前代未聞のトイレ異世界転移ファンタジー～うちのトイレは異次元でした。街中は勘弁してください。いや、そこもちょっと！～

第164話：温泉旅館で妹の闇が炸裂!? もう限界だよ！

　俺の名前は佐藤太一、１８歳。
　コンビニ飯が大好きで、それが原因で腹を壊しがちな、ごく普通の高校生だ……と言えたらどんなに楽か。
　でも俺の日常は、引っ越し先のアパートに備え付けられた曰く付きトイレのせいで、完全にカオスと化してる。  
　トイレのドアを開けた瞬間、どこか知らない場所に便器ごと転移して、用を足さないと戻れない仕様。
　もう何回目か分からないけど、毎回メンタルが削られる。
　このトイレ、俺の状況とか感情とか完全に無視して転移先決めるっぽいし、引っ越した当初は「駅近で家賃安い、ラッキー！」なんて浮かれてた自分が恨めしい。  
　昨日は肛門内科で触診中に彩花、美月、美咲に囲まれて、気まずさと恐怖で死にそうになった。
　その前は製鉄工場で灼熱に耐えたし、毎回毎回が試練だ。
　なのに、今日もまた腹がゴロゴロ鳴ってる。
　原因は昨夜のコンビニ飯だ。
　半額だった「激辛坦々麺風おにぎり」を勢いで食っちまって、胃が今朝から暴動起こしてる。
　坦々のゴマと唐辛子の辛さが胃の中で混ざって、ヤバい感じになってる。  
　朝から我慢してたけど、学校から帰った夕方に限界が来た。
　仕方なくトイレに駆け込んだら、ドアを開けた瞬間――
　湯気と硫黄の匂いが鼻をついた。
　目の前には露天風呂が広がってて、木造の温泉旅館っぽい雰囲気。
　俺の便器は、熱々の温泉のど真ん中にポツンと浮かんで出現。  
「うおっ、温泉!? 旅館の露天風呂かよ！」  
　周りには岩が配置されてて、湯船から湯気がモクモク上がってる。
　遠くで「気持ちいいねぇ」ってオッサンの声が聞こえてくるけど、近くには誰もいない……と思ったら、湯船の端っこで聞き覚えのある声が響いた。  
「我が闇の力が目覚める時が来た……温泉の力を吸収し、世界を支配するのだ！」  
　中二病全開の声。
　佐藤遥だ。
　俺の妹で、いつも「闇の力」とか「封印された魔王」とか訳わからんこと叫んでる奴。
　今は温泉に浸かりながら、タオルを頭に乗せて何かポーズ取ってる。  
「遥!? お前何でここに!?」  
「愚かな兄よ、この聖なる湯は我が力を増幅する触媒なのだ！ お前如きに理解できるはずもないがな！」
　遥がドヤ顔で湯船から立ち上がって、腕を広げてる。
　いや、お前ただの温泉好きだろ！  
「いやいや、落ち着け俺。『俺からは見えてるけど、向こうからは見えない』がルールだろ？」  
　そう自分に言い聞かせて、深呼吸する。
　でも腹痛は待ってくれない。
　坦々麺の辛さが下腹部をギュルギュル締め付けてきて、冷や汗が止まらない。
　温泉の熱さと湯気が俺を包んで、便器に座ってるだけで汗だくになってる。  
　その時、別の声が割り込んできた。
「太一くん、大丈夫？ またお腹痛いんでしょ？」
　明るくて癒し系の声。
　山本彩花だ。
　湯船の反対側からタオル巻いて近づいてくる。
　何で彩花までここに!?  
「彩花!? お前もかよ！」  
「え、太一くんがトイレ入った後、心配で様子見に来ただけだよ？ でも温泉気持ちいいね！」
　彩花がニコッと笑って、湯船に足を浸けてる。
　いや、俺は便器に浮かんでるんだよ！  
　さらに別の声。
「太一、温泉でリラックスすればお腹も落ち着くよ？」
　穏やかで親しみやすい口調。
　山本美月だ。
　タオルで髪をまとめて、彩花の隣に座ってる。  
「美月まで!? 何でみんなここに集まるんだよ！」  
　すると、湯気の奥から低い声が響く。
「太一……私がいるのに、他の女と温泉で楽しむなんて……許さないよ？」
　佐々木美咲だ。
　ヤンデレ全開で、湯船からじっとこっちを見つめてる。
　目がギラギラ光ってて怖すぎる！  
「美咲!? お前まで出てくるとか、カオスすぎるって！」  
　混乱してる俺の横で、遥が「闇の使徒たちよ、我が前に跪け！」って叫んで湯船に飛び込んでる。
　水しぶきがバシャッと上がって、彩花が「きゃっ、楽しい！」って笑ってる。
　美月が「遥ちゃん、元気だね」って微笑んで、美咲が「太一は私だけでいいよね？」って迫ってくる。
　温泉の湯気がモクモクしてる中、俺の便器がプカプカ浮かんでるって何だこの状況！  
「集中しろ、集中しろ、集中しろ！ 早く終わらせないと精神持たねえ！」  
　腹に全神経を集中させる。
　おっ、おっ、おっ、なんとか出そう……よし、気合入れろ！
　ブッ。  
「……うっ、音が温泉に響いた！」  
　遥が「何だ、この異音は!? 闇の魔獣の咆哮か!?」って立ち上がってポーズ取ってる。
　彩花が「え、太一くん、これって……？」って目を丸くして、美月が「まさかね……」って苦笑い。
　美咲が「太一の全てを受け入れるよ……」って目を潤ませてる。
　見えてないはずなのに、みんなの反応がリアルすぎて羞恥心が爆発だよ！  
　ポチャン。  
「よっしゃ、出た！ 終わった！」  
「ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」  
　光に包まれてアパートのトイレに戻った瞬間、便器の冷たい感触と換気扇の微かな音にホッとする。
　心臓バクバクで息を整えながら、俺は便器に座ったまま放心状態。  
「本当に何でこんなトイレ付きの部屋に住んじまったんだろ……」  
　汗だくで呟く。
　温泉で遥の中二病と仲間たちに囲まれて用を足すとか、俺の人生終わってるだろ。
　彩花の優しさ、美月の冷静さ、美咲のヤンデレっぷり、遥の暴走が全部混ざって、カオスすぎた。
　玲奈が出てこなかっただけマシだけど、次は全員揃うんじゃないかとビビる。  
「ったく、次のトイレはどこに飛ばされるんだよ……」  
　腹痛が収まったことに感謝しつつ、俺はトイレのドアをそっと閉めた。
　次に開けるのが怖い。
　でも坦々麺の残りがまだ胃で暴れてる気がするし、またすぐ来るかもしれない。
　コンビニ飯、やめたいけどやめられないんだよな。
　安いし美味いし、半額シール見るとつい手が伸びる。  
　とりあえず、今日はもうトイレ行きたくない。
　でも腹の調子がそんな願い聞いてくれるわけないか。
　温泉で生き延びただけでも褒めてくれよ、自分。