お嬢様は、今日も戦ってます~武闘派ですから狙った獲物は逃がしません~

高瀬 八鳳

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㉘きっかけ

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 ナルニエント公国の城下から、ヨーロピアン国直轄領の大広場までは馬をとばして1時間とかからない。
 ライガが馬を馬屋に預けに行く間に、私は一足先に大広場周りのマーケットを見てまわることにした。

 ヨーロピアン城は、ナルニエント公国城の10倍程の規模であり、城を囲む城壁も2重になっている。警備の兵士の数も比較にならない程多く配備されている。
 だが、城下の町は多くの店が並び、ヨーロピアン国民だけでなく周辺国からの商人も出入り可能な活気に満ち溢れた、ひらかれた観光地でもあった。

 本来なら、要所要所に警備の為の兵士が立ち、かなり治安の良い街であった筈なのだが……。

(なんだろう……。いつもと何かが違う。ガラの悪そうな連中がちょこちょこ目に入るような……。来月、10日後に始まる花祭り目当てというよりは、やっぱり5年に1度の剣大会が原因よね)

 毎年行われる、ヨーロピアン国の花祭り。今年は、同時開催で、剣士が腕を競う、トーナメント形式の試合がここで開催されるのだ。

 剣大会は、オリンピックのようなもので、各国持ち回りで開催される。開催国がスポンサーとなり、賞金をださなくてはならない。

 出場者に規定はなく、希望者は平民でも王族でも、誰でも参加できる。
 ただし、出場者は仮面を被って行うという、忖度なしの本気の試合なので、王族といえど負ける可能性もある。その為、いつの頃からか、王族は参加せず、一部の腕自慢の騎士や上級剣士、そして一般市民の喧嘩自慢達が、賞金目当てに押しかけるようになった。まあ、言うなれば総合格闘技の剣バージョン、みたいな感じだ。

 優勝した者には、平民のひと家族が2年は食べられる程の褒章が与えられる。一攫千金を狙う者や、名を上げたい兵士達がこぞって出場するイベントなのだ。

(ちょっと、ビーに話を聞いてみないとね。確か、王城の南門近くって言ってたから、あの辺りかな)

 ビー率いる『メシ屋』は、イベント期間限定の臨時カフェを、いつもこの地で開く。情報通の彼らのことだ。きっと、色々表にでない情報を仕入れているだろう。

「あーー、チーちゃん、ここだよーー」

 声の方向を見ると、5,6歳の幼い少年少女が手を振っている。

 2年ほど前から、城の外へ出るときは安全確保の為、平民の少年用の服を着用するようになった。メシ屋のメンバーの子供達は、私を『遠い親戚の』だと思いなついてくれている。 

「ヒューロン、ララー、元気か?」

 私は手を振り返しながら、彼らに声をかけた。最近、誕生日パーティーや何やらで忙しく、彼らに会うのはひと月ぶりだ。

「チーちゃーーん」

 嬉しそうに、こちらに向かって駆けてくる2人の姿が、急に割り込んできた大きな影に隠れた。

「キャッ……!!」
「イタ……ッ!」

 子供の叫び声と共に、ドシンという音が聞こえた。

「チっ! コラ、ガキども!! バタバタしてんじゃねえよ!」

 濁声で大男が、倒れている子供たちを怒鳴りつける。
 私はあわてて2人に駆け寄った。

「すまない。だが、子供があなたにぶつかって倒れたのだ。その言い方はないんじゃないか?」

 私は怯える彼らを抱き起した。

「チ、チーちゃ…ん……」

 2人共、涙目で震えている。

「ぶつかってきたのは、そいつらだろうが! ほお、額に、角。そのガキらは噂の放浪の民じゃねえか? 下賤な民、罪人がこのブルガ様の体に触れるなど、厚かましいわ! 」

 身長約180㎝、100kg以上ありそうな大男。腰までのびる髪を三つ編みにして束ね、彫りが深くよく焼けた肌にアゴ髭を伸ばしたその顔は、西側の人間の特徴を持っている。
 ブルガと名乗った男の他に、3人程いる仲間らしき男達も、皆同じように体格がいい。そのガッシリとした体に見合う、大きな剣を携えている。武人であることは明らかであった。

(シャムスヌール帝国の人間か。今、異国人と事を荒立てるのはまずい。でも、子供に乱暴を働く彼らをこのまま黙って見過ごすこともできない)

「……彼らがあなたにぶつかったことは謝ろう。すまなかった。だが、あなたも、彼らを侮辱した事は謝ってくれ」 

 子供達をかばいながら、ブルガに対峙し、そう伝える。

「謝る? この俺様が、なぜ放浪の民に謝らねえといけないんだ? 俺は剣大会で優勝候補なんだぜ!」
「おいブルガ、このガキも偉そうだよな。ちょっとお仕置きしておくか?」

 ブルガの右隣の男が、そう言いながら間髪を入れず、私に向かって左ジャブを打ってきた。
 私は体をひねりながら、咄嗟に右手で彼の左腕をはらった。

「ほう……やるじゃねえか、小僧」

 男の目に、危険な光がやどる。

 (まずい……! 蹴りを入れるつもりだ! 私が避けたら、子供達が蹴られてしまう……)

 私はすかさず後ろを向いて子供達を抱きしめ、きたるべき蹴りに備えた。

「ほら、これもよけてみろよーー!」

 男は右足を鞭のように勢いよくまわした。

(……来る! タイミングを合わせて、息を吐いて力を逃がす……! )

「……フ――……ウグ……ッ!! 」

 ドカッという音と共に、背中に大きな衝撃と痛みがはしった。

「チ、チーちゃん……」
「……ヒューロン、ララー。……二人とも大丈夫か?」

 痛みに堪えながら、震える2人を抱きしめた。
 子供達の動揺と恐怖が伝わってくる。

「この小僧、サンダの蹴りをくらって、倒れず凌いだぜ。やるじゃねえか」
「俺が手加減してやっただけだ。俺は優しい人間だからな」
「おい、もう行こうぜ。大会前に、警備兵に捕まったら面倒だぜ」

 立ち去ろうとする彼らの背に向かい、私は声をかけた。 

「おい、ブルガ、サンダ、だったな。剣大会で、会おう。オレがあんたらに勝ったら、今日の事を謝ってくれ。オレの名はウエダだ」
「ウハハハハーー! こりゃあ、威勢のいい坊主だな」
「おう、いいぜ。万が一、お前がかったら、地に額をつけて謝ってやるよ」
「おい、小僧! 逃げるんじゃねえぞ。こりゃあ大会の楽しみが増えたな。その減らず口がきけねえくらい、ボコボコにしてやるよ」

 男たちは大笑いしながら、去っていく。

 私は、心の底から湧き上がる怒りに包まれた。

(……許さない。子供達への態度。そして北の一族への暴言……。絶対に許さない……!!)

 それは、殺気といえるのかもしれない。
 他人を完膚なきまでに打ちのめしたいという、荒々しい衝動を、私は生まれて初めて感じた。
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