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㊳獅子身中の虫
しおりを挟む「私の家族? まさか!! 父も母も自国と自公地を愛していて、謀反に最も縁遠い人達よ! 嫁に行った姉もそう。兄だって……! あ、兄……は……」
(……お兄様と最後に話したのは、いつだった? ……たまに顔は合わせるけど、最近食事の席にも現れず、ほとんど両親と私の3人でご飯食べてる。お父様の公爵業務をお兄様に引き継ぎしてるから忙しいと思ってたけど、それだけじゃなかったのかも……。お兄様は悪人ではないけど、善人とも言い切れないのよね。流されやすいというか、影響を受けやすいというか。家族内で唯一、危うさを感じるのは彼だし。……そういう意味では、お兄様の事は好きだけど、信用はできないし、関与もあり得るわね……)
実は私はこの5年間、毎晩眠る前に誰にも内緒でこっそり日記をつけている。日記というか、営業日誌のようなもので、誰と会ったか、どんな事件がおこったか、その相関図や人の力関係、外国との現状や、貴族の恋愛ゴシップから城下のちょっとした噂まで、出来る限り全てを書き残している。
日本語で書いているので、万が一誰かに見られても、内容がバレる事はないと思うけれど、念の為なるべくアルファベットで略して書いている。例えば、ヨーロピアン国王はYK、フランツ王子はPF、父公爵はNMFといった具合に。リスク管理もばっちりだ。
(……帰ったら、日記を読み返してみよう。何かヒントが得られるかもしれない。彼の性格からして、あんまりだいそれたことは出来そうにないし、関わってるとしても、あんまり重要な部分じゃない気がするし。でも、謀反に関わるなんて、問答無用で死刑、良くて無期懲とかだよね。なんとか穏便にすませる方法がないか、同時並行で考えていかないと。根は悪人じゃないし、更生させる手を見つけたいな。でもまさか家族内に、そのシナリオの登場人物がいるなんて。まさに獅子身中の虫、だわね。あ、いけない、つい一人脳内会議しちゃったわ……)
天井をボーッと黙って見つめる私を、皆がジッと見ていた。
「ごめんなさい……。その登場人物の一人が、兄なんですね」
ライガとビー以外は、皆驚いた顔をした。
「あなたは驚かないのか? どうして兄だとわかったのだ?」
「チカ、どうして平気なの? 普通の公爵令嬢なら気絶ものの案件よ!」
「スゲーな、チカ! めっちゃ平静じゃん。家族の誰が? とか、なぜ疑うの? とかならないのか?」
「おい、待てよ。なぜ兄だと思うんだ? 何か知ってるのか?」
一斉に興奮した皆からワッっと問いかけられ、逆に驚いたが、一呼吸おいて、答えた。
「あの、まず、なぜ兄だとわかったのか。私は今の今まで何も知らなかったし、何も聞いてません。ただ、私なりに考えたら、消去法で両親と姉は消えて、残ったのが兄だった、それだけです。あと、なぜ平気かというと、それは……」
(……それは私が異世界から来た人間で、実はもう45歳で色々と経験してきたから。まあまあ人を観察する能力に長けているから。とは言えないし)
私は、ついライガの顔を見る。
彼も冷静で、いつもと変わらない落ち着いた表情だ。
(ってか、ライガは人の思考が読めるわけだし、当然この事知ってたよね。はァ……。もっと早く教えてほしかったけど、彼は彼なりに色々考えた上で、このタイミングで私に知らせる事に決めた訳で……仕方ないなあ……)
「……ライガから、戦士は常に感情でなく、冷静で理論的にものを考えろと指導してもらってきたので。なので、そんなに驚いてないんだと思います」
「たいしたもんだよ、チカ! ライガも教え子が優秀に育って、鼻が高いだろうよ」
ビーが嬉しそうにそう言い、私の肩をバンバン叩きながら、私の顔を覗き込んだ。
「チカ、勿論協力してくれるんだろ? 」
ビーは笑顔で私にそう言った。目は全然笑ってなくて、恐怖すら感じた。
コフィナさん、ピーターソンさんやロン達の顔も真剣だ。
「……そうですね、この状況で私に選択肢はないでしょう。勿論、兄達の謀反を阻止する為に皆さんに協力しますよ。まず、もっと詳細を教えて下さい。そもそも、兄は根っから悪い人間じゃありません。きっと、そそのかした人間がいる筈です。もしかしたら、事の重要さを兄は理解すらしていないかもしれません。単なる捨て駒の可能性が高い」
「残念だが、あなたの兄は既に取り返しのつかない罪をおかしたのだ。見逃すことはできない」
ピーターソンさんが言いにくそうに私に告げた。
私は、一人一人の顔をみながら、目と腹に力を入れ、低めの声でゆっくりと話した。
「平和を維持し、無用な争いを避ける為にも、私は謀反の阻止に協力します。民たみを守るのは、公爵令嬢である私の義務ですから。だけど同時に、自分の家族を守る為にも行動します。私にとっては、国も家族も、両方大事です。だから、私は両方を守る為に、動く。誰に何と言われようと、この考えは変えないし、譲らない。そのことは、皆さんにお伝えしておきます」
そう言って、私は頭を下げた。
しばらく、誰も、何も発言しない。
(……でも、そんな事言われたら、彼らも困るわよね。あーーもーー! 剣大会が終わったら、ちょっとゆっくりしようと思ってんたのに……!!)
「……っつっ……! よっしゃー、やるわよ!!」
私は腹の底から、大声を上げた。
皆がギョッとして、驚きと怖いものを見るような目で、私に注目した。
「オーケー。まあ、とりあえず、やる事やってくしかないわね。情報を確認して、色んな角度から検証して、プランCまで作戦を立てる。まずは、みんなが持ってる全ての情報を、聞かせてもらいましょうか」
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