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第15章『『嫁たちの政略改革──天下布風(ふふう)構想と、正妻維新!』
第144話『おしのの決起──“真ん中に入りたいだけなんです”宣言』
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──時は天正五年、初夏。
岐阜城下に吹く風が、どこか熱を帯びていたのは、気候のせいばかりではあるまい。
「お前ら、ちと騒ぎすぎやないか……?」
秀吉は、頭に手ぬぐいを載せたまま、ぐしゃりと髪を掻いた。
障子一枚の向こうでは、またもや女房衆たちが激論を交わしている。
つい先日、信長の命により“側室昇格会議”と称した地獄のようなプレゼン合戦が終わったばかりだというのに。
「──殿下の膝枕時間、毎週何分ずつかって話になってんのやぞ。あほらし」
畳に寝転んだ秀吉の耳に届いたのは、次第に白熱する女子たちの声。
ねね、おしの、千鶴、そして珠子──いずれも気が強く、そして“殿下を愛する”という一点においては一歩も引かぬ者ばかり。
「よいか? ねね殿が正妻なのは揺るがぬこと。ならば、それ以下に甘んじる者も──」
「誰が甘んじてる言うた? わたしら、等しく殿下を支えとるんや!」
まるで戦場である。
女たちの声に、秀吉は思わず耳を塞いだ。が──
次の瞬間。
その騒乱に、割って入るように──ひときわ通る声が響いた。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってぇぇぇ!」
声の主は、おしのだった。
普段は静かに他の三人に譲ることが多い彼女が、今夜ばかりは違っていた。
「わたし……わたしは、誰の上とか下とか、どうでもええんです!」
ぱしんっ、と障子が開かれる。
中から飛び出してきたおしのは、目元を赤くしていた。
「わたしな……ずっと考えてたんです。うち、正妻にもなれへんし、家柄もあらへんし……。でも、殿下のいちばん近くにおりたい。隣にいたい。あったかい腕に、時々甘えたい。それだけなんやって!」
「……お、おしの……?」
ねねが、息を呑んだ。
珠子も千鶴も、普段から冷静沈着なおしのの突然の感情爆発に目を見張る。
「そやからな! 正室でも側室でも、順位でもなく……わたしは、“真ん中”に入りたいねん!」
おしのはそのまま、勢いよく畳に両膝をつき、頭をぺたんと下げた。
「お願いや……誰の代わりになんてならへん。でも、うちは殿下の“ぬくもりのど真ん中”に居たいだけなんや……!」
その言葉に、室内の空気が、一瞬だけ──凪いだ。
が。
次の瞬間。
「……ずるいで、それは……!」
千鶴が泣きそうな声で唇を噛んだ。
「うちかて、そう思てた! でも言われへんかっただけや!」
「わ、わたしも……っ! わたしも、あの夜……殿下の寝息を聞いてて、ほんまに……!」
珠子も目元を潤ませ、ねねは俯いたまま、小さく言った。
「──おしの、うちはな、あんたのそういうところ、好きやで」
言葉とともに、ねねが立ち上がる。
「……ほな、今宵は決戦やな」
その目には、かすかに、熱を帯びた光。
「風呂場、開けたるわ。うちら、まずは裸になって、ぜんぶさらけ出して──その上で、戦おか」
つまりは、再び風呂合戦である。
「えっ!? い、今からですか!? わ、わたし、まだ髪結い直してなく……」
「言うたの、お前やろが!」
わいのわいのと、女たちは騒ぎながら風呂場へと向かっていく。
残された秀吉は、ただひとり。
「……なんでこうなるんや。なんでや……」
呆れと嬉しさと、ちょっぴりの恐怖を混ぜたような声でつぶやいたその耳にも、すでに風呂場の湯をくぐる声が聞こえ始めていた。
「ねね、それわたしの桶や!」
「千鶴、背中流したるさかい、先に洗い場来ぃや!」
「珠子、……う、うちの下着、それやなくて……っ!」
もう、完全に戦場だ。
だが、女たちの“戦”は、たしかに一つの形をなしていた。
好きという気持ちは、いつも不器用で、正面から語るには照れくさくて──
けれど、肌と肌を寄せた時、言葉以上に伝わるものがある。
「ほんま……天下取る前に、風呂合戦に命取られそうやわ……」
ぼそりと呟いた秀吉の背後。
障子の向こうから、今度は四人が仲良く湯けむりの中で笑う声が──。
「せやけど、殿下って……夢精、何回くらいしてるんやろなぁ~?」
「やめろぉぉぉ!」
その絶叫は、夜の岐阜の空に、実によく響いた。
(つづく)
岐阜城下に吹く風が、どこか熱を帯びていたのは、気候のせいばかりではあるまい。
「お前ら、ちと騒ぎすぎやないか……?」
秀吉は、頭に手ぬぐいを載せたまま、ぐしゃりと髪を掻いた。
障子一枚の向こうでは、またもや女房衆たちが激論を交わしている。
つい先日、信長の命により“側室昇格会議”と称した地獄のようなプレゼン合戦が終わったばかりだというのに。
「──殿下の膝枕時間、毎週何分ずつかって話になってんのやぞ。あほらし」
畳に寝転んだ秀吉の耳に届いたのは、次第に白熱する女子たちの声。
ねね、おしの、千鶴、そして珠子──いずれも気が強く、そして“殿下を愛する”という一点においては一歩も引かぬ者ばかり。
「よいか? ねね殿が正妻なのは揺るがぬこと。ならば、それ以下に甘んじる者も──」
「誰が甘んじてる言うた? わたしら、等しく殿下を支えとるんや!」
まるで戦場である。
女たちの声に、秀吉は思わず耳を塞いだ。が──
次の瞬間。
その騒乱に、割って入るように──ひときわ通る声が響いた。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってぇぇぇ!」
声の主は、おしのだった。
普段は静かに他の三人に譲ることが多い彼女が、今夜ばかりは違っていた。
「わたし……わたしは、誰の上とか下とか、どうでもええんです!」
ぱしんっ、と障子が開かれる。
中から飛び出してきたおしのは、目元を赤くしていた。
「わたしな……ずっと考えてたんです。うち、正妻にもなれへんし、家柄もあらへんし……。でも、殿下のいちばん近くにおりたい。隣にいたい。あったかい腕に、時々甘えたい。それだけなんやって!」
「……お、おしの……?」
ねねが、息を呑んだ。
珠子も千鶴も、普段から冷静沈着なおしのの突然の感情爆発に目を見張る。
「そやからな! 正室でも側室でも、順位でもなく……わたしは、“真ん中”に入りたいねん!」
おしのはそのまま、勢いよく畳に両膝をつき、頭をぺたんと下げた。
「お願いや……誰の代わりになんてならへん。でも、うちは殿下の“ぬくもりのど真ん中”に居たいだけなんや……!」
その言葉に、室内の空気が、一瞬だけ──凪いだ。
が。
次の瞬間。
「……ずるいで、それは……!」
千鶴が泣きそうな声で唇を噛んだ。
「うちかて、そう思てた! でも言われへんかっただけや!」
「わ、わたしも……っ! わたしも、あの夜……殿下の寝息を聞いてて、ほんまに……!」
珠子も目元を潤ませ、ねねは俯いたまま、小さく言った。
「──おしの、うちはな、あんたのそういうところ、好きやで」
言葉とともに、ねねが立ち上がる。
「……ほな、今宵は決戦やな」
その目には、かすかに、熱を帯びた光。
「風呂場、開けたるわ。うちら、まずは裸になって、ぜんぶさらけ出して──その上で、戦おか」
つまりは、再び風呂合戦である。
「えっ!? い、今からですか!? わ、わたし、まだ髪結い直してなく……」
「言うたの、お前やろが!」
わいのわいのと、女たちは騒ぎながら風呂場へと向かっていく。
残された秀吉は、ただひとり。
「……なんでこうなるんや。なんでや……」
呆れと嬉しさと、ちょっぴりの恐怖を混ぜたような声でつぶやいたその耳にも、すでに風呂場の湯をくぐる声が聞こえ始めていた。
「ねね、それわたしの桶や!」
「千鶴、背中流したるさかい、先に洗い場来ぃや!」
「珠子、……う、うちの下着、それやなくて……っ!」
もう、完全に戦場だ。
だが、女たちの“戦”は、たしかに一つの形をなしていた。
好きという気持ちは、いつも不器用で、正面から語るには照れくさくて──
けれど、肌と肌を寄せた時、言葉以上に伝わるものがある。
「ほんま……天下取る前に、風呂合戦に命取られそうやわ……」
ぼそりと呟いた秀吉の背後。
障子の向こうから、今度は四人が仲良く湯けむりの中で笑う声が──。
「せやけど、殿下って……夢精、何回くらいしてるんやろなぁ~?」
「やめろぉぉぉ!」
その絶叫は、夜の岐阜の空に、実によく響いた。
(つづく)
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