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第二部第二章〈2学期編〉act.27
-決闘-~戦う理由は我にあり…2~〈-YOBIDASI-〉
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「さ、沙羅くん。ひどいじゃないかっ」
「ん? あ……」
(沙羅と中条じゃないか?
なにやってんだこんなところで……?)
昼休み。
いつものように屋上で休もうと昇降口の
前まで上げって来た翔は、人の声を聞いて
足を止めてしまう。
開放されている出入り口の影からそっと
屋上の様子を覗き見た翔は、左手の奥の
ほうで言い合いをしている沙羅と光一の
姿を確認する。
「……どうするかな?
でもな…中条が逆上して沙羅に迫るかも
しれないし………ここから様子みてるか」
翔はそのまま屋上に出ないで二人の様子を
見る事にした。
開放された扉の隙間から沙羅の事を
見守ることにしたのであった。
「ど、どうして婚約解消なんてことを?」
「……大事な話って、そのことでしたの?
わたくし、忙しいんです」
光一は沙羅の体を掴もうと手を伸ばしたが、
沙羅はその手を払って光一を睨みつける
ようにハッキリと断わっている。
そして、光一を置いて昇降口に
向かってくるのが見えた。
(わっ、やべっ。沙羅がこっちにくる。
とりあえずドアの裏に隠れて!)
「ま、待ってくれっ。
ぼ、僕がなにか悪いことをしたなら
謝るから。もう一度、考え直して
くれないか?」
慌てて沙羅達から死角になる扉の影に移動
しようとした翔であったが、光一の声が
聞こえて思わず立ち止まってしまう。
そのまま隙間から沙羅達の様子を伺う
翔であった。
沙羅は無言で立ち止まり冷めた目で
光一を見た。
「………………」
光一は必死の形相で沙羅の事を説得しよう
と話しかけてきた。
「中条家と高嶺家が協力し合えば、
双方とも安泰になるじゃないか!」
沙羅は黙ってその話を聞いている
ようだった。
「………………」
光一は沙羅が黙って自分の話を聞いて
くれている事に安心したのか自分の手を
力強く握り締め話を続けた。
「今ならまだ間に合う。ここはひとつ大人
になって、両家の繁栄のために――」
「……言いたいことはそれだけですか?」
光一の話を遮るように冷たい口調で
聞き返す沙羅であった。
「!?」
光一は言葉を失い沙羅の顔を
黙って見つめる。
沙羅は柳眉を吊り上げて、軽蔑するような
眼差しを光一に向けていた。
そして、さっきよりももっと冷めた口調で
言ってきた。
「どこまでも
くだらない人ですわね?あなた」
「な……なんだって?」
沙羅から自分に放たれた言葉が
信じられない光一であった。
呆然と立ち尽くす光一に向かって
沙羅は頭を大きく振って
睨むような眼差しを向けながら
言葉を放した。
「この後に及んでも、自分の力だけでは
なにもできない……。
財力に頼らなければ、わたくし一人
満足させられないのですか?」
「どど…どういう……?」
光一は沙羅の迫力にたじろぎしどろもどろ
になって聞き返す。
「情けなさすぎますわ。
あなたのような方と一時期でも婚約して
いたかと思うと、吐き気がします」
冷めた口調で話を続ける沙羅の綺麗な顔が
歪んでいた。
「……な、なにを、言っているんだ?」
かつての婚約者に言われた冷たい言葉を
聞いて、光一は目に涙を溜めて俯き
わなわなと体を震わせている。
沙羅は少し悲しそうな顔を見せ光一に
話しかける。
「光一さん。
わたくしはあなた自身を見たかった。
中条財閥の跡取りとしてではない、
一人の人間としてのあなたを」
「僕……自身?ぼ、僕は、中条財閥の――」
沙羅の話を聞いて顔を上げて答えようとする
光一の話を遮りハッキリと伝える沙羅。
「そうです。
今のあなたは中条財閥の御曹司でしか
ありません。その他にはなにもない」
「い、いいじゃないか。
僕は、それがすべてなんだっ!」
沙羅に言われ半べそになりながら
光一は叫んでいた。
「そうですか?はたして、
それでいいのでしょうか?
仮に……。あなたから中条財閥が
奪われてしまったことを考えてみて
ください。そのとき、あなたには
なにが残ります?」
そんな光一を情けなく思いながら
沙羅が淡々と話続ける。
「そ、そんなことは!ありえないっ!!」
沙羅の話に逆上したように泣き叫ぶ光一
を見て、沙羅は大きく溜息吐きながら
小さい子供を諭すような口調で
光一に話しかけた。
「……考えてみるだけでいいのです。
しかし……おそらくなにも残らない
でしょう。かつてのわたくしが
そうでしたように、あなたも」
最後の方で節目がちに喋ってくる
沙羅の顔を光一は黙って見ていた。
「………………」
沙羅は寂しそうな表情を光一に
見せて話した。
「わたくしの言葉がご理解できたとき、
改めていらしてください。
そのときはわたくしも、もう一度、
あなたとの婚約を考えてみます」
光一は下を向いてゴシゴシと自分の涙を
乱暴に拭き取った。
「………………」
俯いたまま顔を上げようとしない
光一に不思議そうに声をかける沙羅。
「……光一さん」
「……わからない」
光一は小さい声でボソボソと話し出した。
「………わからない。
わからない……僕には…僕にはきみが
わからない!」
光一は顔を上げて沙羅に向かって
叫んでいた。
そして、
そのまま沙羅から逃げるように
昇降口に向かって駆け出していた。
(おわっ!今度は中条がこっちに!)
翔は慌てて扉の影に隠れようとしたが、
翔が隠れるよりも早く光一が翔の前に
姿を現した。
「!? た、高村……」
昇降口の入り口で立っている翔を見つけ
唖然とする光一だった。
「よう。ごきげんいかが?」
引き攣った顔で片手を上げて間抜けな
挨拶をする翔を睨みつけるように光一が
叫んできた。
「そ、そうか!
きさまが沙羅くんに入れ知恵を!」
「なんだ?」
「ぼ、僕に盾突いたらどうなるか、
おまえにはきっちり教えてやるからな!」
怒りを露に見せる光一に翔は飄々と答えた。
「……わけ分かんねえ。好きにすれば?」
「くそっ!!」
光一は翔からも逃げるように階段を
駆け下りていった。
その後姿を黙って見送る翔であった。
「高村くん……」
そんな翔に近づいて沙羅は静かに
声をかけて来た。
翔は沙羅の方に振り返り、頭を掻きながら
申し訳なさそうに答えた。
「沙羅…ごめんな? こないだといい、
別に聞こうと思っていたわけじゃ
ないんだけど……」
「いいのです。 光一さんとの話が
こじれてしまった場合は高村くんへ
相談にうかがおうと思ってましたから」
沙羅は微笑みながら翔に答えた。
翔もそんな沙羅に笑いながら返事をした。
「そっか、ありがとう。でも沙羅、やるね」
「え?」
「感心したよ。
一人の人間としての自分、か……」
真面目な顔で言ってくる翔に
沙羅は俯き照れたように言ってくる。
「や、やだ……やめてください」
「だけど。わかってくれるといいな、中条」
翔は照れる沙羅を見てから、もう一度
誰も居なくなった階段を見つめながら
ボソッと言った。
「…………そうですわね。
光一さんも、中条家に縛られてなければ
いい人なので――」
沙羅も翔と同じように階段を見つめ
ボソッと呟いていた。
・
・
・
「さて授業も終わったことだし、今日は
バイトもないから伸でも誘って
なんか食いに行こうかな?」
授業が終わりカバンに荷物を詰めながら
伸の姿を探す翔。
伸はコソコソと隠れるように教室から
出て行こうとしていた。
翔はそんな伸を追いかけて後ろから
声を掛けた。
「伸っ!」
伸はビックリしたように慌てて
振り返ってきた。
「なに? なんか用?」
焦るように翔から視線を外して返事を
する伸であった。
無造作に小脇に抱えていた自分のかばん
を持ち替えようと手を動かす。
ポト…
その時、伸のポケットからが白い封筒が
床に落ちた。
ヒョイ
「ん? なんだこれ?」
翔は何気なくそれを拾い上げ伸に
渡そうとする。
「俺宛の……手紙?」
そこには「高村翔へ」と翔の名前が
書かれていた。
「悪い。すっかり忘れてた。
それ、下級生の女の子がおまえに
渡してくれってさ」
その手紙を手に取りまじまじと見る
翔に対し、引き攣りながら聞いてもいない
手紙を持っていた言い訳をしはじめる
伸であった。
「…………あのなぁ…」
翔は手紙を持ったまま腕を組んで
伸を呆れたように見ながら話す。
伸はビクビクと翔の顔色を
見ながら誤魔化すように言ってきた。
「まあいいじゃん。
おもいだしたんだからさ」
「思い出してないだろ?
ったくしょうがない奴だな」
翔はハァーと大きく溜息を吐いて
伸に向かって文句を言おうとする。
「で? なんて書いてある?」
しかし伸は興味津々と言った様子で
翔に手紙の事を聞いてきた。
「は?」
「ラブレター?「あなたが好きです!」
みたいな熱烈なヤツ?」
「読んでないのに、わかるかよ!」
おバカな伸の質問に思わず突っ込む
翔であった。
伸は翔のツッコミを聞いて安心したように
ニコニコと笑って翔に近づいてくる。
そして、翔の横に並び手紙を見てから
言ってきた。
「んだよ、はやく開けろよ?」
「え? ここで?」
思わず伸の顔を見て、素で返事をする
翔であった。
「ああ」
伸は真面目な顔で頷いている。
「なんで?」
「なんでって、気になるだろ、かわいい子
だったから」
翔の質問に伸は真剣な目を翔に向けて
言ってきた。
伸の眼差しにつられたのか、翔も真剣な顔
で伸に聞き返していた。
「かわいかった?ストライクゾーン、
入ってる?」
「もちろん。
真ん中やや高めって感じかな?」
伸は手を力強く握り締め、大きく頷き
ながら答えてきた。
翔は両腕を組み大きく頷いて伸を見て
聞いてきた。
「ほほお……じゃ、伸のリストに
新しい子が加わったわけだ」
「当たり前だろ。ソッコウで名前聞いたし。
一年の吉田今日子ちゃん」
翔の質問に伸はニヤリと笑って答え、
翔は心底感心したように声を漏らす。
「は、はやいな……」
「手紙、見ないの?」
伸は自分の瞳をウルウルさせて
翔の顔を覗き込むように聞いてきた。
「…………わかったよ」
翔は諦めたように大きく溜息を吐き
その場で手紙の封を切った。
ビリッ
ガサガサ…
「なあ、なんて書いてある?」
翔が取り出した手紙の内容を確かめようと
身を乗り出して覗き込んでくる伸。
翔はゆっくりとその便箋を開き
その内容を口に出した。
「待てって……。
え~と「第二剣道場に来い」か」
翔の言葉を聞いて驚く伸は文面を
確かめてから翔の方に振り向き聞いてきた。
「は? 来い? なんだそりゃ?
ラブレターじゃないの?」
「……俺に聞かれてもな」
翔は自分の顎に手を当てて考えるように
答える。
頭の中には今日の昼に会った
あの男の顔が浮かび上がっていた。
「でも、女の子からだぜ?
文字も……女の子の書き文字っぽいし」
伸は翔から便箋を奪い取りまじまじと
文字を確認しながら言ってきた。
翔は真剣な顔でその手紙を見ていた。
(多分、中条からの呼び出しだろう。
第二剣道場か……まあ、格闘するには
もってこいだな…)
「あっそうか。わざとそういう文面と
場所を使ってってこと?
なるほど、奥ゆかしいねぇ」
伸はポンと自分の手を叩いて
納得したように言って来た。
「なに言ってんの……」
その話を聞いて呆れたように伸の顔を見る
翔であったがその目は笑っていなかった。
伸は自分の腕を組みウンウンと
頷きながら言ってきた。
「いいよなぁ~。
あんなに可愛い子から告白か~」
「……んじゃ、俺、行ってくる」
翔はその手紙を持って伸に片手を上げてから
教室から出て行った。
「はぁ~、なんで翔ばっかり……
おい、あとで話聞かせろよ?」
うしろで嘆く伸を無視して、
翔はスグにでも戦えるように肩や腕、
首等の関節を軽く動かし身体を解しながら
教室から出ていった。
・
・
・
「ん? あ……」
(沙羅と中条じゃないか?
なにやってんだこんなところで……?)
昼休み。
いつものように屋上で休もうと昇降口の
前まで上げって来た翔は、人の声を聞いて
足を止めてしまう。
開放されている出入り口の影からそっと
屋上の様子を覗き見た翔は、左手の奥の
ほうで言い合いをしている沙羅と光一の
姿を確認する。
「……どうするかな?
でもな…中条が逆上して沙羅に迫るかも
しれないし………ここから様子みてるか」
翔はそのまま屋上に出ないで二人の様子を
見る事にした。
開放された扉の隙間から沙羅の事を
見守ることにしたのであった。
「ど、どうして婚約解消なんてことを?」
「……大事な話って、そのことでしたの?
わたくし、忙しいんです」
光一は沙羅の体を掴もうと手を伸ばしたが、
沙羅はその手を払って光一を睨みつける
ようにハッキリと断わっている。
そして、光一を置いて昇降口に
向かってくるのが見えた。
(わっ、やべっ。沙羅がこっちにくる。
とりあえずドアの裏に隠れて!)
「ま、待ってくれっ。
ぼ、僕がなにか悪いことをしたなら
謝るから。もう一度、考え直して
くれないか?」
慌てて沙羅達から死角になる扉の影に移動
しようとした翔であったが、光一の声が
聞こえて思わず立ち止まってしまう。
そのまま隙間から沙羅達の様子を伺う
翔であった。
沙羅は無言で立ち止まり冷めた目で
光一を見た。
「………………」
光一は必死の形相で沙羅の事を説得しよう
と話しかけてきた。
「中条家と高嶺家が協力し合えば、
双方とも安泰になるじゃないか!」
沙羅は黙ってその話を聞いている
ようだった。
「………………」
光一は沙羅が黙って自分の話を聞いて
くれている事に安心したのか自分の手を
力強く握り締め話を続けた。
「今ならまだ間に合う。ここはひとつ大人
になって、両家の繁栄のために――」
「……言いたいことはそれだけですか?」
光一の話を遮るように冷たい口調で
聞き返す沙羅であった。
「!?」
光一は言葉を失い沙羅の顔を
黙って見つめる。
沙羅は柳眉を吊り上げて、軽蔑するような
眼差しを光一に向けていた。
そして、さっきよりももっと冷めた口調で
言ってきた。
「どこまでも
くだらない人ですわね?あなた」
「な……なんだって?」
沙羅から自分に放たれた言葉が
信じられない光一であった。
呆然と立ち尽くす光一に向かって
沙羅は頭を大きく振って
睨むような眼差しを向けながら
言葉を放した。
「この後に及んでも、自分の力だけでは
なにもできない……。
財力に頼らなければ、わたくし一人
満足させられないのですか?」
「どど…どういう……?」
光一は沙羅の迫力にたじろぎしどろもどろ
になって聞き返す。
「情けなさすぎますわ。
あなたのような方と一時期でも婚約して
いたかと思うと、吐き気がします」
冷めた口調で話を続ける沙羅の綺麗な顔が
歪んでいた。
「……な、なにを、言っているんだ?」
かつての婚約者に言われた冷たい言葉を
聞いて、光一は目に涙を溜めて俯き
わなわなと体を震わせている。
沙羅は少し悲しそうな顔を見せ光一に
話しかける。
「光一さん。
わたくしはあなた自身を見たかった。
中条財閥の跡取りとしてではない、
一人の人間としてのあなたを」
「僕……自身?ぼ、僕は、中条財閥の――」
沙羅の話を聞いて顔を上げて答えようとする
光一の話を遮りハッキリと伝える沙羅。
「そうです。
今のあなたは中条財閥の御曹司でしか
ありません。その他にはなにもない」
「い、いいじゃないか。
僕は、それがすべてなんだっ!」
沙羅に言われ半べそになりながら
光一は叫んでいた。
「そうですか?はたして、
それでいいのでしょうか?
仮に……。あなたから中条財閥が
奪われてしまったことを考えてみて
ください。そのとき、あなたには
なにが残ります?」
そんな光一を情けなく思いながら
沙羅が淡々と話続ける。
「そ、そんなことは!ありえないっ!!」
沙羅の話に逆上したように泣き叫ぶ光一
を見て、沙羅は大きく溜息吐きながら
小さい子供を諭すような口調で
光一に話しかけた。
「……考えてみるだけでいいのです。
しかし……おそらくなにも残らない
でしょう。かつてのわたくしが
そうでしたように、あなたも」
最後の方で節目がちに喋ってくる
沙羅の顔を光一は黙って見ていた。
「………………」
沙羅は寂しそうな表情を光一に
見せて話した。
「わたくしの言葉がご理解できたとき、
改めていらしてください。
そのときはわたくしも、もう一度、
あなたとの婚約を考えてみます」
光一は下を向いてゴシゴシと自分の涙を
乱暴に拭き取った。
「………………」
俯いたまま顔を上げようとしない
光一に不思議そうに声をかける沙羅。
「……光一さん」
「……わからない」
光一は小さい声でボソボソと話し出した。
「………わからない。
わからない……僕には…僕にはきみが
わからない!」
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叫んでいた。
そして、
そのまま沙羅から逃げるように
昇降口に向かって駆け出していた。
(おわっ!今度は中条がこっちに!)
翔は慌てて扉の影に隠れようとしたが、
翔が隠れるよりも早く光一が翔の前に
姿を現した。
「!? た、高村……」
昇降口の入り口で立っている翔を見つけ
唖然とする光一だった。
「よう。ごきげんいかが?」
引き攣った顔で片手を上げて間抜けな
挨拶をする翔を睨みつけるように光一が
叫んできた。
「そ、そうか!
きさまが沙羅くんに入れ知恵を!」
「なんだ?」
「ぼ、僕に盾突いたらどうなるか、
おまえにはきっちり教えてやるからな!」
怒りを露に見せる光一に翔は飄々と答えた。
「……わけ分かんねえ。好きにすれば?」
「くそっ!!」
光一は翔からも逃げるように階段を
駆け下りていった。
その後姿を黙って見送る翔であった。
「高村くん……」
そんな翔に近づいて沙羅は静かに
声をかけて来た。
翔は沙羅の方に振り返り、頭を掻きながら
申し訳なさそうに答えた。
「沙羅…ごめんな? こないだといい、
別に聞こうと思っていたわけじゃ
ないんだけど……」
「いいのです。 光一さんとの話が
こじれてしまった場合は高村くんへ
相談にうかがおうと思ってましたから」
沙羅は微笑みながら翔に答えた。
翔もそんな沙羅に笑いながら返事をした。
「そっか、ありがとう。でも沙羅、やるね」
「え?」
「感心したよ。
一人の人間としての自分、か……」
真面目な顔で言ってくる翔に
沙羅は俯き照れたように言ってくる。
「や、やだ……やめてください」
「だけど。わかってくれるといいな、中条」
翔は照れる沙羅を見てから、もう一度
誰も居なくなった階段を見つめながら
ボソッと言った。
「…………そうですわね。
光一さんも、中条家に縛られてなければ
いい人なので――」
沙羅も翔と同じように階段を見つめ
ボソッと呟いていた。
・
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「さて授業も終わったことだし、今日は
バイトもないから伸でも誘って
なんか食いに行こうかな?」
授業が終わりカバンに荷物を詰めながら
伸の姿を探す翔。
伸はコソコソと隠れるように教室から
出て行こうとしていた。
翔はそんな伸を追いかけて後ろから
声を掛けた。
「伸っ!」
伸はビックリしたように慌てて
振り返ってきた。
「なに? なんか用?」
焦るように翔から視線を外して返事を
する伸であった。
無造作に小脇に抱えていた自分のかばん
を持ち替えようと手を動かす。
ポト…
その時、伸のポケットからが白い封筒が
床に落ちた。
ヒョイ
「ん? なんだこれ?」
翔は何気なくそれを拾い上げ伸に
渡そうとする。
「俺宛の……手紙?」
そこには「高村翔へ」と翔の名前が
書かれていた。
「悪い。すっかり忘れてた。
それ、下級生の女の子がおまえに
渡してくれってさ」
その手紙を手に取りまじまじと見る
翔に対し、引き攣りながら聞いてもいない
手紙を持っていた言い訳をしはじめる
伸であった。
「…………あのなぁ…」
翔は手紙を持ったまま腕を組んで
伸を呆れたように見ながら話す。
伸はビクビクと翔の顔色を
見ながら誤魔化すように言ってきた。
「まあいいじゃん。
おもいだしたんだからさ」
「思い出してないだろ?
ったくしょうがない奴だな」
翔はハァーと大きく溜息を吐いて
伸に向かって文句を言おうとする。
「で? なんて書いてある?」
しかし伸は興味津々と言った様子で
翔に手紙の事を聞いてきた。
「は?」
「ラブレター?「あなたが好きです!」
みたいな熱烈なヤツ?」
「読んでないのに、わかるかよ!」
おバカな伸の質問に思わず突っ込む
翔であった。
伸は翔のツッコミを聞いて安心したように
ニコニコと笑って翔に近づいてくる。
そして、翔の横に並び手紙を見てから
言ってきた。
「んだよ、はやく開けろよ?」
「え? ここで?」
思わず伸の顔を見て、素で返事をする
翔であった。
「ああ」
伸は真面目な顔で頷いている。
「なんで?」
「なんでって、気になるだろ、かわいい子
だったから」
翔の質問に伸は真剣な目を翔に向けて
言ってきた。
伸の眼差しにつられたのか、翔も真剣な顔
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「かわいかった?ストライクゾーン、
入ってる?」
「もちろん。
真ん中やや高めって感じかな?」
伸は手を力強く握り締め、大きく頷き
ながら答えてきた。
翔は両腕を組み大きく頷いて伸を見て
聞いてきた。
「ほほお……じゃ、伸のリストに
新しい子が加わったわけだ」
「当たり前だろ。ソッコウで名前聞いたし。
一年の吉田今日子ちゃん」
翔の質問に伸はニヤリと笑って答え、
翔は心底感心したように声を漏らす。
「は、はやいな……」
「手紙、見ないの?」
伸は自分の瞳をウルウルさせて
翔の顔を覗き込むように聞いてきた。
「…………わかったよ」
翔は諦めたように大きく溜息を吐き
その場で手紙の封を切った。
ビリッ
ガサガサ…
「なあ、なんて書いてある?」
翔が取り出した手紙の内容を確かめようと
身を乗り出して覗き込んでくる伸。
翔はゆっくりとその便箋を開き
その内容を口に出した。
「待てって……。
え~と「第二剣道場に来い」か」
翔の言葉を聞いて驚く伸は文面を
確かめてから翔の方に振り向き聞いてきた。
「は? 来い? なんだそりゃ?
ラブレターじゃないの?」
「……俺に聞かれてもな」
翔は自分の顎に手を当てて考えるように
答える。
頭の中には今日の昼に会った
あの男の顔が浮かび上がっていた。
「でも、女の子からだぜ?
文字も……女の子の書き文字っぽいし」
伸は翔から便箋を奪い取りまじまじと
文字を確認しながら言ってきた。
翔は真剣な顔でその手紙を見ていた。
(多分、中条からの呼び出しだろう。
第二剣道場か……まあ、格闘するには
もってこいだな…)
「あっそうか。わざとそういう文面と
場所を使ってってこと?
なるほど、奥ゆかしいねぇ」
伸はポンと自分の手を叩いて
納得したように言って来た。
「なに言ってんの……」
その話を聞いて呆れたように伸の顔を見る
翔であったがその目は笑っていなかった。
伸は自分の腕を組みウンウンと
頷きながら言ってきた。
「いいよなぁ~。
あんなに可愛い子から告白か~」
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翔はその手紙を持って伸に片手を上げてから
教室から出て行った。
「はぁ~、なんで翔ばっかり……
おい、あとで話聞かせろよ?」
うしろで嘆く伸を無視して、
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教室から出ていった。
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