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第二部第二章〈2学期編〉act.26
-決闘-~戦う理由は我にあり…~〈-YOBIDASI-〉
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〈-決闘-〉
~戦う理由は我にあり…~
〈-YOBIDASI-〉
「沙羅とのことは学校中の
噂になっているんだろうな…?」
次の日。翔は昨日の沙羅との事を
心配しながら学校に向かって行った。
「昨日理事長から聞いた話によると
午後の授業が始まっても姿を見せない
沙羅の事を心配して、まず授業を受け
持っている教師が授業を自習にしてから
学年主任に報告して、
手の空いている教師総動員で学校中を
探しまくり、教頭→校長→理事長へと
報告があがりそこからボディーガード達と
沙羅の家の者達が学校内外を探しまくり、
最終的に水族館に行った俺と沙羅の後を
追ってきた…と言う事らしい…。
しかし、どれだけの人間が沙羅の捜索に
あたったんだ?」
翔はそんな事をボヤキながら学校への正門
へと歩いていく。
「あっ、翔せんぱーい。
おはようございますですぅ!」
「翔せんぱい!おはようございます!」
「お、おはよう。瑠璃ちゃんと香織ちゃんも
元気そうだね?」
正門近くで瑠璃と香織に声を掛けられる翔。
瑠璃は翔の姿を見るなり嬉しそうに
駆け寄ってきて笑顔で挨拶をしてきた。
香織はそんな瑠璃を見て笑いながら
翔に挨拶をしてくる。
いつもと変らない二人の反応に少し戸惑い
ながら返事をする翔であった。
「翔せんぱい…。
昨日来てくれなかったです。
瑠璃…ずっと待っていたです」
瑠璃は翔の前で少し寂しそうに言って来た。
「えっ? き、昨日ね…?」
翔は瑠璃達が昨日の事をどこまで
知っているのか分からないため
思わず口篭ってしまう。
「ははは。瑠璃~。
ダメだよ?ワガママ言っちゃ!
せんぱいは音楽やバイトに
忙しいんだから!
たまにテニス部に顔を出して教えて
くれるだけでも良しとしなきゃ!
ねっ? せ・ん・ぱ・い♪」
香織はそう言いながら翔の腕を取り
身体を寄せるように密着させ笑顔で
翔の顔を見上げてきた。
香織の柔らかい胸が翔の腕に押し当て
られる。
「あーー!香織なにやってるですか!
早く翔せんぱいから離れるです!」
瑠璃は香織の積極的な行動に柳眉を
吊り上げて文句を言って来た。
「ははは。イヤだもんね!」
瑠璃に文句を言われても、それに慣れて
いるのか、翔の腕に頬を摺り寄せながら
笑って返事をする香織であった。
「うぅぅ~。それなら瑠璃は翔せんぱいの
反対の腕をもらうです!」
今度は瑠璃が香織と反対側に回り込んで
空いている翔の腕を取って身体を密着
させてくる。
「瑠璃!それじゃーせんぱい。
歩きにくいでしょ?」
「だったら、香織が離れればいいです。
瑠璃は知らないです!!」
翔の体を挟むようにお互いに顔を見ながら
キャイキャイと騒ぐ香織と瑠璃であった。
周りの生徒が冷ややかな眼差しを三人に
向けていた。
「………はぁ」
(香織ちゃん…あいかわらずで…。
でも…おかげで……助かったかな?)
翔は溜息を吐きながら腕にしがみつく
香織と瑠璃を交互に見て思っていた。
そして、周りの生徒に注目されたまま、
腕を組まれた状態で正門を通り、校舎に
向かって行った。
「ん?」
(今のは、中条か?そういえば理事長、
中条のところへ連絡を入れるって
言ってたよな…?
あいつのことだ。
思いどおりにならないままで終わらせる
わけがない。
汚い手を使ってでも、沙羅を手に
入れようとしてくるはずだ。
もっとも、
俺はいつでも臨戦態勢OKだけど…)
翔達が向かって行く校舎の前で、光一が
翔の事を睨み付けていた。
翔がその視線に気づき光一の顔を見ると、
光一は目を反らし校舎の奥に入っていった。
理事長はあの後、沙羅に光一の事を確認し
沙羅の気持ちを確かめ、翔との約束を守る
と言っていた。
沙羅も光一が翔に対して何かして
来るんじゃ無いかと、翔の事を
心配していた。
「翔せんぱい?」
黙って正面を睨みつける翔に気づいた香織
が正面を見た後、翔の顔を見上げながら
不思議そうに聞いてきた。
「ああ、ごめん。ボケッとしちゃって」
翔は香織の顔を見下ろしてニッコリと
笑って答えた。
香織は翔の態度に不自然さを感じたのか
何か言いたげな不満な表情を見せた。
香織が口を開こうと思ったとき今度は
瑠璃が翔の腕を強く引き顔を見上げ
ながら聞いてくる。
「翔せんぱい……
ちゃんと起きてるですか?」
「お、起きてる起きてる。ちょっとバイト
で寝るのは遅くなったけど」
香織から視線を外し瑠璃の顔を見下ろして
慌てて返事をする翔であった。
「へえ~。大変ですね」
白々しく答える翔の顔を柳眉を吊り上げて
ジト目になって感情のこもっていない声で
言って来る香織であった。
翔は自分の額から冷たい汗が流れてくる
のを感じながら香織の顔を見つめ
返事をした。
「ぅっ……で、でも、仕方ない
ことだから…」
「………ふぅ。しかたないですね?
でも…せんぱい。無理はしないで下さい。
約束ですよ?」
香織は「しかたないですね」と言わんばかり
の大きな溜息を吐いて翔の顔を見上げ
真面目な顔で言って来た。
「う、うん。わかりました…」
翔はそんな香織を見ながら大きく頷いて
返事をする。
「せんぱい、がんばってくださいです」
「うん。 ありがとう瑠璃ちゃん」
そんな翔と香織のやり取りにまったく
気づかない様子で心配そうな顔をして
言って来る瑠璃にホッとしながら
返事をする翔であった。
「えへへ……」
瑠璃は照れたように笑っていた。
香織は翔の腕から顔を離し瑠璃の方を
覗き込みながら言って来る。
「瑠璃。そろそろ行かないと。部室に顔を
出すんでしょ?私も付き合ってあげる
から一緒に行こ。それに翔せんぱいも…
いろいろと…忙しいみたいだし…」
「あうぅぅ…そうです。
じゃあ瑠璃テニス部に寄ってきますです」
香織と瑠璃がほぼ同時に翔の腕から
体を離し、翔の正面に出てくる。
香織と瑠璃はペコっと頭を下げてから
テニス部の部室の方へ並んで走っていった。
「…………はぁ」
(香織ちゃん…感が鋭いからなぁ…。
中条が睨んでいたのに完全に気付いた
みたいだし…。
まあ「気を付けてください」と言う事
なんだろうな?
瑠璃ちゃんは相変わらずほんわかしてて…
気が休まるっていうかなんていうか……。
俺もそうだけど…
香織ちゃんも一緒に居て楽しそうだし…。
まぁ…いいコンビだよな?)
二人が走っていく後ろ姿を大きく溜息を
吐きながら見送る翔であった。
・
・
・
教室に入った翔は、周りの世間話に聞き耳
を立てていた。
瑠璃や香織の一年生達は沙羅の事を知らない
みたいに思えたのだが、同じ学年の二年生の
間ではもしかしたら沙羅が学校を抜け出した
ことが噂になっているかもしれない、
と思ったからである。
だがそんなことはなく。
いつもと同じような光景が目の前に
広がっていた。
「…………」
(やっぱり……沙羅と俺の事は
みんな知らないのか?)
高嶺家の体面的なものもあったのだろう。
沙羅の失踪は秘密裏に処理されていた
のであった。
「こらっ、サボリ魔!」
そんな事を思いクラス内を見ていた翔の前
に柳眉を吊り上げて怒っている表情の
華那恵が立っていた。
「あ、華那恵ちゃん。おはよー」
翔は顔を上げて華那恵を見てからのん気に
返事をした。
そんな翔に華那恵はさらに
文句を言ってきた。
「おはよー、じゃないでしょう?
昨日黙って帰っちゃって。
みんな、心配したんだから!」
「えっ!?」
華那恵の話を聞いて思わず驚きの声を
上げる翔であった。
「そう、なんだ……」
翔は口元に手を当てて華那恵の事を
見つめていた。
「翔くん、カバンまで置いていくんだもん」
華那恵は翔から視線を外し下を向いて
呟くように話してくる。
「わ……私だって、心配したんだから……」
華那恵はなぜか、
恥ずかしそうに伝えてきた。
周囲の視線が自分に突き刺さっているのを
翔は感じていた。
「………………」
(みんなが俺のことを心配するなんて、
思いもしなかった…。
華那恵にも心配かけて…。
でも……なんだこの気持ち?
申し訳ないけど…なんだか嬉しい…)
翔は口元に手を当てたまま、
自分の頬が緩むのを下を向いて必死に
押さえ込んでいた。
恥ずかしそうに下を向いていた華那恵は
少しだけ顔を上げて小さな声で言って来た。
「もう……。本当に…心配したんだからね?
休み時間、あちこち捜したんだよ?」
上目遣いで言ってくる華那恵の頬は
まだ紅いままであった。
それを見た翔も自分の頬が照れて紅く
なっていくのを感じていた。
翔は華那恵に向かってニコっと
微笑んで言った。
「……ごめん華那恵ちゃん。心配かけて。
ちょっと知り合いから急な呼び出しが
あったから何も考えずに行っちゃたんだ」
「えっ?」
「後から…。カバンの無い事に
気が付いたんだけど…まあいいか!って
思っちゃって…本当にゴメンな?」
翔は立ち上がり華那恵に頭を下げて謝った。
華那恵は慌てて両手を横に振って答えた。
「ううん。もういいの!ゴメンネ?
私達がかってに心配したんだし…。
翔くんの用事があったんなら
仕方ないよね?」
「俺の方こそゴメンな?
まさか華那恵ちゃん達に心配掛ける
なんて…思ってもいなかったから…」
翔は頭を掻きながら自分が照れているのを
誤魔化すように笑って話した。
「心配するよ?何も言われないで…
いなくなられたら…」
華那恵は顔を背けながら小さな声で
答えてきた。
翔も華那恵にだけ聞こえるような
小さな声で答えた。
「そうか…わかった。
これからは華那恵ちゃんにだけは
伝えてから…いなくなるよ?」
「!? 翔くん…それって…」
華那恵は顔を上げて驚き聞いてきた。
翔は再度頭を掻きながら照れくさそうに
答えた。
「華那恵ちゃんは…特別だから…」
翔はそう言った後、自分の頬が急激に熱を
持っていくのを感じた。
華那恵は目を大きく開くように驚いて
頬を紅く染めながら翔に答えてきた。
「うん。ありがと。 約束だよ?」
「ああ約束するよ」
「じゃあ私、席に戻るね?」
笑って返事をする翔に華那恵も笑って答え、
少し嬉しそうに自分の席に戻っていった。
翔はそんな華那恵を笑顔で見送っていた。
・
・
・
~戦う理由は我にあり…~
〈-YOBIDASI-〉
「沙羅とのことは学校中の
噂になっているんだろうな…?」
次の日。翔は昨日の沙羅との事を
心配しながら学校に向かって行った。
「昨日理事長から聞いた話によると
午後の授業が始まっても姿を見せない
沙羅の事を心配して、まず授業を受け
持っている教師が授業を自習にしてから
学年主任に報告して、
手の空いている教師総動員で学校中を
探しまくり、教頭→校長→理事長へと
報告があがりそこからボディーガード達と
沙羅の家の者達が学校内外を探しまくり、
最終的に水族館に行った俺と沙羅の後を
追ってきた…と言う事らしい…。
しかし、どれだけの人間が沙羅の捜索に
あたったんだ?」
翔はそんな事をボヤキながら学校への正門
へと歩いていく。
「あっ、翔せんぱーい。
おはようございますですぅ!」
「翔せんぱい!おはようございます!」
「お、おはよう。瑠璃ちゃんと香織ちゃんも
元気そうだね?」
正門近くで瑠璃と香織に声を掛けられる翔。
瑠璃は翔の姿を見るなり嬉しそうに
駆け寄ってきて笑顔で挨拶をしてきた。
香織はそんな瑠璃を見て笑いながら
翔に挨拶をしてくる。
いつもと変らない二人の反応に少し戸惑い
ながら返事をする翔であった。
「翔せんぱい…。
昨日来てくれなかったです。
瑠璃…ずっと待っていたです」
瑠璃は翔の前で少し寂しそうに言って来た。
「えっ? き、昨日ね…?」
翔は瑠璃達が昨日の事をどこまで
知っているのか分からないため
思わず口篭ってしまう。
「ははは。瑠璃~。
ダメだよ?ワガママ言っちゃ!
せんぱいは音楽やバイトに
忙しいんだから!
たまにテニス部に顔を出して教えて
くれるだけでも良しとしなきゃ!
ねっ? せ・ん・ぱ・い♪」
香織はそう言いながら翔の腕を取り
身体を寄せるように密着させ笑顔で
翔の顔を見上げてきた。
香織の柔らかい胸が翔の腕に押し当て
られる。
「あーー!香織なにやってるですか!
早く翔せんぱいから離れるです!」
瑠璃は香織の積極的な行動に柳眉を
吊り上げて文句を言って来た。
「ははは。イヤだもんね!」
瑠璃に文句を言われても、それに慣れて
いるのか、翔の腕に頬を摺り寄せながら
笑って返事をする香織であった。
「うぅぅ~。それなら瑠璃は翔せんぱいの
反対の腕をもらうです!」
今度は瑠璃が香織と反対側に回り込んで
空いている翔の腕を取って身体を密着
させてくる。
「瑠璃!それじゃーせんぱい。
歩きにくいでしょ?」
「だったら、香織が離れればいいです。
瑠璃は知らないです!!」
翔の体を挟むようにお互いに顔を見ながら
キャイキャイと騒ぐ香織と瑠璃であった。
周りの生徒が冷ややかな眼差しを三人に
向けていた。
「………はぁ」
(香織ちゃん…あいかわらずで…。
でも…おかげで……助かったかな?)
翔は溜息を吐きながら腕にしがみつく
香織と瑠璃を交互に見て思っていた。
そして、周りの生徒に注目されたまま、
腕を組まれた状態で正門を通り、校舎に
向かって行った。
「ん?」
(今のは、中条か?そういえば理事長、
中条のところへ連絡を入れるって
言ってたよな…?
あいつのことだ。
思いどおりにならないままで終わらせる
わけがない。
汚い手を使ってでも、沙羅を手に
入れようとしてくるはずだ。
もっとも、
俺はいつでも臨戦態勢OKだけど…)
翔達が向かって行く校舎の前で、光一が
翔の事を睨み付けていた。
翔がその視線に気づき光一の顔を見ると、
光一は目を反らし校舎の奥に入っていった。
理事長はあの後、沙羅に光一の事を確認し
沙羅の気持ちを確かめ、翔との約束を守る
と言っていた。
沙羅も光一が翔に対して何かして
来るんじゃ無いかと、翔の事を
心配していた。
「翔せんぱい?」
黙って正面を睨みつける翔に気づいた香織
が正面を見た後、翔の顔を見上げながら
不思議そうに聞いてきた。
「ああ、ごめん。ボケッとしちゃって」
翔は香織の顔を見下ろしてニッコリと
笑って答えた。
香織は翔の態度に不自然さを感じたのか
何か言いたげな不満な表情を見せた。
香織が口を開こうと思ったとき今度は
瑠璃が翔の腕を強く引き顔を見上げ
ながら聞いてくる。
「翔せんぱい……
ちゃんと起きてるですか?」
「お、起きてる起きてる。ちょっとバイト
で寝るのは遅くなったけど」
香織から視線を外し瑠璃の顔を見下ろして
慌てて返事をする翔であった。
「へえ~。大変ですね」
白々しく答える翔の顔を柳眉を吊り上げて
ジト目になって感情のこもっていない声で
言って来る香織であった。
翔は自分の額から冷たい汗が流れてくる
のを感じながら香織の顔を見つめ
返事をした。
「ぅっ……で、でも、仕方ない
ことだから…」
「………ふぅ。しかたないですね?
でも…せんぱい。無理はしないで下さい。
約束ですよ?」
香織は「しかたないですね」と言わんばかり
の大きな溜息を吐いて翔の顔を見上げ
真面目な顔で言って来た。
「う、うん。わかりました…」
翔はそんな香織を見ながら大きく頷いて
返事をする。
「せんぱい、がんばってくださいです」
「うん。 ありがとう瑠璃ちゃん」
そんな翔と香織のやり取りにまったく
気づかない様子で心配そうな顔をして
言って来る瑠璃にホッとしながら
返事をする翔であった。
「えへへ……」
瑠璃は照れたように笑っていた。
香織は翔の腕から顔を離し瑠璃の方を
覗き込みながら言って来る。
「瑠璃。そろそろ行かないと。部室に顔を
出すんでしょ?私も付き合ってあげる
から一緒に行こ。それに翔せんぱいも…
いろいろと…忙しいみたいだし…」
「あうぅぅ…そうです。
じゃあ瑠璃テニス部に寄ってきますです」
香織と瑠璃がほぼ同時に翔の腕から
体を離し、翔の正面に出てくる。
香織と瑠璃はペコっと頭を下げてから
テニス部の部室の方へ並んで走っていった。
「…………はぁ」
(香織ちゃん…感が鋭いからなぁ…。
中条が睨んでいたのに完全に気付いた
みたいだし…。
まあ「気を付けてください」と言う事
なんだろうな?
瑠璃ちゃんは相変わらずほんわかしてて…
気が休まるっていうかなんていうか……。
俺もそうだけど…
香織ちゃんも一緒に居て楽しそうだし…。
まぁ…いいコンビだよな?)
二人が走っていく後ろ姿を大きく溜息を
吐きながら見送る翔であった。
・
・
・
教室に入った翔は、周りの世間話に聞き耳
を立てていた。
瑠璃や香織の一年生達は沙羅の事を知らない
みたいに思えたのだが、同じ学年の二年生の
間ではもしかしたら沙羅が学校を抜け出した
ことが噂になっているかもしれない、
と思ったからである。
だがそんなことはなく。
いつもと同じような光景が目の前に
広がっていた。
「…………」
(やっぱり……沙羅と俺の事は
みんな知らないのか?)
高嶺家の体面的なものもあったのだろう。
沙羅の失踪は秘密裏に処理されていた
のであった。
「こらっ、サボリ魔!」
そんな事を思いクラス内を見ていた翔の前
に柳眉を吊り上げて怒っている表情の
華那恵が立っていた。
「あ、華那恵ちゃん。おはよー」
翔は顔を上げて華那恵を見てからのん気に
返事をした。
そんな翔に華那恵はさらに
文句を言ってきた。
「おはよー、じゃないでしょう?
昨日黙って帰っちゃって。
みんな、心配したんだから!」
「えっ!?」
華那恵の話を聞いて思わず驚きの声を
上げる翔であった。
「そう、なんだ……」
翔は口元に手を当てて華那恵の事を
見つめていた。
「翔くん、カバンまで置いていくんだもん」
華那恵は翔から視線を外し下を向いて
呟くように話してくる。
「わ……私だって、心配したんだから……」
華那恵はなぜか、
恥ずかしそうに伝えてきた。
周囲の視線が自分に突き刺さっているのを
翔は感じていた。
「………………」
(みんなが俺のことを心配するなんて、
思いもしなかった…。
華那恵にも心配かけて…。
でも……なんだこの気持ち?
申し訳ないけど…なんだか嬉しい…)
翔は口元に手を当てたまま、
自分の頬が緩むのを下を向いて必死に
押さえ込んでいた。
恥ずかしそうに下を向いていた華那恵は
少しだけ顔を上げて小さな声で言って来た。
「もう……。本当に…心配したんだからね?
休み時間、あちこち捜したんだよ?」
上目遣いで言ってくる華那恵の頬は
まだ紅いままであった。
それを見た翔も自分の頬が照れて紅く
なっていくのを感じていた。
翔は華那恵に向かってニコっと
微笑んで言った。
「……ごめん華那恵ちゃん。心配かけて。
ちょっと知り合いから急な呼び出しが
あったから何も考えずに行っちゃたんだ」
「えっ?」
「後から…。カバンの無い事に
気が付いたんだけど…まあいいか!って
思っちゃって…本当にゴメンな?」
翔は立ち上がり華那恵に頭を下げて謝った。
華那恵は慌てて両手を横に振って答えた。
「ううん。もういいの!ゴメンネ?
私達がかってに心配したんだし…。
翔くんの用事があったんなら
仕方ないよね?」
「俺の方こそゴメンな?
まさか華那恵ちゃん達に心配掛ける
なんて…思ってもいなかったから…」
翔は頭を掻きながら自分が照れているのを
誤魔化すように笑って話した。
「心配するよ?何も言われないで…
いなくなられたら…」
華那恵は顔を背けながら小さな声で
答えてきた。
翔も華那恵にだけ聞こえるような
小さな声で答えた。
「そうか…わかった。
これからは華那恵ちゃんにだけは
伝えてから…いなくなるよ?」
「!? 翔くん…それって…」
華那恵は顔を上げて驚き聞いてきた。
翔は再度頭を掻きながら照れくさそうに
答えた。
「華那恵ちゃんは…特別だから…」
翔はそう言った後、自分の頬が急激に熱を
持っていくのを感じた。
華那恵は目を大きく開くように驚いて
頬を紅く染めながら翔に答えてきた。
「うん。ありがと。 約束だよ?」
「ああ約束するよ」
「じゃあ私、席に戻るね?」
笑って返事をする翔に華那恵も笑って答え、
少し嬉しそうに自分の席に戻っていった。
翔はそんな華那恵を笑顔で見送っていた。
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