「茶々、初、江。そなたら、北ノ庄の雪を楽しむか。されど、勝家殿がお呼びだ」
わしは頷く。
「母上、すぐに参る。初、江、行くぞ」
江が母上の膝に飛び込む。
「母上! 茶々と初と雪の城を作った! 楽しいぞ!」
母上が微笑む。
「江、そなた、元気だな。茶々、長女として、妹たちを導け」
広間に通される。
柴田勝家が厳かに座す。
その瞳は鋭く、甲冑の響きが重い。
「市、娘たち、北ノ庄の暮らしに慣れたか?」
母上が答える。
「勝家殿、そなたの庇護に感謝仕る。娘らは気高く育つ」
柴田勝家がわしを見る。
「茶々、そなた、北の雪をどう思う?」
わしは答える。
「柴田殿、北の雪は冷たい。されど、初と江がおれば、わしは耐えられる」
柴田勝家が頷く。
「ほう、長政の娘らしい答えだ。戦国の世は冷たい。そなたら、気高く生きよ」
わが胸がざわつく。
――この男、母上の夫。信長殿とは違う。されど、戦国の刃だ。
夕刻、北ノ庄城の庭で、林佐渡守が現れる。
「茶々殿、初殿、江殿。北の暮らし、そなたらの心を試すか?」
わしは林を見る。
「林殿、そなた、柴田勝家殿の北ノ庄をどう見る? 秀吉殿との対立は近づくか?」
林が静かに語る。
「茶々殿、そなた、目が鋭い。柴田殿は織田の柱。されど、秀吉殿の影が伸びる。そなたの父、長政殿は、織田と浅井の間で戦った。そなた、その暮らしをどう刻む?」
わが心が波立つ。
――柴田勝家。秀吉殿。父上の戦い。わし、未だその答えを持たぬ。
わしは答える。
「林殿、わし、初と江を守る。それがわが暮らしだ。されど、そなたの言う試練、わしも見定める」
林が微笑む。
「よい答えだ、茶々殿。そなたの目は、戦国の籠を破るやもしれぬ」
夜、部屋で、母上がわしらに語る。
「茶々、そなた、今日、何を学んだ?」
わしは答える。
「母上、わし、北の暮らしを学んだ。されど、初と江を守る心は変わらぬ」
母上が微笑む。
「茶々、そなた、賢い。北の暮らしは冷たい。そなたの心は、初と江で温めなされ」
初が江を抱き、眠る江の髪を撫でる。
「茶々、そなた、強くなったな。わし、そなたを頼るぞ」
わしは初の手を握る。
「初、そなたも強い。共に江を守ろう」
わしは目を閉じる。
小谷城の炎が、瞼の裏で揺れる。
父上の声が、遠く響く。
――茶々、鷹になれ。
わしは答える。
――父上。わし、目を開き、翼を広げ、試練を越える。
石垣が冷たくそびえ、風が雪塵を舞わせる。
わしは小さな部屋の窓に凭れ、雪に覆われた庭を見つめる。
小谷城の湖畔は遠く、父上の笑顔は雪に閉ざされる。
――父上。わが翼は、北の暮らしを飛び始めたり。
初が江を連れ、ちっちゃな足音で現れる。
「茶々、そなた、いつも遠くを見てるな。江と何かしよう!」
その声は明るいが、微かな不安を帯びる。
江がわしに駆け寄り、膝に凭れる。
「茶々! 雪で何か作ろう! 初もな!」
わしは江の頭を撫でる。
「江、そなた、元気だな。よし、雪を積もう」
裏庭に出る。
雪が足元で軋み、冷気が頬を刺す。
江が雪を丸め、初がそっと整える。
「茶々、初、城を作ろう! 北ノ庄の城な!」
その言葉が、わが胸をざわつかせる。
初がわしに囁く。
「茶々、そなた、この城、慣れたか? わし、柴田勝家殿が怖いな」
わしは初の肩を抱く。
「初、恐れるな。長女として、わし、そなたらを守る」
母上が庭に現れる。
「茶々、初、江。そなたら、北ノ庄の雪を楽しむか。されど、勝家殿がお呼びだ」
わしは頷く。
「母上、すぐに参る。初、江、行くぞ」
江が母上の膝に飛び込む。
「母上! 茶々と初と雪の城を作った! 楽しいぞ!」
母上が微笑む。
「江、そなた、元気だな。茶々、長女として、妹たちを導け」
広間に通される。
柴田勝家が厳かに座す。
その瞳は鋭く、甲冑の響きが重い。
「市、娘たち、北ノ庄の暮らしに慣れたか?」
母上が答える。
「勝家殿、そなたの庇護に感謝仕る。娘らは気高く育つ」
柴田勝家がわしを見る。
「茶々、そなた、北の雪をどう思う?」
わしは答える。
「柴田殿、北の雪は冷たい。されど、初と江がおれば、わしは耐えられる」
柴田勝家が頷く。
「ほう、長政の娘らしい答えだ。戦国の世は冷たい。そなたら、気高く生きよ」
わが胸がざわつく。
――この男、母上の夫。信長殿とは違う。されど、戦国の刃だ。
夕刻、北ノ庄城の庭で、林佐渡守が現れる。
「茶々殿、初殿、江殿。北の暮らし、そなたらの心を試すか?」
わしは林を見る。
「林殿、そなた、柴田勝家殿の北ノ庄をどう見る? 秀吉殿との対立は近づくか?」
林が静かに語る。
「茶々殿、そなた、目が鋭い。柴田殿は織田の柱。されど、秀吉殿の影が伸びる。そなたの父、長政殿は、織田と浅井の間で戦った。そなた、その暮らしをどう刻む?」
わが心が波立つ。
――柴田勝家。秀吉殿。父上の戦い。わし、未だその答えを持たぬ。
わしは答える。
「林殿、わし、初と江を守る。それがわが暮らしだ。されど、そなたの言う試練、わしも見定める」
林が微笑む。
「よい答えだ、茶々殿。そなたの目は、戦国の籠を破るやもしれぬ」
夜、部屋で、母上がわしらに語る。
「茶々、そなた、今日、何を学んだ?」
わしは答える。
「母上、わし、北の暮らしを学んだ。されど、初と江を守る心は変わらぬ」
母上が微笑む。
「茶々、そなた、賢い。北の暮らしは冷たい。そなたの心は、初と江で温めなされ」
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わしは初の手を握る。
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