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第2話 あの、あなたは魔女なんですか?
しおりを挟む「うん、そう、魔女やねん。この白川町商店街の、魔女。でも、一般的なイメージの魔女とは違うかもしれんね。ちなみに魔女って聞いて、何を思い浮かべるのん?」
逆に質問を返されて、少し焦った。
「えーと、あの… … 。魔女について、あんまりちゃんと考えたことないんですけど」
「うん、正しい答えってないし、なんでも言うてみて」
ニコニコしながら、彼女はけっこうグイグイおしてくる。
「えーと、そうですね。魔女と聞くと、アニメとかにでてくる魔法少女とか、ハロウィンにでてくる魔女とかが浮かんできます。空が飛べたり、物を動かせたり、呪いをかけたり。そうそう、正義の味方の良い魔女もいるけど、悪魔系の悪い魔女もいたり……。そんな感じです」
「素晴らしい! も~ 、パーフェクトな答えやん」
その女性、魔女、は拍手をしながら褒めてくれた。
「あ、いえ、どうですか? ……ありがとうございます」
「そう、あなたの言う通り、魔女って一般的にはそういうイメージやと思うわ。そやけど、私にとっての魔女はねえ……」
魔女は、笑顔のままこう続けた。
「昔、魔女裁判が実際に行われたって話を聞いたことある?」
「魔女裁判……ですか? すいません、わかりません」
「そう、魔女裁判、魔女狩り。中世のヨーロッパやアメリカでの話が有名やけど、世界各地で行われていた、いや、今もあるといわれている行為。諸説、色んな情報がネットや本でもでてるし、詳細は自分で調べてみて。ざっくりいうと、異なる考えや習慣を持つ人を、仲間外れにして不合理に迫害、拷問、抹消していく残念で悲しい事件のこと。殺された人には、男性もいるけれど、多くは女性だったといわれている。政治、宗教、権力、セクシャリティとか色んな欲と恐れがからみあって、よってたかって少数派や邪魔な人間をつるし上げた、集団パニックというかヒステリーとも言える状態。怖いよね、狂気が伝染病みたいに広がるのって」
突然の、人類のダークな歴史説明に、言葉がでず呆気にとられた。
「現在でも、魔女狩りという言葉は、根拠も曖昧なのに犯人に仕立て上げられて不合理に迫害される比喩として使われたりもしてる。歴史上、実在する人物でも魔女として処刑された女性も何人もいてるんやって。他者に害をなしたとされる人もいれば、祖国や仲間のために自身の命をかえりみず行動したのに、殺害された人もいはったり。人間って、勝手な思いこみと恐怖で、人を殺せる生き物やと痛感させられるよね、残念なことに。まあ、自分も one of them なんやけど」
話についていけず、ただ黙って頷いた。
「まあ、そんな感じでね、私にとって魔女というのは、同調圧力に屈せず、自然と調和して生きる姿勢の象徴なんよね。だから、私が『魔女』であるっていうのは、圧をかけてくるものらと、平和に戦うための、戦闘服みたいなもんで。私は、この地で、魔女としてウェルビーイングを自分と人に広げる為に、活動中なのですよ。ん~、ごめんね。ちょっと話、重かったかなあ?」
そう一方的に話した後、魔女は目を細めて、お得意のにっこりスマイルを浮かべて、こちらをみつめた。
――魔女狩り、不合理、迫害。……狂気って、伝染するの? 魔女は、同調圧力に負けない象徴……?
聞いた話を一生懸命理解しようと試みる。しかしあまりにも、普段の生活からかけ離れた内容に、一種のショック状態になっていた。
――だめ、わかんない。だいたい、ウェルビーイングって、何のこと? 私、なんて答えたらいいの?
焦って無言継続中の様子をさほど気にすることもなく、魔女は
「とりあえず、まず手えみせてもろていい?」
と、屈託なく聞いてきた。
「は、はい! どうぞ」
慌てて右手をだすと、魔女の両手で包み込まれた。
――あたたかい……。
少し気恥ずかしい気もしたが、魔女の手はとてもあたたかく、気持ちよかった。彼女はそのまま、掌をながめたり、押し揉んだりしながら言った。
「自己紹介が遅れてごめんなさい。私はここの店主、上田翔子です。よろしゅうおたの申します。上田でも、魔女さん、でも好きな方でよんでね」
「あ、私は宮谷です。宮谷海早紀《みやたにみさき》。こちらこそ宜しくお願いします」
「宮谷さん、海早紀さん、みさちゃん。なんて呼んだらいい?」
「え、呼び方なんて、なんでもいいですよ」
上田さんこと魔女さんのあたたかい手に包まれて、私はリラックス状態になり、つい本音をもらした。
「なんでもええ、ってことはないやん」
「いや、本当に、私の職場の人や友達もいろいろな呼び方してますので……」
「私は職場の人でも友達でもありません。今、ここで、私に、なんて呼ばれたいか、考えてみて」
「は……い」
――正直、ほんとどうでもいいんだけど
「海早紀ちゃんも、まあ、こう思うかもしれへんけど。そんな呼び方なんて、どうでもええのに、って」
一瞬、考えをよまれたのかもしれないと驚き、体が震えた。
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