織田信長の姪ーprincess cha-chaー悪役令嬢?炎の呪縛と復讐の姫 

本能寺から始める常陸之介寛浩

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④①話 岐阜への帰還

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 天正2年10月初旬



「姉上様、守山城の暮らしは短かったですね」

   

 私はお初にそう呟いた。



 大叔父・織田孫十郎信次の死の報せが届いた翌日、私たちは岐阜城に戻ることがすぐに決まった。



 守山城の城門が閉ざされ、嵐が過ぎ去った後も、重苦しい空気が漂っていたが、その決定はあまりにも迅速だった。



 まるで、私たちがここに留まる理由がなくなったかのように。  



「田舎よりやはり岐阜城ですよね、姉上様」

   

 お初が明るい声で言った。



 彼女の瞳には、新しい場所への期待が光っていた。



 正直、私にとって守山城は何の未練もない。



 それどころか、つまらない城、つまらない町だったと感じていた。



 狭い部屋、監視の目、自由のない日々。



 宇津呂が死に、私の復讐心を燃やすきっかけを残して去った以外、ここには何もなかった。



 だから、岐阜城に戻ることになったのは嬉しいはずなのに、なぜか喜べなかった。



 胸の奥に、冷たい塊のようなものが沈んでいる。  



「姉上様、うれしくないのですか?」  



 お初が首を傾げて私を見上げた。



 その無垢な瞳に、私は一瞬言葉に詰まった。  



「うれしいわよ」

   

 私はつっけんどんに言い放った。



 本当はそう思えなかったが、彼女を不安がらせるわけにはいかない。



 お初は少し驚いた顔をした後、  



「変な姉上様」  



 とムッとふくれっ面を見せ、自分の遊具を大切に長持に入れ始めた。



 小さな木馬や毬を手に持つその姿は、幼いながらも彼女なりの旅支度だった。



 私はそんなお初を横目に、さつきに荷造りを任せた。



 そして、廊下に出て、宇津呂が死んだ中庭を眺めた。



 雨は止んでいたが、地面はまだ濡れ、風が冷たく頬を撫でた。



 あの夜の血と雨の記憶が、目の前に蘇る。  

  

 小太郎がじっと私を見張っていた。



 彼はいつものように私の側に立ち、鋭い目で私の動きを追っている。



 その視線が、私の背中に突き刺さるようだった。  



「小太郎、どこにも行きませんから」  



 私は苛立ちを抑えて言った。



 彼の監視が、私の自由を奪う足枷だ。  



「姫の側に居るのが私の役目ですから」

   

 小太郎の声は平坦で、感情が読み取れない。



 私は小さくため息をついた。  



「そう・・・・・・。あっ、宇津呂はどこに埋葬しました? 守山を離れる前に墓を参っておきたいわ」 

  

 その言葉が口をついて出た瞬間、小太郎の表情が微かに変わった。



 彼は一瞬目を逸らし、口ごもった。  



「姫様・・・・・・墓は・・・・・・」  



「どうしました?」  



 私は目を細めて彼を見た。



 その躊躇に、何か隠している気配を感じた。  



「あっ、いや、墓は・・・・・・」

   

「言えないのですか?」  



 私の声が鋭くなった。



 宇津呂の死が、私の中でまだ終わっていない。



 彼が浅井のために戦い、命を落としたその場所を、この目で確かめたかった。



 小太郎は目を泳がせながら、ようやく口を開いた。  



「姫様がおいでになるような場所ではございません。人里離れた寺に・・・・・・一向宗に繋がりある者、上様の耳に入ってはいけないので」

   

 その言葉に、私は息を呑んだ。



 彼の声には、恐怖と忠義が混じっていた。



 確かに、伯父・織田信長が長島一向一揆攻めで織田一族を蹴散らすきっかけとなった者の墓があると知れたら、どうなるか。



 信長の怒りは計り知れない。



 そして、その背後にいた人物を探し出すだろう。



 めぐりめぐって、私に辿り着いたとき、私だけではない。



 母上様、お初、お江、そして小太郎にも罰が下されるかもしれない。



 その恐ろしさを考えると、小太郎にそれ以上聞くのは酷なことだった。



 私は唇を噛み、墓参りを諦めるしかなかった。



 宇津呂の最期を悼む場所さえ、私には許されない。  



 私たちはそれからすぐ、岐阜城からの迎えの軍に警護されながら守山から岐阜城に引っ越しをした。



 長島一向一揆の残党の襲撃がないようにと、伯父・織田信長が手配した軍だった。



 馬の嘶きと甲冑の擦れる音が響き、軍勢は私たちの輿を囲むように進んだ。



 その厳重さに、私は一瞬たじろいだ。  



「母上様、ここまでの警護必要なのでしょうか?」  



 私は輿の中で母上様に尋ねた。



 彼女は静かに外を眺めていたが、私の声に顔を向けた。  



「兄上は冷酷無慈悲、しかしながら自分の味方である親族を重んじます。私はそれに値するのでしょう」

   

 母上様の声は穏やかだったが、その裏に隠された冷たさが私を刺した。



 信長の妹として、彼女はその庇護を受けている。



 だが、私はどうだ?



 浅井の娘として、信長を憎む心が消えることはない。  



「そうですか・・・・・・」  



 私は小さく呟き、目を伏せた。



 母上様の言葉が、私の胸をざわつかせた。  



「茶々、私たちは織田家をうちから引っかき回す力があることを学びなさい」 

  

 道中の休憩時に、母上様がボソリと言った言葉が、私の耳に突き刺さった。



 私は一瞬、息を止めた。



 彼女は私がしていたことを知っているのか?



 宇津呂に情報を渡し、大叔父の死に繋がったことを。



 その可能性が、私の頭をよぎった。



 母上様の瞳は、私を見透かすように鋭かった。



 だが、彼女は何も言わず、再び輿に乗り込んだ。



 私は一人、輿の中で考えることしかできなかった。  



 岐阜城への道中、私は窓の外を眺めた。



 秋の風に揺れる木々が、守山城の記憶を遠くに押しやるようだった。



 だが、宇津呂の顔が頭から離れない。



 彼の最期の言葉、「亡き殿に許されるでしょうか・・・・・・」



 彼は浅井のために命を捧げた。



 そして、私の何気ない言葉がその一端を担った。



 その事実は、私の胸を締め付け、信長への復讐心をさらに深く根付かせた。



 母上様の言葉が、頭の中で反響する。



「織田家をうちから引っかき回す力」



 彼女は、私が信長に刃を向けることを許しているのか?



 それとも、私を利用して何かを企んでいるのか?



 その答えはわからない。



 だが、岐阜城に戻るこの道が、私の新たな戦いの始まりだと感じていた。



 宇津呂が果たせなかった信長の首を取る夢を、私が引き継ぐべきなのかもしれない。



 その決意が、静かに、だが確実に燃え続けていた。  
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